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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
三章.呪われた七人の子供達
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48.語るまでもない

【魔暦593年07月02日19時20分】



「誕生日、おめでとう!!」



 生まれて来てくれて、ありがとう。モニ・アオストを産んだ女性、ヴァニ・アオストは全身でそれを表現した。僕は貴方を母親だとは思っていないのに、彼女は笑顔で喜ぶのだ。



 僕が何か努力したわけでもない。成果を残したわけでもない。それでも、生まれてきたというだけで祝福される、奇妙な日が一年に一回ある。



 誕生日。



 その祝日のことは嫌いだった。無条件で祝われるのと同じく、「ありがとう」とお礼を言う必要があるからだ。そちらが何かしたわけでもないのに、善意の安売りをしている、そう考えてしまう。

 何も考えずに、祝いの言葉を告げる奴らが嫌いだ。お前たちは何もわかっていない。



 だってお母さんは死んだんだ。もう、誕生日を祝うことすらできない。それなのに、誕生日はやってくる。無責任に祝うんじゃない。



ーーなーんて、拗らせすぎだろこいつ



 七連続女性刺殺事件の直後、僕は中二病を拗らせていた。実際に中学生だったというのは置いておいて、本当に病んでいたのだ。『生』という言葉に強いコンプレックスを抱いていた。


 


 その呪いは、自分自身が死ぬことで呆気なく解かれた。今となっては、生きていることに日々感謝しているのだ。僕の誕生を祝う家族にこちらからお礼を言いたいくらいだ。



ーー僕を産んでくれて、転生させてくれてありがとう



 まあ、実際に両親に言ったことはない。小っ恥ずかしいし。

 それに、語るまでもなく僕の感謝は伝わっているはずだ。



***



 突然だが、皆さんは知っているだろうか。

 誕生日を祝うという文化は、最近生まれたものだということを。



 日本には、かつて誕生日を祝う文化は存在しなかった。クラッカーでパーティーを盛り上げることはないし、ケーキに蠟燭を刺すこともなかった。


 といっても、年齢という概念がなかったわけではない。日本には「数え年」という年齢の数え方があった。1月1日になると、全国民が一斉に年を取るというものだ。



 つまり、全員が同じ誕生日だったため、その日は特別でもなんでもなかった。お互いの誕生を祝う必要はないのだ。


ーー「新年あけましておめでとう」はあったのか?

ーーお互いの誕生日を祝っていた可能性はあるけど

ーーまあ、そんなことはどうでもいい



 それが、19世紀初頭の話だ。

 戦後、西洋の文化が流れてくるにつれて、誕生日を祝う風習も浸透してきた。個に注目し、誕生日を祝うようになった。誕生日を祝うということは、100年もたっていない歴史の浅い風習なのだ。


 このように、『誕生日おめでとう』という何気ない一言でも、深堀れば歴史を学ぶことができる。言葉というものは、本当に面白い。


 ほかにも、日本語についての歴史は深くある。漢字は五世紀に中国から伝わったものだし、仮名は平安時代に生まれた。調べれば調べるほど、頭が良くなった気がする。


 歴史があって、言葉がある。大学時代、日本史を少しでも学べばよかったと今更後悔する。日本語の歴史について学びなおすことはもうできないのは、少し寂しい。



 話を現代に戻そう。



 時は、19世紀でも西暦2023年でも何でもない。

 魔暦593年7月2日、19時20分。正確には、四百四十三万五百九十三年だ。

 地球で四百万年前というと、旧石器時代か?初めて猿人が生まれたのが、そのあたりだった気がする。つまり、日本人どころか、誰も言語を発していない時代だ。

 『奇跡の子』が初めて魔法を使った日が最初。その日から魔暦を数え始めて、四百四十三万五百九十年もたった。魔暦は、その分の歴史が詰まっているのだ。



 それほど長く続いている文明が、どのような言語を使っているか。気になってしまうだろう。

 多種多様な文化によって構成され、いびつな言語形態になっているのかと思えばそうではない。



「誕生日おめでとう」

「おめでとう!モニちゃん、オル」



 ヴァニと、オルの母親は口を揃えて誕生を祝った。殺人事件や拉致監禁などを知らない、いい笑顔だった。子供たちの誕生を祝う、純粋な母親の愛を、僕たちはくすぐったそうに受け取った。



 そう。パラス王国の主要言語は日本語である。

 



 この世界は、唯の異世界ではない。




 日本のパラレルワールドだと、僕は結論付けた。


 


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