①乙女ゲームのヒロインの私と謎の人。
※注意
改稿元と内容自体は変わりません。
読まれた方はわかると思いますが、元のは公募に出すには問題があるので、主にその箇所の変更版になります。
読んでくださった方の反応を知りたいので評価は受け付けてます。
評価の公開はしない(ランキングには載らない)ことにしますが、ご不快に思われた方には申し訳ないです。
「あ、これ『乙女ゲー転生』ってやつじゃね?」
私がそれに気付いたのは、運の良いことに『乙女ゲー』の舞台となる学園生活が始まる前だった。
私は男爵令嬢、ヴァレリー・ハドルストン。『乙女ゲー』の名前は思い出せないものの、ヒロインであるその名前は覚えている。確か親友と共にやった……というか親友がやっているのを漫画読みながら横で見てたゲームの筈だ。
さして興味はなかったが「なんだかヒロインの割に厳つい名前だな」と思ったことが幸いし、思い出した。
生前の私は学生の内は地味で真面目だったものの、社会人になってお金を稼ぐようになり、二十歳を超えて酒や煙草を嗜むようになってからハジけ出した、所謂『社会人デビュー』女子である。
今更こんな記憶が戻るとか、ガッカリだ。
一仕事終えてからビールを呑み、煙草をふかして「大人サイコー!!」と言っていたと言うのに、学生からやり直すとか……冗談ではない。
幸いな事にこの世界は14から酒が呑める上、ハドルストン領はワインが名産だった。でもビール呑みてぇな。
(いや、そんな事言ってる場合じゃない)
私は全フラグを回避することを心に決めた。何故ならはっちゃけてはいたが、同世代男子に免疫も興味もない。仲良くしてた男性は職場のおっさんとかおっさんとかおっさんとかであり、恋愛はしたことのない干物女子。
そもそも私は硬派が好きだ。
「好きだ」の一言が言えずに友情を貫き通し、あまつさえヒロインの恋を後押しするようなキャラが好みだ。(※『キャラ』でわかるように好みも二次元止まりな程に恋愛経験皆無)
二次元ならまだいいが、やたらキラキラした顔面共に砂を吐く様なくっそ甘い台詞なんぞを吐かれてみろ、まずメンタルが死に至ることうけあい。
ゲーム内に一人だけ硬派な武術教官がいたが、親密度が上がるにつれくっさい台詞を吐くようになり、ゲーム機(※友人の)を叩き壊しそうになったのを思い出した。
くっさい台詞はたまにだから良いんだよ!!
毎回吐くな!どこが硬派だ!
話は逸れたが、回避するもなにもさして覚えちゃいない。私はそれっぽいイケメンとは関わり合いにならないと決めた。
(ああ面倒臭い)
心の中、舌打ちでエイトビートを刻みながらも私は仕方なく学園に入学した。
入学した早々。
学園の門を入ったばかりの時なので正に早々なのだが、私は蹴躓いて転びそうになった。
何も蹴躓くようなモンは無いにもかかわらず。
(うわ!これ多分フラグじゃん!!強制力ってやつか?!)
そう脳裏に過るも崩れた態勢は戻せない。このままだと転ぶ前に攻略対象に助けられるか、転んだ後手を差し伸べられるかし、フラグを立ててしまう。
しかしその時だった。
傾いた私の身体を然り気無く誰かが起こし、態勢を整えたのだ。物凄い速さで。
周囲を見回せど、私のすぐ傍にそれらしき人は──いない。 普通に歩いている学生ばかりだ。
(ええぇぇぇぇ?!誰ぇぇぇ?!)
確実に誰かに助けられた。なのに影も形もない。これでは乙女ゲーではなく、とんだミステリーだ。
私は呆然とその場に立ち尽くした。
──攻略対象に忍者なんていなかった筈だが?
なにはともあれ、誰かのお陰でフラグを回避することができたのは事実だ。それを証明するものはなにひとつとしてないが、私の身体だけがそれを知っている。
私の身体だけ……なんだかエロいな。
(まあいいや。 とりま回避できたんだし)
実際のところ考えても仕方なかった。
なんか凄い素早くてシャイな人がいること位しかわからないのだから。……シャイかな?
しかしそれからもずっと、某かのフラグが立つイベントが起こりそうになる度『誰か』が回避に力を貸してくれた。
悪役雑魚令嬢に嫌がらせを受け、バケツの水を被りそうになった時も、曲がり角で攻略対象(多分)にぶつかりそうになった時も、先生に頼まれて本を図書室に取りに行き、それが本棚の一番高い位置にあった時も。
私は彼(彼女かもしれないが)を『影勝』と呼ぶことにした。
『影勝』とは、前世でやっていた戦隊ヒーローアニメの忍者キャラである。
アニメはそこそこ人気だっだが、彼は完全に脇役。内容や影勝にそこまでの思い入れはないが、私はそのアニメの主題歌が大好きで、記憶が戻っていなかった時から無意識に口ずさんでいた程。
(そうそう、思い出してきた! 影勝の顔は出なかったんだよね~)
寡黙で地味な彼は忍者装束のみでしか彼とわかる要素はなく、頭巾により顔はほぼ見えない仕様。目すら描かれない始末だ。
後にバトルゲームアプリが発売されたが、スキル的にも地味でクッソ弱かった。そんな彼を強くする為に手に入れられることのできる装備の見た目はとにかく酷く、完全にネタキャラ扱いされていた。
兎にも角にも忍者っぽい、『誰か』。
どんな人か解らない。
『影勝』……ピッタリだ。
それから程なくして、影勝が男だと判明した。
女子トイレで嫌がらせを受けたのだが、影勝は来なかったのだ。
私は今度こそ水浸しになった。
相手の雑魚令嬢共も水浸しにしてやったが。
雑魚令嬢共は「覚えてらっしゃい!」とお定まりの台詞を吐いて去っていった。
「おい、去るな! 一人になったらイベント起こんだろうが!」
という私のツッコミが女子トイレに虚しく響く。
皆で濡れてりゃまだ目立たないのに、私を一人にしたら『虐められました』感満載じゃないか。
アホ共め……私のヒロイン度数を無意味に上げやがって。
(さて、攻略対象に見付からないようにどうやってこの場から逃げ出そうか)
身体も冷えてきた。頭に浮かんだ幾つかの選択肢から選ぶより他ない。
①窓から逃げる。
②陽気に歌を歌い、『虐められてなどいない』アピールをしながら出ていく。
③服を脱ぎ、乾くまで個室に籠る。
残念ながらここは三階だ。そして残念ながら私はウンチである。女子トイレでウンチとか言うと違う意味にとられそうなので一応言っておく。勿論運動音痴の略称だ。なので①は却下。つーか無理。
③は……多分、風邪引く。
(②かぁ……アホ丸出しだな……)
アホは奴等の方なのに釈然としないが仕方ない。流石に歌うのは恥ずかしいので、『ふふふふふ~ん♪』と鼻ずさむ程度のご機嫌さに留めておく。
周囲の『何? コイツ』という冷ややかな視線が降り注ぐ中、私は雑魚じゃない悪役令嬢に腕を掴まれた。
公爵令嬢でメインヒーロー(王子)の婚約者候補、ソフィア・ガードナーである。
「その曲……貴女、やっぱり転生者ね?」
「あ」
無意識のうちに私は件のアニメ主題歌を鼻ずさんでいたのだった。