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ハツコイメモリー  作者: 烏鳩雀
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プロローグ


 俺の名前は北野きたの海馬かいば。カッコいい名前だが、ごく普通の学校に通う高校二年生だ。身長も体重も顔も、そして勉学に関しても平均的な男である。


 これまで何をやっても満たされない人生を歩んできた。唯一、「卓球」は人並み以上の才能があったらしく、中学では全国大会にも出場経験がある。

 幾つかの高校から推薦を貰ったが、俺は卓球が好きではなかった。結果的に推薦を全て蹴り、偏差値五十代の公立高校に進学した。


 高校では卓球を辞め、テニスをしている。テニスに関しても楽しいとは思わない。ただ友達に誘われたから、入部したにすぎない。


 さらに、恋愛に関しても関心がなく、童貞を貫いている。恋愛なんて時間と金を浪費するだけの生産性がないコトだと考えているからだ。

 

 だが、そんな俺にも嘗て好きな人がいた。名は谷川たにがわ結衣ゆい。小学校1年生の入学式で彼女と出会った。結衣は可愛く、優しい女の子だ。そして太陽のように明るい存在だった。

 

「会いたいな……もう一度」


 結衣には人を惹きつける魅力があった。気づけば周りには多くの友人がいるのだ。俺もその一人だった。


 小学校六年生までずっと同じクラスで苦楽を共にしてきた。小学校だけではない。親同士の仲が良かったこともあって習い事も同じだった。いつでもどこでも隣に結衣がいた。

 いつしか互いにとってかけがえない存在になっていた。中学でも結衣がいる当たり前の日常が続くものだと思っていた。


 それなのに、別れは突然訪れた。


 卒業式前日に電話で結衣に呼び出され、彼女の家の前に向かうと、悲しそうな表情を浮かべて俺を待っていた。


「どうした? 急に呼び出して」


「実は……明日の卒業式の後に引っ越しすることになったの」


 脳天を雷に撃ち抜かれたような強い衝撃が走った。結衣が引っ越しをする?

 そんなはずはない。こんな突然、なんの前触れもなく別れがくるなんて。きっと自分を騙すための嘘に違いない。ドッキリか何かだろう!?


 まだ、子どもだった俺には現実を受け入れることは容易ではなかった。頭の整理ができないのだ。人目も憚らずに、ポロポロと大粒の涙を流した。


海馬かいば泣かないで! もう会えなくなるわけじゃない! これを渡すから受け取って」


 結衣が俺に差し出した物は月の形をした高価そうなネックレスだった。こんな高そうを手渡してどういうつもりだ。


「ほら、私の首元を見て。太陽の形のネックレスがあるでしょ?」


 結衣の首元にピントを合わすと、確かに太陽の形をしたネックレスがある。太陽と月。もしかすると、先程の月のネックレスと関係があるのだろうか。


「実はこの二つはペアネックレスなの。ほら、合わせると一つになるんだよ」


「ほんとだ…………」


「だから、この月のネックレスを持っていてほしい。いつか再会する時まで」


 結衣は曇りなく笑った。あぁ、やはり君には敵わないな。別れの時ですら、太陽のように眩しい笑顔を向けてくるなんて。

 俺もいつまでも泣いている場合ではない。最後なのだから悲しんだ顔より笑顔で送り出してあげないと。


「あぁ、ありがとう。持っておくよ。約束だ! 絶対また会おう」


 できる限り最大限の笑みを浮かべて再会を誓った。結衣も大きな声で「うん」と返事をしてくれた。


 こうして結衣は卒業式の後に引っ越しをした。クラスの皆に別れを惜しまれながらも最後まで笑顔であり続けた。

 いつか、そう遠くない未来に会える。俺もその日が来るまで毎日頑張った。雨の日も風の日も。


 それなのに、その日はいつまで経っても訪れない。


 気づけば、高校二年生になっていた。もう俺のことなんて忘れてしまっているに違いない。こんなことならば、俺の気持ちを伝えておけば良かった。後悔先に立たずとはいうものの、簡単には割り切れない。それが初恋なら尚更だろう。


「え……もう八時。やべ、学校行かねぇと」


 過去を振り返っている間に、時計の針は八時を指していた。そろそろ家を出ないと授業に間に合わない。

 今日も普段通りの学校生活が始まる。授業を受けて、部活をして、友達と取り留めの無い話をしながら家に帰る。変わらない日常。

 

 だが、五月七日の今日。


 俺の人生はある一人の転校生によって大きく変わっていくことになる。

 

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