132.最後の異人2
【魔暦593年07月04日18時05分】
カウエシロイについて聞きたいことがある。僕の要望に、金髪の美青年は嫌な顔ひとつせずに話してくれた。
自身の因縁とも言える、カウエシロイとの出会いについて赤裸々と。
スカー・バレントがカウエシロイに固執している、というのは随分前から気がかりだった。
僕がカウエシロイ教室に入学したのは、イアム達の死体を見るためだった。対して、スカーはカウエシロイの正体を暴くというもの。仮定は同じでも、目的は違う。
と言っても、スカーの目的を尋ねたのには深い理由はない。
謎を全て解消する必要がある。それだけだ。
今まで、青木ユイが殺人鬼であるというアプローチで進めていた。彼女の転生先が誰か確かめるために、死体を探し、異人の前世を推測した。
我ながら良い考えだとは今も思うが、何かが致命的に間違っていた。青木ユイが殺人鬼であることは間違いないのに、ケイウィ・クルカは殺人鬼ではない。
おいおいおい、一体どういうことだよ。流石の僕も困っちゃうぜ。
人生ゲームではないのに、振り出しに戻るを引いた気分だった。死んでんじゃないよ、ケイウィ。
だから、一つずつ精算することにした。
まず初めに、全ての謎に関わっている黒幕カウエシロイについてだ。
スカーは以前、カウエシロイが異人であると確信していた発言をしていた。僕はその話を聞き流して、七番目の異人であるケイウィを殺人鬼と指名した。
スカーの話を鵜呑みにすると、八人目の異人がいることになってしまう。それは、全ての前提をひっくり返すことになってしまうし。
ーーいや、それすらもひっくり返すべきか
振り出しに戻るを引いた割に、収集した情報に未練を持ちすぎか?
まあ、いい。とりあえずはカウエシロイだ。
第一、カウエシロイ教室出張版にてケイウィは断罪されたが、あれが出来レースだったことは否定できない。僕の推理すらも組み入れた、カウエシロイの罠だったと考える方がしっくりくる。
僕がケイウィを殺したようなものだ。罪悪感は一ミリもないが、カウエシロイに操られていたことは気分が悪い。
例え、カウエシロイの正体が殺人鬼であってもなくても、一発ぶん殴らないと気が済まない。いや、三発は殴ろう。
閑話休題。今は、スカーの話に集中しよう。
クナシス・ドミトロワの話が出てきた時、僕は思わず拳を握った。彼の名前がここで出てくるとは思わなかったし、クナシスとスカーが知り合いだったことにも驚きだった。
消化試合に記念で出した補欠バッターがホームランを打った様だった。無くてもいいが、あるに越したことはない話だ。
クナシスはヘルト村出身であるにも関わらず、その一生のほとんどをパラス王国で過ごしていた。住まいを王国側で構えているため、帰省する理由がない。
だから、クナシスは僕にとって縁のない存在だった。これからも情報は入らないと、そう思っていたが…。
クナシスとスカーが繋がっている。呪いの解明に一気に近づく事実だ。
「と言っても、俺とクナシスさんが関わったのは初対面の時と、その一年後に一回だけだったけどね」
スカーはそう言った。最初の一回は、他愛のない話をして終わったらしい。クナシスは他にも異人にあったことがあるそうだったが、スカーはそうはいかなかった。
初めてみた、自分以外の異人。それどころか、自分以外に転生者がいるということすら、その時に知ったのだった。
三歳児の時に、転生のシステムを学んだ僕は、恵まれている方だ。
クナシスは多忙だった故、すぐに話は中断された。そもそも、彼はプライベートでスカーに会いにきただけだった。会えただけでも運が良かったと思うべきだ。
そこで、スカーはカウエシロイ教室の存在を知った。
クナシスがヘルト村に訪れたのも、カウエシロイ教室を秘密裏に流行らせるためだった。何人か興味がある人に声をかけて、パラス王国に呼んでいたらしい。
ヘルト村でカウエシロイ教室を開催するのが最終目的なら、その時の訪問は下準備だった。
スカーがカウエシロイ教室に興味を持ったのは必然だった。自分以外の転生者が、日本の文化をこの世界に広めようとしている。それは良いことだけではない。
『魔王育成機関』とも、『根源的破壊者』とも呼ばれているその教室の目的が見えない。無意味に外来種を池に投げ入れる様な物だ。それを、意図的に行っている。
つまり、正義そのものであるスカーの討伐対象だった。




