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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
二章.翼をください
33/155

32.家族にしかわからない2

【魔歴593年07月02日12時12分】



「ルミは計画性は無いし、危機感もない。すぐに手は出るし、諦めも悪い。戦争では、こういう奴が一番最初に死ぬんだよ」



 父さんの言葉が鋭い矢のようにあたしに突き刺さる。

 戦いでは駆け引きや引き際が重要になる。戦争なんて知らない、平和ボケしたあたしでもわかる。


 私にはそれが一つもない。思いついたらすぐに行動し、障害は全て破壊する。それが私のスタイルだ。自分では長所だと思っていたが、今の状況は裏目に出た。


「でも、あたしにはモニがいる。計画性と危機感の塊のようなやつだし、線引きがめちゃくちゃ上手い。あいつがいるから、ここまで無邪気に生きていたんだ」


 真逆な性格であるモニがいたから、あたしは暴力女であり続けたのだ。最強のコンビだという自負もある。だから、これから先も二人で困難を乗り越え…。

 そんなあたしの考えを知ってか、父さんは深いため息をついた。



「ルミ、いい加減モニちゃんに依存するのはやめろ」

「依存!?してない!あたしは達は対等だ」

「交友関係に口を出すつもりはないが、今のお前は思考を停止しているだけだ」

「あ、あたしだってちゃんと考えてるよ!」

「それに、今回はそのモニちゃんが問題なんだよ」



 話題が突然親友に向けられ、あたしは再び驚く。父さんは目を細め、顎をさする。



「モニちゃんは何か重要なことを隠している。いや、というより、殺人事件について何か気がついてしまった、という方が正しいか」

「う」



ーー父さんは、モニが異人だという事を知っているのか?


 そう考えたが、すぐに自分の考えを改める。

 魔法学院は異人という存在を否定する。父さんもまた、異人は精神病の一種だと切り捨てるような思想の持ち主だ。

 昨夜、モニと父さんは事情聴取で話し込んでいる。つまり、その時の様子で、彼女が何か事件に関わっていると予想しているだけだ。

 鋭い洞察眼だし、実際合っている。幸い、モニが犯人などと勘違いしている様子だったが。




「彼女の性格からして、犯人を探すだろう。一人で何でもできる器用な子だ。だがな。モニちゃんは聡明だが、だからこそ今回は危ない。彼女は、犯人にたどり着いてしまうだろう」

「い、いいじゃん。捕まえられるなら。それにこしたことはないんじゃ」

「今回の事件は、魔王が引き起こしたと言っているだろう。モニちゃんが魔王と出会ってどうなるかなんて、言わなくてもわかるだろう」


 瞬殺、だろう。

 所詮モニは暴言女だ。対話が通じない相手には、彼女は無力なのだ。例え、殺人鬼が前世の妹だとしても、どうなるかわからない。

 それに、魔王に生まれ変わったとしたら、それは人間なのだろうか。魔物の王という事もあって、まともな思考回路をしていないのかも。 


 父さんは深い溜息をつきながら椅子に沈み込む。あたしの胸はぐっと締め付けられ、口から出る言葉はどれもが空振りになってしまった。

 

「父さん、だから…」


 言いたい事は山ほどあった。だけど、口から出てくるのはどれもがもどかしい言葉だけだった。


「だから、何だ?」


 父さんの視線が厳しくあたしを貫く。咄嗟に目を逸らした。彼の目が訴えるもの。それは期待と失望、そして何よりも愛情だった。



 の心情が徐々に理解できてきた。口では強く言っているが、彼が最初から私に伝えたかったのは一つのことだけだった。

 


ーー父さんの最優先はあたしとオルなんだ



 そこにモニは含まれない。家族のことを考えるので精一杯、そこまで警備隊は追い詰められているのかもしれない。

 

 父さんは重たいため息をつき、右手で額を覆った。その仕草が悲壮感に満ちており、私の心はさらに痛みを増した。



ーー家族、か



 あたしがパラスに行くって言ったら、あいつはどんな顔をするだろうか。軽く微笑んで、別れを告げるだけだろうな。止めることはしない。そして、一人で妹を探し続けるのだ。妹の殺意の意味を、家族の絆の審議を確かめるために。

 そう。これは、家族の話なのだ。


 父さんを見上げ、まっすぐに目を見つめた。それはもう、逃げるのを止めて立ち向かう、あたしの決意の証だった。



「だからこそ、父さん、あたしはモニの側にいるべきだと思う。彼女が危険な場所に向かうと知っていて、パラス王国に逃げるなんてできない」


父さんもまた、あたしのことをわかっているのだろう。あれだけ話したとしても、あたしの気持ちが変わらないことを。

 僅かな望みにかけて、あたしを説得しようとしたのだ。

 呆れと悲しみの混じった表情を浮かべ、本日何度目かわからないため息を吐いた。



「はぁ。まあ、そう言うとは思っていたが。気が変わることはないのか」

「無い。それに、あたしが一回死ぬなら、モニなら百回は死ぬだろうな。あいつは雑魚だから」



 あたしは固く口を結び、父に宣言した。



「絶賛反抗期中なんだよ。あたしはヘルト村に残るぜ」



 言い終わると、私は背中を向け、部屋の外に向かった。



「笛だ」


 父さんの声があたしを引き止めた。

 振り返ることなくあたしは胸元に垂らした白い笛を見る。これはあたしが最初に見つけた異物で、一番大切なものだ。

 直後に、全身にふわりと魔法がかかった感触があった。背後から、掛けられたようだ。


「転移魔法だ。最悪笛を鳴らせ。この村の中だったら、いつでも俺を呼べる。ルミが一回死ぬ程度の危機ならば、なんとかできるだろう。が、無理はするな」



 その言葉に、あたしはくすっと笑った。



「にひひ。じゃあ、父さんが風呂に入ってる時に呼んでやるぜ」



 「やめてくれ」と言う情けない言葉が扉の向こうで聞こえたが、あたしは無視した。


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