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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
一章.呪いは続くよどこまでも
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21.山道散歩1

【魔歴593年07月02日07時20分】



 気がついたら屋敷の自室に戻っていた。

 父親が運んでくれたのだろうか。寝巻きにも着替えられてたし、口の中もスッキリしていた。至れり尽くせりである。

 朝早く目が覚めた僕は、すぐに風呂に入った。魔道具によってお湯が湧き出る風呂は、地球の浴室よりも快適だ。『物体の湿度を適切に保ちながら乾燥させる』という、ドライヤーの結果だけを残した魔道具なんて物もある。

 髪の毛が長い僕にとって、魔道具による自動化生活は快適すぎた。



 2023年の地球でも、DX化やらRPAやら自動化推進が進められていた。魔歴593年のパラス王国でも同じ流れが起きている。

 魔道具による自動化。魔法を自分で組んで発動する時代はとっくに終わっている。

 過程はどうあれ、どの世界でも人類史の行き着く先は同じなのだ。




 登校の準備をさっさと終わらせ、身だしなみを整える。目元の腫れも引いていて、着崩れもなし。



ーーよし、今日も最高に可愛いぞ、僕



 自己肯定感も、問題ない。昨日は取り乱したが、今日は安定している。



「行ってきまーす」

「行ってらっしゃーい」

「…」



 いつものように、母親の声が屋敷の奥から聞こえる。僕の母親はいつも明るくて元気で、今日と変わりない様子。元気なのは良いことだ。

 余談だが、意識的に僕は母親を避けている。今まで僕が母親について語ったことがないのはそのせいだ。理由は、話したくない。察してほしい。




 さて、今日も今日とて、義務教育に縛られに行くぞー。

 両開きの扉を勢いよく開け、外に飛び出る。そのまま駆け出して行こうとした僕の視線は、外の光景に奪われた


 緑の海の中心に半裸で剣を振るう男がいた。ロングソードを片手で振り回し、汗を日光に反射させる。屈強な肉体は男だったら憧れただろう。

 断じて変態ではない。僕の父親である。



「おはよう」

「お父さん、おはよう」

「今日くらい学校休めよ」

「いやいや、今休んだらマキにバレちゃうよ。動揺してますーって」


「そういうもんなのか?まあ、ルミちゃんから離れるなよ?」

「もちろん。二人に守ってもらいますよん」



 それじゃ、と僕は手を振る。

 今日のモットーは、「普通」だ。ビビらない、焦らない、疑わない。何かあっても、ロイとルミが何とかしてくれる。僕は普通であることが大切だ。

 何ならスキップでもしながら学校に行こうか。


 僕が左右どちらの足からステップを踏むか考えていた時、背後からロイの声が耳に届く。



「イアム・タラーク」



「誰?」

「昨夜殺された女性の名前だ。大広場の露店で果物を販売していた。俺も何度か喋ったことがある。最近結婚もした」

「…」

「万が一に備えて、母さんには家から出るなって言ってある」

「む」



 ロイが考えているのは、今回の殺人は『八年前の七連続女性刺殺事件』と同じ、子持ちの母親を対象にしている、という可能性だ。だとしたら、僕の母親も例外ではない。


 僕はマキのことで精一杯だったが、殺人というのは誰が殺された、という情報も重要である。犯人との関係性、当日の動きなど、調べなければならない事はたくさんある。


 機密情報をルミの父親から教えてもらったらしい。この情報は、イアムの家族と、魔法学院警備隊、そして僕たちだけしか知らない。

 と言っても、この小さな村だったら情報はすぐに出回るだろうが。



「警備隊はこの事を隠すそうだ。誰が死んだか、そもそも殺人が起きたということさえ、ラスが管理している。内々で事件解決に動くらしい。だが、俺たちはそれに従う必要はない。『入江マキ』を探すんだろう?」

「うん」

「それなら、俺はイアムについて調べる。何か手掛かりがあるかもしれないしな。何より、ヘルト村で二度と殺人は起こさせない。村長として、殺人鬼は許せない」


 そう言ったロイは、再びロングソードを振り回し始めた。昨夜の出来事を思い出す。彼は、扉を一瞬にして八つ裂きにし、僕の背後をとった。

 この男に狙われて、生きて帰れる人間はいるのだろうか。異世界剣士は想像を超えてくる。転生者が勝てる相手ではないとは思う。

 


「じゃあ、行ってきます」

「おう」


 

 だが、殺人事件は起きている。

 純粋な強さではない。相手は転生者。異世界の常識が通用しない、異人だ。

 誰がマキかわからない状況、これを解決することが最優先だ。



***



 アオスト邸からゆっくりと下っていると、大きな空気の振動が僕の鼓膜を震わせる。工事現場の横を通り過ぎるような、何かが弾けるような音が聞こえてきた。何かをリズミカルに叩きつけている、打撃音。

 と言っても、僕は警戒するつもりもなかった。音の中心にいる人物が誰がすぐにわかったからだ。


 赤い髪は激しく舞い、彼女の手から放たれる拳は最早見えない。森林の木々に打ち付けられたそれは、ついに大きな音ともに破壊をもたらした。

 人一人分ほどの大きな大木が、倒れる。赤髪の少女はその様子を見て、満足そうに頷く。振り返りざまに汗を拭きながら、こちらに笑顔を向けてくる。


「おはよう!」

「おー、、はよう」



ーーおいおい



 よくよく考えたら、僕のパーティは脳筋しかいなくないか?村一番の剣士と名高いロイに、暴力女と恐れられているルミ。

 二人とも、昨日の今日でやることは体のアップだった。鍛錬による自己強化。思考回路が同じだ。



ーーまあ、強いに越したことはないか



 護衛として付いてくれるなら、最適な二人だ。平和ボケしている僕が、落ち着いて脳みそを回せるのは、二人がいるお陰でもある。



「って、モニ、何だその服?」



 彼女は呆れながら僕の体に指を刺す。白いブラウスに紺色のスカート、つまりは制服なのだが、学校に行くのだから当たり前である。

 対して、彼女の服装はラフそのものだった。動きやすいパンツに、シャツ、異物の笛を首からぶら下げている。休日に遊びに行くときの格好だ。それも、激しい運動をするときの。



「『何だその服』は、こっちのセリフなんだけど」

「おいおい、学校に行くわけないだろ。父さんがもう休みの連絡入れてくれたぜ?だから、行きたくても行けないんだ」



 残念、と呟く彼女の頬は緩んでいた。魔法学の講義から逃れることを心から喜んでいる。

 


「でも、いきなり休んだらマキに怪しまれちゃうから」

「うるさいうるさい。もう休むことは決定したの。だから、今日はロスト山に向かいます」

「ちょっと、遊びたいだけなら一人でやってよね。僕はマキの手がかりを探さなきゃいけないんだから」

「人聞き悪いな。あたしが遊びたいなんて考えるわけないだろう。あの話、事件と無関係と思うか?」

「あの話?」



 ルミは真剣な表情で言葉を告げる。本当に、異物探索をしに行きたいわけではないらしい。



「白い動く異物の目撃情報が、つい最近あったって話だよ。『ロスト山の天使』。この話は、無関係だと思うか?」



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