42.雪山山荘殺人事件3(2023)
あの日。
僕が、佐藤ミノルが死んだ日。
呪縛とともに、モニ・アオストに転生した日。
これが転生者の特性なのかもしれない。前世の記憶は、異常なほど鮮烈に蘇る。それはまるで、記憶領域がモニの脳とは別の場所に存在しているかのようだ。
いうなれば、前世の記憶は魂に刻まれている。どれだけ忘れようとしても、決して消え去ることのない記憶だ。
僕が死ぬまでの記憶を話そう。
雪山山荘に集められた7人の呪われた子供たちの話と、彼らの最期の瞬間を。
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【西暦2023年02月01日16時50分】
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2月1日17時
山荘にて待つ
鬼塚ゴウ
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僕とマキが受け取ったのは、無地の封筒に入った手紙だった。その手紙の差出人、鬼塚ゴウは、八年前の七連続女性刺殺事件の末に、山から転落して命を落としていた。
死者からの手紙。山荘に一人で向かうマキを心配に思った僕は、彼女の後を追うことになる。
マキと合流した僕達は、手紙の指示に従い目的地の山荘に向かった。周囲の木々には雪が積もり、吹雪が襲いかかりそうな厳しい天候の中を進んだことを、僕は鮮明に覚えている。山頂に近づくにつれて足跡が増え、それが山荘の位置を明らかにしてくれた。
鬼塚ゴウが生前最後に目指した場所である山荘は、思ったよりも大きかった。木製の屋敷で、全長二十メートルほどだ。
鬼塚ゴウが崖から滑り落ちたこともあって、立ち入り禁止の看板が無数に立っていた。山荘は古びていて誰かが管理している様子はなかった。
木製の扉を開けると、部屋の中から温かい空気が流れてくる。電気はかろうじて流れているようで、扉の奥から光が漏れている。どうやら、すでに先客がいるらしい。
山荘の中は広々としており、リビングとキッチンが一体となった大きな空間が広がっていた。その奥には、いくつもの扉が並んでいる。山荘というより、どこかの金持ちの別荘と言われた方がしっくりくる。
リビングの真ん中にある、大きな円卓。そこには既に、5人の男女が座っていた。僕とマキは顔を見合わせて、一番手前の席に座った。
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【西暦2023年02月01日17時00分】
最初に自己紹介を始めたのは、金髪で少し軽率な印象を与える男性、如月ランだった。彼は自身の年齢、大学名、そして所属するサークルを明らかにし、「よろしくぅ!」と元気に挨拶した。彼の楽観的な態度は、僕にとっては少々苦手なタイプだった。
彼は「ここで会ったのも何かの縁だぜ」と言い、笑顔を見せた。
如月ランが隣の女に話を振り、時計回りで自己紹介をする流れが生まれた。
2人目は根暗な女、青木ユイ。奇遇にも僕達と同じ大学出身だった。といっても、僕は見たことがなかった。目元は前髪で隠れてよく見えないので、大学内で会ったことがあっても記憶には残っていないだろう。
彼女はぼそぼそと自身の出自についてしゃべった後、きょろきょろと周りを見ていた。
3人目はポニーテールに明るい目元をした女、村田アイカ。隣の青木ユイとは対照的で、ハキハキと明るく元気に自己紹介をした。体育会テニス部の部長をやっているのも、納得な雰囲気だった。マキと話が合いそうな人がいたので、少し安心した。
4人目は短い茶髪の男、立花ナオキ。屈強な体格に、誰にも好かれそうな優しい笑顔はイケメンと言っても差し支えないだろう。
こちらも体育会のサッカー部に入っているそうで、体力には自信があるそうだ。隣の僕にやたらと話しかけてきて、すぐに打ち解けた。コミュニケーション強者とは、彼のことを言うのだろう。
5人目と6人目は、僕とマキだ。無警戒にも程があるが、マキは僕たちが家族であると話した。また、青木ユイはマキを何度か見たことがあると言っていた。
7人目は終始無言を貫いていた男、平井ショウケイ。黒の短髪に眼鏡と、陰気な雰囲気をしていたが、口を開けば印象が変わった。
有名医学部在学中の医者の卵。最低限の個人情報を述べた後、偉そうに足を組んだ。
自己紹介が一通り終わった後、ここに至るまでの経緯をそれぞれが話し始めた。鬼塚ゴウからの手紙、雪山山荘の実態、ここにくるまでの雪道…、大体が同じ内容だったが。
この時点で、僕たちは皆、この7人が何の集まりなのか察した。
ここにいるのは、七連続女性刺殺事件で母親を亡くした子供達だ。
全員、鬼塚ゴウの手紙に釣られてこの山荘に訪れた。自分の母親がなぜ死ななければならないのか、差出人の狙いは何か、さまざまな目的でここに集まった。
嫌な緊張感が流れる。そんな中、仕切り始めたのは意外な男だった。
平井ショウケイはつまらなそうにため息をついた後、高らかに声をあげた。
「主催者が誰かは知らんが、俺はくだらない馴れ合いをするつもりはない。さっさと鬼塚ゴウについて、話し合おうじゃないか」




