138.追加演習3
【魔暦593年07月04日18時15分】
暴言女、モニ・アオスト
名門ラス家の長男、オル・スタウ
警備隊員、ラーシー
大広場の店員、イアム・タラーク
正義の四人組、スカー・バレント
代弁教師助手、クナシス・ドミトロワ
年齢の止まった勇者、ケイウィ・クルカ
そして、根源的破壊者、カウエシロイ
八番目の異人の存在を、ロイ・アオストは断言した。スカーや僕のような、『カウエシロイは異人……、だと思う』という可能性の話ではなく、事実の一つとして口にした。それも、何気ない会話の中でだ。
根源的破壊者ならぬ、前提をすべて破壊するような話だった。そもそも、呪われた七人の子供たちが、ヘルト村に転生したからこその七人の異人だった。その前提を覆すとなると、異人が七人でも八人でも、九人でも百人でも、千人いたとしても否定できない話だ。
それとも、雪山山荘に八人目の登場人物がいたとでも? それこそありえない。
佐藤ミノルと入江マキのみが生き残った一月四日。その後、僕が毒殺されるまで(勝手に死んだだけだけど)雪山山荘は探索しつくしていた。第三者、外部犯の可能性は僕自身が完全に否定できる。
あの事件の犯人は青木ユイ、それは間違いない。
「いや、別に違くて良いんじゃねーの? 父さんがカウエシロイを名乗っているかも、みたいな話を聞いて思いついた話なんだけど、青木ユイがケイウィ・クルカでない可能性って否定できなくないか?」
「いや、それはないよルミ。ケイウィ自身が、自分の前世は青木ユイだって認めているもの」
「そこは否定してない。だから、カウエシロイみたいに偽っていたかもしれないじゃんっていってんの」
「それは…」
カウエシロイがやっていることは、三重偽装だった。転生前の人格A、転生後の人格B、そしてその上に載せているカウエシロイ大先生という人格C。異人の人格隠蔽特性をこれでもかと活用しているからこそ、僕たちはその正体を暴けないでいる。
それと、同じことをしていた?
「ケイウィ・クルカは青木ユイであって青木ユイではない。という疑問はあったけれど、その考え方なら何とか説明がつくかもしれない」
と、僕は思わず口を押えて呟く。
雪山山荘に現れた青木ユイ(A)、ケイウィ・クルカの前世である青木ユイ(B)と分けて考えればいい。青木ユイ(A)は、雪山山荘密室殺人の犯人で、転生後にヘルト村殺人事件を引き起こした。対して、青木ユイ(B)は雪山山荘密室殺人については「何も覚えていない」と言い切り、ヘルト村殺人事件にて殺された。
青木ユイ(A)と青木ユイ(B)が同一人物であると考えるほうが不自然だ。
入れ替わりが、前世の段階で行われた。その発想は、すべてを覆す話だ。
だって、それならば八人ってのは、七連続女性刺殺事件の被害者遺児七人と加害者遺児の一人を合わせた八人という、最もきれいな数字になる。
八人目。雪山山荘密室殺人の登場人物としてカウントしていなかったため、忘れられていた存在。鬼塚ゴウには、僕たちと同い年の子供がいるって言う話は、随分と前にした。
「それも、ロイ村長は言ってたな。『モニの話を聞く限り、殺人鬼は鬼塚ゴウの娘だろう』って」
「ちょっと、なんでそんな大事なこと言わないのよ」
「推測にすぎないことは、口にしないほうがいいって言ったのはお前だよ」
痛いところを突かれた。僕がルミに推理の内容を全く話さなかったのと同じく、ルミも情報統制を行っていたということか。実際、今聞いたから納得できる話だが、少し前だったら無視していたか、それありきの推理になっていただろう。だから、ルミを責めることはできない。
ただ、ロイについては文句の言いたいことが増えてきた。雪山山荘のことはともかく、カウエシロイのことについて知っていることがあるなら全部言えよ。いや、カウエシロイとかかわらせないために、僕とルミに協力しない体制をとったんだっけ。
「待って。話が大分ずれているけれど。なんで青木ユイの話になるのさ。殺人鬼はケイウィ・クルカで終わった話だろう?」
「おや、デルタ先輩。知らなかったんですか。ケイウィ・クルカは先ほど殺されましたよ。ヘルト村連続殺人事件の四人目の被害者として」
「は、はぁ!? 殺人事件がまだ終わってないってことかよ!」
「それは本当ですかぁ? あのケイウィが?」
あまりの情報に後ろに倒れたデルタではなく、疑問を呈したのはアンダーソンだった。彼が知らないということは、もしかしたら僕とルミ以外知っている人はいなかったのかもしれない。
「はい。見る影もなく死んでました。しっかりと、赤い柄の包丁で胸部を刺されて。でも、それはこのゲームには関係のない話です。僕がまだ答えを言っていない。続けますよ」
「それはもちろん。ですが、驚きをかくせませんねぇ。理論上、警備隊の地下二階は最高峰の守りを発揮するはずだったのに。いや、いいでしょう。なるほど。だから、名探偵モニは自身の推理を改めようと思ったんですねぇ。カウエシロイこそが、八番目の異人であり、真犯人であると考えた」
正直に話すと、最初はアンダーソンこそがカウエシロイだと思っていた。ケイウィ・クルカと結託して、カウエシロイ教室という茶番劇を繰り広げ、不満や不評はカウエシロイという案山子に背負わせる。自身の考えをカウエシロイの代弁と偽ることで、どんな危険思想も思うままに発言する。
そういう最悪な男がアンダーソンだとばかり思っていた。しかし、ケイウィが死んでいたという情報を見落とすとは、カウエシロイらしくない。
代弁教師の欠点は、代弁を受けるまでのラグだ。同じ人物でないからこそ、隔離すれば意志は乖離する。
いま目の前にいるのは、代弁教師ではなく、唯のアンダーソンだ。
「それでは、名探偵モニ。あなたの新しい推理を聞かせてもらいましょう」
「その前に、二つ。質問をしてもいいですか。アンダーソン先生、いや、アンダーソンさん」
「カウエシロイ先生に関わることでないのならば」
「あなたは、大事な話は伝達魔法で済ませるタイプ?」
「直接、話を聞きたい派ですなぁ」
「メモは、話し合いの後でまとめる? それとも、聞きながら取るタイプ?」
「話し合いの後でまとめますな。失礼に当たってしまうので」
「そう。ありがとうございます。今ので、カウエシロイの正体がわかりました」




