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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
一章.呪いは続くよどこまでも
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22.山道散歩2

【魔歴593年07月02日07時40分】



 白に包まれていて、見たこともない輝きを放つ謎の異物。多数の目撃情報があるにも関わらず、誰もその実態を知らない。

 異物協会は、その異物を『ロスト山の天使』と名付けた。異物ハンター達は、前例のない異物に注目して、ロスト山に集まっているらしい。と言っても、ロスト山は広い。ヘルト村の反対側にある村や町に、ハンターは集まっている。



 山道に足を踏み入れた僕たちは、ぐんぐんと前に進む。この辺りは放課後の異物探索で何度も来ているため、迷うこともない。

 ルミは「今日は一日中、ロスト山探索日だ!」と言ってはしゃいでいた。やっぱり、彼女は遊びたいだけのようだ。



 僕は遊ぶつもりはない。本気で『ロスト山の天使』を探しにきた。というのも、噂が流れ始めたのは殺人事件が起きる直前の出来事だからだ。

 マキがどういうつもりで、殺人を始めたのかはわからない。衝動的か計画的か。彼女の性格上、どちらでもありえる。

 だが、イアム・タラークがロイやルミのような強者だったらどうする。殺人が成功する可能性は途端に低くなる。

 つまり、ある程度下調べをしてるという事だ。。少なくとも、殺す相手と場所、時間は決めているはず。




 殺人があった、7月1日の夕方より前。当日計画建てたとは考えにくいから、もう少し前か。



 そこまで考えると、途端に『ロスト山の天使』が怪しい。


 なんせ、異物関連だ。異人と深い関係にあるその情報は、転生の仕組みと関わってくる。例えば、その天使の影響で、マキの魂が漂流してきたら…、なんて考えたりする。

 転生では無く憑依的な考えだが、その方がしっくりくる。

 


 僕が小難しい顔をしていると、ルミが隣から顔を突き出す。


「あたしはな、ロスト山の天使こそが、モニの妹なんじゃないかって思ったわけよ!」

「それは…ないでしょ。異物に生命体は含まれないって」

「そうとは言い切れない!魂の漂流がモニによって証明されているということは、異物協会の考えなんて覆るぜ?だから、異世界から人が漂流してくることだってあるんじゃないのか?」



 異世界転移。これもまた、異世界転生と同系列だが意味合いが異なる考え方だ。地球にいた生身のまま、異世界に訪れる。肉体が異世界産か、地球産かの差だ。

 


ーー確かに重要だ。



 佐藤ミノルは死んで、モニ・アオストが生まれた。異世界転生の条件として、『地球で死ぬ』というのは必須だ。

 今まで考えても見なかったが、マキが転生しているということは、『入江マキは死んだ』ということになる。

 

 僕が転生してから十六年経った。パラス王国と地球で流れる時間が同じかはわからないが、順当に生きていればマキは36歳になる。


ーー彼女が死ぬ瞬間は想像できないな


 僕の心理的に、転移していた方が安心できるというものもあるけれど。村民の誰かにマキが転生していて、裏で人を殺しているよりかはマシだ。



「うーん。情報が少なすぎるわね。異人の情報も、仕組みも。異物がどうやって異世界から流れてきてるかわからない現状、この考えは無駄ね。どちらにせよ、ロスト山の天使を見つければいいわけだし」

「そういうことだ。よし!探索、探索ー!」



 と言っても、異物探索よりは難易度は低そうだ。なんせ、目撃情報によると相手は等身大の人間サイズ。山に落ちている万年筆サイズの異物より、動いている人間を探す方が容易だろう。


 

 僕たちはいつも歩き回っている道から外れ、本格的にロスト山を登り始めた。




***

【魔歴593年07月02日09時30分】



「それでさぁ。オルのやつが『欲しい!』なんて駄々こねやがってよー。父さんに異物探索してるのバレたらヤバいから一発殴って黙らせたんだけど」

「ルミ…、弟殴るのそろそろやめなよ…」

「良いんだって、あいつは頑丈なんだから。でも、オルのやつ、今回は諦めが悪くてよ。『欲しい欲しい』の一点張りで、参っちゃったよ」

「まあ、万年筆はかっこいいからねぇ。男の子は好きなのかもしれないね」



 僕たちは1時間程真面目に探索していたが、すぐに集中力は切れてしまった。今では、ルミと雑談をしながらお散歩している状態だ。

 ルミは光沢のある黒い万年筆をベタベタと触りながら、ため息をつく。昨夜、彼女が見つけた異物は、弟に人気だったらしい。普通ならば、「だから、弟にプレゼントしたのさ」という美談が繰り広げられるが、彼女の手には未だに万年筆がある。


 欲しいと言われたら殴って黙らせ、それでも欲しがったから殴って気絶でもさせたのだろう。オチも何もない、最悪なエピソードだ。スタウ家の家庭内環境は恐ろしいから関わりたくない。

 まあ、オル少年はあれでお姉ちゃんが大好きなようだ。姉弟問題は、家庭で解決してもらいたいものである。



 そういう雑談を繰り返していたら、かなり高い位置まで来てしまった。ロスト山は警備隊の許可状が無ければ入らない危険地帯なのは当然だが、僕たちがいる場所はより危なそうだ。

 一歩間違えたら、転がり落ちて死んでしまう。


 日本に住んでいた時に、マキと一緒に観光名所の登山に行ったことがある。山頂から見下ろす街並みは綺麗で、二人で鍋焼きうどんを食べた記憶がある。


 だが、今思うとあれは山ではなかったのだ。

 真の山というのは、舗装も全くされていない。観光名所でもないので、人が歩いた痕跡もない。つまり、道がない。


 獣道というのだろうか。大型の魔獣が歩いた後をこっそりと通り、山頂を目指すしかない。


 ロスト山の天使の情報は少なすぎる。この山にいるという情報だけで、探すのは困難だ。

 だから、「天使は高いところにいるだろう」という浅い考えのもと、山頂に登っているのだ。



「あ、モニ、これ持っといて」

「うん?」



 ルミは僕の方に顔を向け、ポイと何かを投げる。慌てて受け取ったそれは、彼女が大切にしていると力説していた万年筆だった。

 どうしたの、と言葉を告げようとした時には、彼女は消えていた。文字通り、ぐにゃりと空気に溶けていくように、消えた。



 直後に響く揺れ。思わず地震かと思うほどのそれは、すぐにおさまった。突然のことに口をぽかんと開ける僕の後ろから、トントンと肩を叩かれる。



「まずいことになった」



 いつのまにか後ろに立っていたルミは、ため息をつく。何が起きているかは、彼女の後ろの光景を見た瞬間にわかった。



 茶色の巨大な生物が倒れていた。太陽光に反射して輝く光沢のあるゴツゴツとした皮に、鋭い爪、四肢、全長3mは超えるその生物に、頭部はついていなかった。否、『今は』頭部がないという方が正しい。

 その熊のような魔獣は首から上が吹き飛んでいた。獣臭い匂いを撒き散らしながら、血を流す。なんだか、毎日血を見ているような気がする。



 


 ルミの右手からは、小さな稲妻のようなオーラがバチバチと漂っている。彼女が背後の魔獣を殺した事は明白だった。



「な、ナイス。全然気が付かなかった」

「モニ。あたしの側から離れるなよ。7、8…、いや、9体はいる。囲まれた」


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