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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
二章.翼をください
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43.雪山山荘殺人事件4(2023)

【西暦2023年02月02日00時10分】


 

 自身の出自や、七連続女性刺殺事件当時のことを話せる限り話した僕たちは、用意されていた自室へと解散した。

 質素な机とベッドは、雪山にしては暖かいものだった。


 僕はぼうとしながらベッドに横たわり、天井を見ていた。



 その時、山荘中に響き渡る女性の叫び声。僕はその声がマキのものだと分かった瞬間、部屋から飛び出した。




 第一の殺人はキッチンで行われていた。




 胸部に赤い柄の包丁の刺さった村田アイカが、地面に倒れていた。心臓に到達しただろうその刃は、彼女の命を確実に奪っていった。

 第一発見者のマキを支えながら、他の面子の到着を待った。


 警察を呼ぼうとするも、山荘全体は圏外だった。仕組まれたかのように吹雪が吹き、下山は不可能だった。



 僕たちは、山荘に閉じ込められたことを悟った。そして、この山荘に集められた目的が、七連続女性刺殺事件の再現をしようとしているのだとわかった。



 村田アイカの死体は、僕と立花ナオキで彼女の部屋に運んだ。滴る血液や冷たい皮膚が、8年前に死んだ母親を想起させた。


 その後、リビングに集まった僕たちは再び話し合いを始めた。


 犯人は誰か、動機、殺害方法。

 

 話し合いは机上の範疇を超えず、時間だけが過ぎていった。吹雪はやむ気配がなく、僕たちの精神をすり減らした。

 その後、自分の部屋に戻ることになった。翌日の10時から再び集まり、この状況をどう切り抜けるか話し合う約束をした。


 僕はパニックになっていたマキの部屋に同行し、彼女の部屋で一晩過ごすことにした。



生存者、残り6人。


***

【西暦2023年02月02日10時00分】

 雪山山荘2日目の朝。


 結局、一睡もすることはできなかった。どんな悲惨な事件が起きても、朝はやってくる。震えるマキを支えながら、リビングに向かった。


 僕たち6人は、一致団結することを誓い合った。外部の犯人を見つけ出し、捕まえる。吹雪が止むまで必ず生き残ると。


 平井ショウケイだけは、「勝手にやらせてもらうぞ」と言ってこの場を離れた。それでも、山荘の外に行くことは叶わないので、失踪するようなことはなかったが。

 

 山荘の探索、周囲の偵察を行ったが、何の手掛かりも得られないまま時間が過ぎ去っていった。山荘の冷蔵庫には、なぜか食料が大量に用意されていたので、マキが料理をふるまった。

 この時点で、僕とマキだけが身の潔白を証明することができた。マキはもとより大学内では有名人だったし、鬼塚ゴウを追っていた佐藤警部も有名だった。その息子である僕とマキの二人組は、行動指針の一つになった。

 

 明日の朝には吹雪が止んでいるだろうと淡い期待を胸に、各々の自室に戻っていった。



***

【西暦2023年2月3日01時10分】

 僕がぼんやりと天井を見つめていた時、突然マキはベッドから降りた。

「何か、変な音がする」それだけを呟いて、彼女は部屋を飛び出した。



 慌てて追いかけた僕が見た光景は、信じがたいものだった。玄関で立ち尽くすマキの先に、二人目の被害者、如月ランの死体があった。

 驚愕に満ちた顔のまま死んだ如月ランの胸部には赤い柄の包丁が刺さっていた。



 生存者の5人は、再びリビングに集まった。立花ナオキと僕は、如月ランの死体を彼の自室に運んだ。死体を運ぶことが、何度もあるなんて思ってもみなかった。体の持つ位置や、汚れない触り方などいらない知識だけが増えていった。


 平井ショウケイは興味なさそうにあくびをし、自室に戻っていった。


 

 「俺が夜の見張りをやる」、立花ナオキのその言葉は僕たちの心を奮い立たせた。彼こそが、この状況で頼りになる唯一の存在だった。



 外部犯なのか、内部犯なのかわからない。それでも、殺人鬼は『夜に赤い包丁で殺す』ということだけは徹底しているようだ。


 

