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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
終章.エピローグ
143/155

142.殺人事件の続き1

【魔暦593年07月04日18時50分】


 人というものを語るにあたって、『どんな性格か』というのは外せない。特に、会ったことがない人に会う前には気になる要素だ。

 「良い人だよ」という答えを持ってきた人は、例外なく無視をすると決めている。見る角度によって変わる表現は、あまり適切ではないからだ。良い人じゃない人なんていない。少なくとも、誰かにとっては良い人だ。

 それは、殺人鬼に対してもいえるかもしれない。誰かに憎まれるということは、誰かに好かれることだ。



 閑話休題。所属する大学の中で最も知名度が高かった入江マキを妹に持つ僕は、『どんな性格か』という質問をよくされていたらしい。


 性格だけに正確に言うと、『マキちゃんのお兄ちゃんって、どんな人?』だった。



 それに対して、我が妹はこう答えていたらしい。



「どんな難問でも、解答欄に何かしらは書く人」



 ふむ。なかなか良い答えじゃないか、と僕は感心したのを覚えている。この答えだったら、どんな角度から見てもその人の性格を捉えられている。



 と言っても、大学内でその答えは不評だったらしいが。「なにそれ」と軽く笑われるだけで終わる。僕からしたら、マキの知り合いとは関わりを持ちたくなかったので、興味をなくしてくれてありがたい。



 とまあ、ルミと暗闇夜道をこうして歩いている間に、僕はつらつらと思考を巡らせていた。



 解答欄には何かしら書く。白紙でテストを提出したことがない。身の程知らずの東大受検ですら、僕は全ての欄を埋めるだろう。

 答えを直接言われるのが一番嫌いだ。謎は自分で解き明かす。それが、呪いの探究者たるモニ・アオストだ。


 さて。答え合わせの前に解答を見つけようじゃないか。自分なりの答えを、自力で解答欄に書こう。



 問一、鬼塚ゴウはなぜ通り魔殺人を行ったのか。

 問二、鬼塚サツキはなぜ雪山で殺人を行ったのか。



 動機というブラックボックス。その解明を、僕は行う。


 

 鬼塚サツキとして会うのは、これが初めてになる。雪山山荘の時ですら、彼女は青木ユイを語っていた。


 自分をひた隠しにし、コソコソと影に隠れる。

 しかし、殺人鬼は常に対話を求めていた。面と向かって、包丁を心臓に突き刺すことにこだわっていた。



「…」



 殺人鬼の性格を表すならば、「どんな難問でも、解答欄に何かしらは書く人」なのかもしれないと、僕は思った。



***

【魔暦593年07月04日19時15分】


 夜は深く、土砂降りの雨が上がったばかりだった。

ルミが照らす人工的な魔法光によって足元は照らされるが、それもまた現状の安全しか保証されていないことを暗示させられた。

 ルミから離れれば、僕は暗闇に飲まれて死ぬだろう。これから先は、そういう世界だ。


 

 濡れた大地を踏みしめながら、ゆっくりとラーシー宅へ向かって歩いた。山火事が去った後の土の匂いが鼻を突いた。雨に濡れた灰が、不思議なほど静かに僕らの靴下を染めていく。周りは静寂に包まれ、時折、遠くで風が地にあたる音が聞こえるだけだった。


 

 霧は次第に濃くなり、視界をさらに狭めた。ラーシー宅へ向かう一本道も、今や見る影もない。地雷は全て起爆したのか、大きな空洞が地を削っていた。僕らはその脇の炭を通りすぎた。


 ついに、そのラーシー宅の跡地に辿り着いた。もちろん、そこにはもはや小屋の形はなく、ただ黒く焼け焦げた土と壊れた木の枝が、無残にも横たわっているだけだった。雨に濡れた木の残骸からは、煙のような蒸気が立ち上っていた。


 

 その中に、一点の金が浮かんでいた。



 黄金の灯火。暗闇の荒野を照らす光。

 悪事を正す、正義の四人組が一人、スカー・バレント。



 彼は漆黒に合わせたかのような黒い襟付きの服で、僕たちを出迎えた。屈託のない笑顔で、僕らに手を差し向ける。



「行こうか。最後の異人に会いに」



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