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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
五章.会議は踊らず、されど呪いは続く
117/155

116.接続詞

【魔暦593年07月04日12時01分】


「ああ、まず初めに。前提条件の話をさせてください。魔王の専門家である勇者担当ケイウィ・クルカさん。魔王の特性を全て教えていただけますか?」



 と、僕は切り出した。ケイウィは突然の矛先に驚くこともなく、欠伸をしたのちに口を開いた。



「んー、大きく分けて三つかな。一つ、魔力無効特性。さっきセリュナーちゃんが話していたので、説明はしないよー」

「はい、続けて」

「うん。二つ目、人格隠蔽特性。魔王は人格を切り離すことができる。多重人格とかそういう意味じゃないよ。今の考え方をそのまま横に置いて、新しく想像することができる。モーちゃんのその様子を見たら、その特性はよくわかるんじゃないかな」


 正直僕を参考にされても困るところではある。 元々モニ・アオストと佐藤ミノルの性格に大差はない。例を挙げるならばオル・スタウと入江マキだけれど、彼はこの場に呼んでいないので無しだ。

 ただ、恥辱心と上品さを捨てることはできている。


 唯、ハッタリは聞いているらしい。僕を疑うことしかしていなかったあのセリュナーが、関心するように頷いている。というか、情緒が不安定すぎやしないか、こいつ。


「んで、三つ目の記憶保持特性は、記憶を切り離すことができる。ある一定の記憶を、書籍のように閉じ込めて、いつでも読み返すことができる」

「だから、魔王は突然現れるというわけだ。正確には、内に秘めし作り上げた人格を、表に出しただけだが。一から作り上げるのは本来の人格に悪影響を与えそうだけれど、そこを記憶保持特性が補っている」


 と、異物協会ヘルト村支部長がケイウィの補足を行う。

 バックアップ、セーブデータというべきだろう。佐藤ミノル時代の記憶は十六年経っても色褪せることはない。例え、突如日本に戻ったとしても、僕は何事もなかったかのように日常に戻れるだろう。


 

「つまり、記憶保持特性によって保存した記憶は、忘れようがないということですよね?」

「んー、そうだけど」

「ええ、はい。皆様お聞きになりましたか? これが、魔王の特性です」


 僕はあえて、ラス隊長に目線を向ける。彼は気に食わなそうに異物協会を睨みながら、僕に答える。


「魔王討伐戦線とは大分違う解釈だな。だが、エリク・オーケアは出席していない。仕方がないが、この集会ではそちらの考え方を通すことにするよ。だけどね、ルミちゃん。だから何だって話は残るよ。第一、名探偵ってのがイマイチわからない」

「全くもって不本意ですが、僕は名探偵を任命されたんですからね」



この役職については、行動をもって証明しましょうと、僕は声を大にして言った。



「僕は魔王で、ラーシーは魔王で、イアムは魔王で、クナシスは魔王だった。全員が魔王の三大特性を所有しているのはいうまでもないですが、ここで話さなくてはならないことがありません」


 僕は誰の相槌も待たずに話を続ける。


「三つ目の記憶保持特性に関しては、共通しているんですよ。先ほどケイウィさんは、書籍をいつでも読める状態と言っていましたが、その書籍は同じものなんです。ラーシーも、イアムも、クナシスも。同じ景色を覚えているんですよ」

「待てよ、モニちゃん。記憶の共有とでもいうのかい? そこまで行くと、まるで魔法じゃないか。第一の特性に反する」

「そうなんですよ、ラス隊長。まるで魔法なんです。僕だって、最初は信じられなかった。だけど、それが実際に起きている。これが現実だ。僕たちは同じ場所で見た景色を覚えていて、そこで話した内容も、出来事も、一切合切全て記憶しているんです」

「だが、それは説明できないじゃないか。魔法で証明できない話だ」

「はっ。面白いことを言いますね。科学で全く証明できない魔法使いの癖に。僕が魔法というひどく不安定で不確かな非科学的なものを許容したのだから、貴方達にもこの話を飲み込んでもらわないと話が始まらない」



 ラス隊長はちらり、と自身の親友のほうに目を向ける。ルミと仲良く壁にもたれかかっているロイは、静かに頷いた。それ以降、彼が反論することはなかった。

 こういう場面でロイは全肯定してくれるので、実質八百長だった。だけれど、僕は本心から言っている。


 今更転生とは何か、そういう議論をしてられるか。魔法で証明できないかもしれないが、科学でも証明できていないんだ。そこまで突き詰めると、なにも喋れない。

 異人という概念すら受け入れられない。魔法学院は魔王ですら、実害があるからギリギリ許容している程度だ。



「頭の硬い貴方達に向けて言うなれば、僕たち魔王は同じ故郷出身なんです。ヘルト村に生まれるずっと前から、お互いのことを知っていた。見ていた。そして、殺されていたんです」

「殺された?」

「はい。殺されました。イアム・タラーク、ラーシー、クナシス・ドミトロワ。この村で殺された三人の犠牲者と全く同じ手法で、赤い柄の包丁で殺されました。正確に言うならば、その三人が、僕たちの故郷で起きた事件と同じように殺されたんですが。順番は大切です」



 カウエシロイの台詞の通りだ。イアム・ドミトロワが最初の犠牲者という考え方をとっぱらえば、殺人鬼はあっという間に浮き彫りになる。




「僕が覚えているように、殺人鬼もまた、覚えている。忘れようがない。幸い、この村には魔王が数名残っています。だから、僕の話に矛盾や齟齬を見つけたら、すぐに指摘してください。記憶保持特性によって間違えようがないので、誰かが嘘をついているということになりますが」



 下準備は充分だった。



「名探偵として、今から一つ前の犯人を暴いて見せましょう。その時、僕の話に何の矛盾もなければ。ただの続きの時間であるヘルト村殺人事件の犯人もまた、暴かれることでしょう。二つの事件の犯人は同一人物なのだから」


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