 一人で見張りを任せることに不安を覚えたが、僕は立花ナオキすら怪しいと思ってしまった。僕が信じられるのはマキしかいない。

 僕らは彼の言葉に甘え、自室に戻った。泣きじゃくるマキの背中をさすっているうちに、僕は寝てしまった。



生存者、残り5人。

***

【西暦2023年2月3日10時00分】

 雪山山荘3日目の朝。

 


 再びリビングに集まった僕たちは、徹夜で見張りをしていた立花ナオキを自室に戻した。一人行動する平井ショウケイを放置し、青木ユイと3人で屋敷の捜索を始めた。

  


 青木ユイは、意外と話ができるやつだと分かった。おどおどしていたのも最初だけで、次第に僕たちとも打ち解けてきた。

 同じ大学ということもあり、共通点が多かった。雪山山荘から下山できたら、一緒に食堂に行こう、なんて話もした。



 結局、手掛かりは何も得られず。




 18時を過ぎた頃、立花ナオキが自室から出てきた。今夜も見張りを任せてほしいという彼は、正義のヒーローに見えた。


 マキと青木ユイが夕食を作り、振る舞ってくれた。平井ショウケイも仏頂面で食事を口に入れていた。


 マキがつくる料理にこれほど感謝したことはない。彼女がいるだけで、僕はくじけないでいる。彼女を守るためにも、殺人鬼を探さなければならないと誓った。

 

 その夜も立花ナオキに見張りを任せて、僕たちは部屋に戻った。



***

【西暦2023年02月04日09時45分】

 雪山山荘4日目の朝。


 山荘の一人部屋に二人で寝ることが間違っているのは仕方がないが、ソファで寝るのに慣れることはない。


 といっても、寝心地に文句を言えるほど贅沢な状況でもなかった。『目が覚めた』ということに感謝するべきで、そもそも寝れるような精神状態でもない。

 疲労による気絶というのが正しいか。



「マキ、起きてるか?」

「…、うん」



 布団にくるまって、頭だけをこちらに覗かせる妹の姿を見て、安堵のため息を吐く。部屋には鍵がかかっていて、吹雪の中窓から侵入も困難。故に、起きてどちらかが死んでいるなんて展開は考えられない。

 それでも、『目覚めたら妹の胸部に赤い柄の包丁が刺さっているのではないか』、そういう考えが常に僕を襲う。


 太陽のような女と例えられるほど元気だったマキは、見る影もない。目元は腫れ、目は赤く充血し、常に泣いているかのようだ。



「お兄ちゃん、もう少しここにいてほしい」

「ごめん、マキ。立花に心配をかけてはいけない。顔を洗ったら、行こう」

「わかった」

「それとも、残るか?立花たちと話したらすぐに戻ってくるけど」

「いや、私も行くよ」



 窓の外は白一色。舞い上がる雪が風に乗って狂ったように飛び回り、地面はとっくに見えなくなっていた。雪の壁が窓ガラスにぶつかる音が脳内に響き渡る。


 

 重く気怠い体を叩き、僕たちは布団から出た。


 しかし、集合時間通りにリビングについた僕らを待つ人は誰もいなかった。

 

「立花?」


 夜通し徹夜で見張りをしている彼の姿は一向に見えない。それどころか、悪態をつく平井ショウケイも、憂鬱そうな青木ユイも、誰も来ない。

 数10分たっても誰も来ないので、僕たちはしびれを切らして山荘の探索を始めた。


 彼らの部屋をノックしても何も帰ってこない。

 トイレは空、娯楽室にも、書籍にも、ほかの小部屋にも誰もいない。


 その後も、僕たちは山荘を探し回ったが、彼らの姿はどこにも見当たらなかった。ただ、異様な静寂だけが部屋を埋め尽くしていた。


 お腹を空かせた僕たちはリビングに戻り、食事を求めてキッチンに足を踏み入れた。



「何だと…」




 そこには、目を疑うような光景が広がっていた。キッチンの床には、赤く染まった三つの人体が無造作に横たわっていた。


 立花ナオキ、青木ユイ、平井ショウケイの3人が全身を赤に染めて倒れていた。3人とも、赤い柄の包丁が胸部に突き刺さっていた。


 その風景は、彼らがただ死んでいるだけでなく、違う事実を示唆した。



 この屋敷には、僕とマキしかいない。




 生存者、残り2人。



【『00.呪縛転生』へ続く】



訂正

最初の被害者:村田アイカ


 

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