136.追加演習1
【魔暦593年07月04日18時10分】
カウエシロイの正体を暴けば、質問に答える。そう言ったアンダーソンだが、僕以外の反応は微妙なものだった。
正体がわかっているのならば、質問も何もないからだ。その正体を教えてもらうために、ゲームをやるのに、勝者にはすでに答えが手に入っている。過程と目的が合体してしまっている。
何がしたいのかは、不気味なことに明白だった。
裏に隠された真意などない。アンダーソンは、ゲームがしたかったのだ。
ニヤニヤといつもと変わらない笑みを浮かべ、教壇から生徒達を見下ろす。そこに価値や意味はない。
唯、ゲームをする。謎を誰かに解かせる。人の言葉を代弁するのと同じく、推理をさせる。そこに自分はない。
代弁教師アンダーソンは、そういう男だった。
全く、ケイウィ・クルカといい、まともな大人じゃない。最悪の教師達だ。
僕が呪いを解く探究者なら、彼らは呪いの提供者だ。
「ちなみに、誰も答えられなかったらどうなるんです?」
「ん、んん。それは考えてなかったですなぁ。ほほほ、そうですね。ルミさんには、魔法の才能を生かして異物協会の勇者にでもなってもらいましょうか。ケイウィ・クルカの後任ですな。デルタくんには、その隠密魔法で他国の情報収集に。名探偵モニには、異人の研究と異世界文化の浸透を積極的に行ってもらいます」
あの、負けた時の未来が重すぎません?
人生をそのまま差し出すようなものじゃないですか。
「さて、授業を開始します」
どんなに性格が捻くれていても、めんどくさい言葉回しをしたとしても、アンダーソンは教師である。これから始まるのは、ゲームじゃなくて課題なのかもしれないと、僕は思った。
***
【魔暦593年07月04日18時10分】
ここで、僕がカウエシロイについて知っている情報をおさらいしよう。
そもそも、存在を知ったのは昨日が初めてだ。というか、魔法学院や異物協会ですら名前を知っている程度だった。カウエシロイ教室の知名度が低かったわけではなく、僕がこの世界に対して興味を持たなさすぎたから知らなかった、というわけだ。
ルミが先にアンダーソンと出会った、というところから始まる。
七月二日の正午。その時はクナシス・ドミトロワも同席していたらしい。警備隊ヘルト村支部にて、ロイと共に行動しているときに、話しかけられたらしい。
今となって思えば、そのときアンダーソンは、ラス隊長と交渉しに来たのだろう。地下二階に安置していた死体を、ラーシー宅に移動するための許可をとりに来た。
その日の夜に、クナシス・ドミトロワは殺害された。この辺りは考察できるほど情報がない。
そして、七月三日の朝にラーシーが死亡。この死体は地下二階の牢獄に運ばれることはなかった。逆に、地下二階に安置されていた、イアムとクナシスの死体がラーシー宅に運ばれることになる。
カウエシロイは、地下二階の清掃とラーシー宅への死体の移動を命じた。それを受け取った代弁教師が、一般学生に指示をした、というわけだ。
スカーやデルタなどの一般生徒では知り得ない死体の移動先を、ケイウィは知っていた。
配置から考えると、地下二階の後処理を指揮したのがアンダーソンで、死体の移動の実行はケイウィ・クルカが行ったと考えるのが妥当だ。
そして、その目的。
『カウエシロイ先生が死体を見たいっていってたんだよ』
と、ケイウィは言っていた。カウエシロイが死体を見たいから、地下二階からラーシー宅に移動した。これが、引っかかりを覚える。
カウエシロイの正体を暴くヒントになるだろう。
その後、カウエシロイは十八人の村民を集め、事件解決を目的とした集会を取り仕切った。司会のアンダーソンに自身の代弁を指示し、僕に探偵役を任命した。
最終的に、自らの部下であるケイウィ・クルカを殺人鬼として捕まえさせた。彼女は殺人鬼ではなかったというのに。
それじゃあ、僕が殺人鬼を見誤ったのと同じく、カウエシロイも誤解していたのだろうか。いな、それはない。絶対に。力強く断言できる。僕には、わざとケイウィを逮捕させたようにしか見えない。
あの集会は、パフォーマンスだった。
まるで、自らの潔白を証明するかのように。
ーーだから、ケイウィは悟ったような表情をしたのか?
彼女は、一才の弁明をすることなく捕まった。最初は驚きはしたものの、全てを理解したかのように牢獄に捕まった。カウエシロイが真犯人ならば、その行いに納得は行く。
思考をぐるぐると回し、自然と口が閉じる。ルミは頭に疑問符を浮かべながら、首を傾げていた。知恵熱を起こしているらしい。彼女から答えを聞くことは難しいだろう。
教室に沈黙が包み込む。アンダーソンは例の如く口元を歪めるだけだ。僕たちから質問を投げかけなければ、喋り出すこともない。
確か、カウエシロイに関係ないことなら質問できるって言ってなかったっけ。それじゃあ何の意味もないだろ。
「わかりました」
と、静寂を打ち破り、言葉を口にしたのは僕ではない。僕が視界にも入れていなかった、正義の四人組の一人、デルタ・サランだった。
「ほほほ、良いでしょ、聞きましょう、デルタくん。それでは、カウエシロイは誰なんだい」
「カウエシロイの正体は、魔法学院ヘルト村支部警備隊長、ラス・スタウです」




