106.カウエシロイ教室出張版1
【魔暦593年07月04日11時00分】
「さあさあ。ここに集まりしは七月一日より始まった、魔王による狂気的事件、いや、これはもはや事故ですかなぁ!その関係者の皆様です。ようこそ、カウエシロイ教室へ」
ふくよかな大男は、両手を広げ、高らかに叫ぶ。
「いやはや、カウエシロイ教室は基本的に『表舞台に立たない』をルールとしていますからなぁ。このように皆様の前に、姿を表し、名前を公開し、加えて招待するようなことは、本来ならばあり得ません! 今回は例外中の例外、ルールの外として、会を開かせていただきましたぁ」
と、男は叫ぶ。
「それもそのはず。パラス王国の中でも、もっと都市部から離れている、辺境中の辺境であるヘルト村で魔王が出現したんですかぁらねぇ。異例自体には、平等に、魔法学院と深い関わりがあり、異物協会とも関わりがある私たちの出番です」
と、男は叫ぶ。
「おおっと、私としたことが。自己紹介を忘れていましたぁ。ほほほ。この場をまとめる大役は、カウエシロイ教室代弁教師の一人、アンダーソンが務めさせていただきますぅ」
と、男は叫ぶ。
「ここで、主催者のカウエシロイ大先生から皆様向けにて言伝があります。代弁教師の一人として、文字通り、代弁させていただきます」
と、男は叫ぶ。
「『お集まり頂いた皆様には先に謝罪をさせて頂きます。申し訳ありません。どうか、この茶番にお付き合いお願いします』」
と、男は声色を変えて叫ぶ。
「さて、どういうことでしょうかなぁ。代弁教師として代弁させて頂きましたが、いやはや、さっぱり意味がわかりません。カウエシロイ大先生の考えることは、艶ほども、理解できません」
と、男は叫ぶ。
「で、す、が。そんなことは関係ありません。代弁者の役目は代弁だけですからなぁ。意味なんて理解しなくても、この会を持ってヘルト村殺人事件は解決するんですからねぇ。さてさて、前置きも長くなりましたが」
と、男は叫ぶ。
そして、アンダーソンは、初めて声を潜めた。次に喋る言葉が、最も重要なことだと。ようやく本題に入ると、緩急をつけたようだった。
「これより、解決編に入らせて頂きます」
***
【魔暦593年07月04日11時05分】
『カウエシロイ教室出張版-事件解決編-』という、センスの欠片もない会は、こうして始まった。名付けた奴は相当に趣味が悪い。特に、サブタイトルをつけるあたり。
既に、三人が死んでいる。その殺人事件の謎を解明するという行為は立派だが、ふざけていい理由にはならない。浅はかな、小馬鹿にするような意志を感じる。
それとも、真剣にやってこれなのか。ふざけた口調で場を仕切るアンダーソンにしても、要点をまとめればまともなことを言っている。
魔法学院魔王討伐戦線と、異物協会勇者担当という対極的な魔王の専門家が関与すると、別の場所で戦争が起きかねない。三人目の代弁教師は魔法学院出身のようだし、中立としてカウエシロイ教室が名乗り出るのは、理にかなっている。
集められたのは、事件の関係者だった。勿論、全員顔見知りだ。ヘルト村殺人事件なのだから、ヘルト村民にしか関わりようがない。
カテゴライズするとしたら、やはり職業だろう。宗教というわけではないが、排他的な職業意識を持った人達がこの世界では多い。
席は、その組織ごとに分かれていた。
入り口から右側の列には、魔法学院が集められていた。ヘルト村支部警備隊長ラス・スタウ。その側近の中年の男が二人。天才魔法使いセリュナー。合計四人。
余談ではあるが、魔法学院所属の三人目の代弁教師は、ヘルト村の住人ではないらしいのでこの場にはいない。
続いて、入り口から左側、異物協会。年齢の止まった勇者、ケイウィ・クルカ。異物協会ヘルト村支部長の老人。職員の女性が二人。合計四人。
カウエシロイ教室からは、代弁教師アンダーソン。職員の若い男女二人。金髪の美青年、スカー・バレント。その友人の巨大な男、デルタ・サラン。その友人のシエラ・タラーク。その友人の、リエット・ジェラート合計七人。
尚、異物協会兼代弁教師ケイウィ・クルカは数えないとする。
アンダーソン以外は、入り口から正面の席に座っている。
続いて、部外者。
ヘルト村村長ロイ・アオスト。違法魔法使いルミ・スタウ。
そして、何でもない僕、モニ・アオスト。
ここまで正式な会であるとわかっていたなら、僕もカウエシロイ側の席に座っていた。不幸なことに、僕たち部外者は、アンダーソンから最も近い場所、つまり壇上に座っていた。
なぜ、とは思わない。
むしろ、当然だといえる。
述べ十八人がこうして会議を開くとなると、会議室の大きさが重要になる。
ヘルト村にある、一番大きな部屋に集まるのは当然だ。僕たちが一昨日、呑気なことに誕生日パーティーを行った、この部屋より大きな部屋はない。
アオスト邸。つまり、僕の家だ。僕は知らされせていなかったが、アンダーソンはロイ・アオストに交渉を持ちかけていたらしい。
この村の頂点に、直談判。実は、二人は旧知の中だそうでお互い手を組んだ、ということだ。アンダーソンについて深く理解しているわけではないが、ロイとは相性が悪そうなのに。人は見かけによらない、ということか。
そんな邪推に気がついているのか、アンダーソンは全く僕の方を見ない。隣に座る美少女に目もくれず、他の参加者の顔色ばかり伺っているようだった。
それはまさしく、探偵だった。少しでも動揺を見せると、詰められかねない。僕が死者から表情を読み取る専門家なら、アンダーソンは生者から情報を読み取る、とでもいうことか?
それじゃあまるで、僕の上位互換じゃないか、と一人で考える。
アンダーソンは両手を広げ、静かに言葉続けた。
「初めに、事件を振り返りましょぅ。イアム・タラークの事件から」
解決編、始動。




