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ろくでなし物知り

作者: ヘルベチカベチベチ

「ねえねえアンタ。アンタってあの噂の、なんでも知らないことはないっていう人でしょう。」

「如何にも私だ。」

「やっぱり。じゃあ手始めに一つ聞かせてよ。世界で一番大きい動物、これ分かるかな。」

「簡単だな。象だよ。」

「ブブー、違うよ。他にも大きいのがいるんだよ。」

「大きい象。」

「いや、だからね。」

「もっと大きい象。もっともっと大きい象。」

「キリがないね。象じゃないんだよ、正解はクジラ。クジラは哺乳類なんだってね。」

「クジラ? それは変だな。あれは魚じゃないか。」

「いや、だからクジラは哺乳類なんだよ。」

「哺乳類だ何だと言う前に、もっと大切なことがあるだろう。私たちにヒレや尾ヒレがあるのかい。象のあの耳は、海を泳ぐためにあんなに大きいのかい。違うね。クジラは魚で、動物の仲間じゃない。だから正解は象、違うなら大きい象、さらに違うなら……。」

「分かった分かった分かった。でも言われてみれば、確かにクジラは哺乳類である前に魚だな。オレたちとの共通点がないね。いや、これは凄い。アンタの物知りはこっちの予想を遥かに超えてきたよ。」

「そうだろう。なんでも聞きたまえ。」

「じゃあ次は、サイ。サイってどうしてあんな角の生え方なんでしょうね。」

「象に続いて今度はサイか、ふふふ。」

「何だい、急に笑い出して。」

「いやね、やけに、アフリカの密猟シリーズで攻めてくるのだなと。」

「ああ、本当だ、すみません。初めはクジラのつもりだったもんで。」

「クジラでも場所が変わるだけじゃないか、ふふふ。」

「で、サイはどうしてあんな角なんでしょう。中央に縦に並んで角が二本。鹿とか牛だったら横に二本でしょう。」

「よく考えてごらんなさい、サイの角があそこになかったとしたら、とても寂しいだろう。」

「寂しいって、全然ピンと来ないですよ。いや、そんな顔されても分からないですよ。」

「そうかい。あなたの挙げたてくれた動物と比べてみれば、自ずと寂しくなるもんだよ。鹿は花札に登場するほど美しい、牛にはつぶらな瞳や柄がある、そこへ行くとサイなんてどう思う。ごつごつした皮に覆われ、おまけに顔も可愛くない。せめて中央に角を置いてやって、恰好を良くしなくちゃ。そうでもしなきゃ、そのうちサイはみんな自殺して絶滅しちゃうよ。」

「はあ、確かに自殺で絶滅は可哀そうだ。動物園も寂しくなるな。」

「そうだろう。寂しくなるから、サイの角はああなんだ。」

「はあ、なるほどなあ。近頃の話で一番納得したかもしれない。ため息が出たよ。いや待てよ。でも、だとしたら、なんでカバは自分が嫌にならないんだ。サイから角を外したらカバにそっくりだよ。」

「カバはバカだよ。」

「ああ! あれって単なるダジャレじゃなくて真理だったんだ。うわあ、すごい!」

「そうだろう。で、質問はもう、終わりなのかな。いやきっとあるはずだ。」

「いやいやいやいや、まだあるまだある。ええと、タコは八でイカは十。どうして。」

「なぞなぞみたいな口ぶりだね。つまり足の本数のことだろう。タコが八本足でイカが十本足、これの理由だね。ふーむ。さっきのサイのときも同じだけどね、こういうのは逆に考えてみればわかる。ほら、目を閉じてイメージして。タコの方が十本で、イカの方が八本。そんなあべこべな二匹が並んでいる画を思い浮かべてみなさい。」

「うーん。うまく想像できない。なんだか、足の本数がぼやけちゃうというか。」

「そうだろう。じゃあ本来のタコ八本、イカ十本で想像すると。」

「すごい! 鮮明に浮かび上がってくる!」

「そうだろう。タコは八本足、イカが十本足。これ以外の組み合わせは、私たち人間の想像力をもってしてもあり得ない、不可能なのだよ。」

「こんな説明方法があったなんて。今度他でマネしてみてもいいかな。」

「好きなだけマネしなさい。だがその前に、一度目を開くことを勧めるよ。」

「あまり感心してしまって忘れていました……うわあ、いつもより世界が広く見えりゃあ。」

「物を知るのは楽しいことだ。」

「よーしオレも物知りになるぞ。ええと次は、鳥はなんで空を飛ぶの。」

「人の上に立てるほど金がないから。」

「蚊はなんで血なんて吸うの。」

「おい血いから。」

「おい血いってね。さすがにそのシャレは知っているよ。アンタはとても物知りだけれど、そうやって人をバカにした答えをすることもあるのかい。オレはバカかもしれないけど、バカにされる筋合いはないよ。」

「私にはね、蚊の友人が居だんだよ。大飯ぐらいで、どれだけの血を吸ったとしても鈍い飛びは決してしない。そんな元気だったあいつが、昨年の秋口に亡くなったんだ。ほら、私の腕のここを見てくれ。蚊に刺された跡があるだろう。これはね、あいつが死に際に、血を吸いたい、そう言うから、隣で看病していた私は喜んで腕を差し出したんだ。そのときの跡が未だに痒くてね。どうですか。あいつが死ぬとき、どうして好き好んで血を吸ったのか、あなたには想像が付きませんか。」

「ぐすん……泣かせないでくださいよお……。オレはバカだけどさ、死人はバカにできねえ。ほんとうにすまない。」

「いや、いいんだ。あなたが悪い人でないことは、話していれば分かるから。あなたが私の友人の話で涙を見せてくれたのは、すごく嬉しかったよ。どうだろう、これも何かの縁だ。ぜひこの壺を購入していただきたく……。」

「買います! 買いますとも! 買わせてください。」

「ふう、何はともあれ、これであなたも今日から物知りだ。」

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