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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
序章.プロローグ
1/155

00.呪縛転生

 【西暦2023年02月04日12時05分】


 僕ーー佐藤ミノルは手で口を押えて、強いせき込みをし始めた。自分でも驚くほどの痛みを感じ、膝をがくりとついた。


 押さえていた掌には、赤黒い液体が大量にこびり付いていた。僕はじっと赤い液体を眺める。それが血だと理解するのに数秒かかった。口から大量の血液を吐き出しながら、僕は地べたに横たわった。

 僕は、まるで他人事のように状況を把握できていた。

 なぜ、血を吐いて倒れたのか。そして、この後どうなるのか。


 

「あ」



ーーこれは、やばい



 地べたに浮かぶ血液の溜まりに、頭から突っ込む。受け身すらとれず、僕の体は悲鳴をあげる。

 だけども、もう痛みは感じなかった。気温も、質感も、匂いも感じられない。


 唯一感じられたことがあった。

 それは、死の匂い。



 僕は死ぬ。

 この量の血を吐くと、人は死ぬ。


 それに、血液を吐いただけではないのだ。

 『赤い柄の包丁』。どうせ、凶器はそれだろう。


 僕の心臓に刺さっている物を想像しながら、心の中で笑った。



 

 とある雪山の山荘。

 吹雪の音は山荘に響き渡り、外にでることはできない。山荘は白一面に覆われ、外の景色は全く見えない。

 密室となった雪山山荘で行われていた連続殺人も、これで終わりだ。


 

 結果は、殺人鬼の一人勝ち。

 とうとう、最後の一人である僕を殺すことに成功したのだ。





 彼女は、どんな顔をしているのだろうか。

 ふと、僕は後ろに立つ殺人鬼の表情が気になった。

 呪われた(・・・・)子供たちをわざわざ雪山に呼び出して、全員殺したのだ。目的は達成されたはずだ。


 笑っているのだろうか。

 満足げな表情を浮かべているのだろうか。

 それとも、人殺しの責務に苦しんでいるだろうか



 純粋な好奇心だった。死後の思い出とはこのことだ。

 せめて、彼女の顔を見てから死にたい。



 僕は最後の力をふり絞って、体を横向きに倒した。

 木製の天井を通り過ぎ、視線は彼女の顔に向けられる。



ーーは、ははは。なんだそりゃ



 僕を八年間騙し、六人を殺した少女は目を見開いて僕を凝視していた。

 そこに感情はない。大きな瞳からは生気が抜け、まるで人形のようにただ僕を見ていた。




ーーああ、そうか



 僕は腑に落ちた。

 呪われた子供たちを集めた雪山山荘殺人。

 だけども、殺人鬼である彼女もまた、呪われていたんだ。


 瞼が自分の意思とは関係なく沈んでいく。意識も、漆黒の闇の中に溺れていく。

 僕は死ぬ。




 だが、それでもいい。

 それで、呪いが断たれるなら。

 僕はそれだけで満足した。




 深く深く、沈んでいく。

 まるで、ゲームの中にいるかのようだった。

 沈んでいるのはわかっているのに、何も感覚がない。

 俯瞰して、死を実感していた。



 次第に自分という存在が散っていくのを感じた。紐がほどけていくように、バラバラになっていく。

 

 佐藤ミノルは死んだ。

 今死んだ。


 肉体的にも、魂的にも、確実に死んだ。



 それなのに、意識だけは残っていて。

 次第に闇の中から一筋の光が見えてきて。

 命を感じさせる音が聞こえてきた。


 ゆっくりとドクン、ドクンという音が耳に響く。それは、生命の始まりだった。

 僕は、失ったはずの肉体を動かし、瞳を開く。

 




「おぎゃ」

 



 佐藤ミノルは死んだ。

 雪山山荘密室殺人の六番目の犠牲者として、死んだ。



【◾️暦◾️◾️7年07月01日10時05分】



 同時に、生まれた命がある。

 アオスト家の長女、モニ・アオストは大きな産声をあげる。



 僕は、転生した。

 


 新たな人生の始まりは。

 呪いの続きを意味していた。



これからよろしくお願いします。

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訂正(2023/09/04.)

・死亡時刻

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは。 描写や佐藤ミノルの感情がよくわかりました。 [一言] プロローグから楽しめました。 次話が楽しみです。
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