137.追加演習2
【魔暦593年07月04日18時15分】
カウエシロイの正体はラス・スタウである。そうはっきりと断言したデルタに対し、僕が反論することはなかった。
意味がわからない。そんなわけがない、そう話を一蹴できればよかったのだが、一考の余地があると考えさせられてしまった。実際、ルミあたりが本当に一蹴りかますとさえ思っていたが、そんなこともなかった。
あらゆる情報を操作し、僕ですら裏で操ってしまうような規格外の存在。その正体が、あらゆる場所に転移できる魔法使い、ラス隊長であるのは、しっくりくる。とんでもない奴の正体は、とんでもない奴であるべきなのだ。
「あれ、でも、デルタ先輩。僕がスカーから聞いた話だと、カウエシロイは異人だって話でしたよ。ラス・スタウはこの村の中で最も異人とかけ離れた存在ですよ」
「それは、推定論だからね。スカーが完璧でないことは、親友の僕が一番知っている。カウエシロイ教室は、異人たちで言うところの『地球』の文化をこの世界に広めようとしている。パラス王国を異世界という視点で見降ろしているからこそできる発想であり、だからこそ創設者のカウエシロイは異人である。これが、スカーの考えだ」
そして、それは僕の考えでもあった。
異人が六人いると判明している状態だからこそ、最後の異人がカウエシロイだと決めつけてかかっていた。
だからこそ、ケイウィ・クルカの登場は想定外のものだった。七人の呪われた子供たちの、最後の一枠をカウエシロイから奪っていった。定員オーバー、カウエシロイは異人ではないことは証明された。
「違うよ、モニちゃん。別に、カウエシロイが異人である必要はないんだ。ケイウィ・クルカは代弁教師の一人だった。それで十分だ。彼女の思想を聞いたうえで行動すればそれでいい」
「でも、ラス隊長はケイウィ、いや、その大元の異物教会を敵視しているんですよ。それこそ、異人の存在すら否定するほどに」
「そこまで過剰に拒絶するのは、逆に怪しいと思わないか」
それは…、正直そう思う。
異物協会と魔法学院。勇者担当と魔王討伐戦線。対局に存在する両機関は、お互いに嫌悪しあう。それは、魔法の神秘と異物の謎がかみ合わない、宗派の違いのようなものだとばかり思っていたが。
ラス隊長が、逆にその前提知識を利用していたら? ケイウィと不仲であることを強調し、ラインを切っていた?
いや、まて。それはおかしい。ラス隊長とケイウィは、本来繋がっているべき存在なんだ。今まで忘れていたのが笑えるくらい、彼女たちは親密だったはずだ。それなのに、なぜ知らない他人のようなふりをし続けていた?
彼女たちの間には一人のキーマンがいる。その存在が、魔王と異物協会と魔法学院を一つにつなげた。
僕の父親、ロイ・アオストだ。彼は、ヘルト村の村長になる前にパラス王国でフリーの魔王討伐を仕事としていた。そこで、ラス・スタウと出会い、意気投合した。だから、自分の村にラスを家族ごと呼んだ。
その時、勇者担当であり、ロイの幼馴染であるケイウィ・クルカと一度も関わらなかったとは思えない。ヘルト村の外で、彼らは出会っていたはずだ。
ーーあれ?
それを言うなら、もう一人繋がっていてもおかしくない人物がいる。ケイウィ・クルカと、ラス・スタウとヘルト村の外でつながっている人物が…。
「ちょっと待てよ。お前ら」
僕の思考のループを強制終了したのは、渦中の人物の娘、ルミ・スタウだった。僕たちの押し問答に突っ込むことなく、父親の疑いを晴らすこともなかった彼女が、今更何をいうのか。
「いや、父さんを庇うつもりは全くないぜ。パラス王国まで一瞬で転移できるような奴が、事件の黒幕だったとしても驚かないよ。あたしの父さんならそれくらいやってもらわなきゃ困る」
何を言っているんだこいつ。困るよ、普通に。
「でも、今あたしが言いたいのはそこじゃなくてさ。カウエシロイが異人じゃないって方」
「ほほう。続けてください。カウエシロイ大先生が異人ではないという、大前提を覆す考えがあるのならば、このアンダーソンめに聞かせてください」
「うぜぇ。まあいいや。考えとか根拠とかそういう話じゃなくてさ。多分、カウエシロイに会ったことがあるんだろうな。だから、ああいう口ぶりになってたんだって思って」
と、ルミは話しながら頭をかしげる。自分の中で考えがまとまっていないのに、口を回し始めたといったところだろうか。それにしても、気になる言い回しだった。
ルミの考えでも、根拠のある話でもない。そして、カウエシロイに会ったことがある? 誰が?
「ん? ああ、モニには話していなかったっけ。というか、話してないのかよ」
「だから、誰がよ。誰の話をしているの?」
「ロイ村長だよ。あの人が『創設者のカウエシロイは異人だ』って断言してたんだよ。その後、『幼馴染と娘が異人だから』って話していたから、ケイウィ・クルカがカウエシロイって可能性もないな。ロイ村長は、二人の異人を元々知ってたんだ。モニが生まれる前からな」




