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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
五章.会議は踊らず、されど呪いは続く
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126.名前のない誰か2

【魔暦593年07月04日16時50分】

 

 最近は全く雨が降っていなかったので、ここまでの豪雨に僕は圧倒されていた。雨粒の大きく、せ地面をえぐるように降り注ぐ。傘の役割をもつ魔道具は、いつも携帯していたというのに。今日は手ぶらだから、家に帰るまでにずぶ濡れになるだろう。

 僕を守るようにしていた木々も、次第にその力を失っていた。葉にあたりいくらか軽減されているが、僕の脳天に水が強く当たる。

 だけど、僕は動こうとしなかった。唯、ずぶ濡れになることを受け入れた。別に、涙を隠しているとかそういうわけじゃない。僕に泣く資格なんてない。

 

 これが、燃え尽き症候群というやつなのだろうか。佐藤ミノルでもない、モニ・アオストでもない謎の人物が、殺人事件という『解決すべき困難!』によって目的を得た。だから、最近は活発的に、脳みそを回すことができた、ということだろうか。

 つまり、事件を解決するという、動機を得られた。なんてわかりやすいんだろう。これだったら、何でもない僕でも、まるで真っ当な人間のように動ける。実際、動けていたし。


 呪いを解くために、僕は動き出していたというのは根底にあるが、それはあやふやだからこそ成り立っていた。

 ケイウィ・クルカによって、世界のシステムだとか、数万年に転移してきた鬼塚ゴウが仕組んだとか、具体的に解明された挙句、全て終わったことだと言われた。新興宗教で、崇めていた奇跡はすべて商売によるもので、かつ既に警察によって根絶されていました、という状況に近い。


 呪いを解くため、とか、自身の怒りを収めるため、とか。そういう終わりのあるものを人格形成の主軸にしてはいけなかったんだ。

 モニ・アオストの生きる目的は、可愛く、美しくあるという何ともまあ、適当なものだったけれど。殺人事件によって、佐藤ミノルが表にでてきて。モニ・アオストは死んでしまったんだ。佐藤ミノルが、彼女を殺した。乗っ取ったといってもいい。そして、佐藤ミノルも消え去り、ただの抜け殻としての僕が残った。

 ケイウィ・クルカは零から人格を作り上げた。オル・スタウは入江マキの弱さと善性と共存し、この世界に適応した。スカー・バレントは、立花ナオキのままこの世界に生きている。僕だけが、中途半端に宙ぶらりんになっている。


 いっそ、新しく人格を作り上げてしまおうか。


「ん?」


 僕は立ち上がる。

 新しい人格を作る。それは、なかなか名案じゃないか。抜け殻になったのならば、中身を注げばいい。僕が誰だかわからないなら、名付ければい


 僕はフードを被り、雨の中に姿をさらす。利発性の高い魔道具のローブによって、僕は雨粒に叩かれるだけで済んだ。水たまりに容赦なく足を突っ込み、走りだす。


 目的地には、あっという間についた。僕はその家の前の森林に座り込んでいたのだから、当然だ。僕は断りもなく扉を開き、濡れた靴のまま上がり込んだ。一直線でその部屋につき、乱暴に扉を開ける。


「うわっ、びっくりした。なんだ、モニかよ。オルとのいちゃいちゃは終わったのか?」


 滴る水に気が付いたのか、彼女は「おいおい」と声を漏らす。僕の足跡に沿って、スタウ家には水の道ができてしまっていた。


「地下二階の鍵貸して」

「あー、あれな。パクったままだったな。いいけど、何で? ケイウィに会いに行くの?」


 彼女の目線は、机に移動する。そこには、つい先ほど見たばかりの、地下二階の扉を開く魔道具が置いてあった。乱雑に、机には本やら石やらが置いてあったが、黒色のその魔道具は一瞬で見つけられた。


 僕は手を伸ばし、その魔道具を握りしめる。そのまま、すぐに部屋の外に向かった。

 滞在時間は、一分にも満たなかっただろう。背後からルミの声がした気がしたが、僕は振り向かなかった。


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