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第三話 戦利品の確認・その一

-金縛りの杖-

相手を金縛りにする。それなりに長く動きを止めることができる。どんな怪物だろうと無力化できるので、便利さでは五指に入ると言える。

ただし、ちょっとした衝撃ですぐに金縛りが解かれるという弱点があったりする。

 少女を背負って家の前にまでたどり着く。

 周りに店主の目がないことを確認してから、音を立てないよう慎重に扉を開けて、滑るように中へ入り込む


 家の中に入ってもまだ油断はしない。店主が家に入り込んでいるかもしれないからだ。今までも二度あって死ぬかと思った。

 感覚を研ぎ澄ませて様子を探ってみる、異常なし。物の配置が変わった様子もないので階段を登る。

 出かけるときに塞いだ部屋の入り口を“穴掘りの杖”で崩すと、素早く中へ飛び込んですかさず埋め直した。


 ようやく隠れ家に帰ってこれた。これでひとまず安心だ。

 急に気が抜けてしまって、つい背負っていた少女を落としかけてしまったので、慌てて背負い直してから、できるだけ優しく床に降ろす。

 それからベッドロールの上に横たえてやると、少女がうめき声をあげた。衝撃の杖で吹っ飛ばしたときに変なところを打ったりしていなかったか心配だったが、反応があるなら一応だいじょうぶか。


 さらにカバンも床に降ろすと、体が羽のように軽くなった気がするのと同時に、ひざが震えて立っていられずに座り込んでしまった。

 これは恐怖で震えているのとは違う。猛烈な疲労感が足腰を襲ってきたのだ。


 なんでこんなに疲れてるんだろうとふしぎに思うが、すぐ理由に思い当たった。

 人間という重い物を背負って全速力で走り続けていた。自分でも気づかないうちに、かなりの無理をしてしまったのだ。疲れるのも当然かと思う。


 今日は多めに食べてゆっくり休まなきゃいけない。

 食料は足りるだろうか、などと先を案じつつ、床に転がっている気絶した少女に目を向ける。


 年の頃は十代後半入りたてくらいに見える。俺と同じくらいの年代か。

 小柄ではあるけど体は引き締まっている。自分で切ったのであろう不揃いの短髪も、日に焼けた傷だらけの肌も、身にまとう色あせた革の旅装束も、全身が余すところなく傷だらけだ。これまでに重ねてきた苦労のほどが一目で見て取れた。


「こいつも、俺と同じように苦労してきたのかな」


 大判の本ほどの大きさがある古びた革カバンを背負っていて、フタが半開きになっている。

 中身をちらりと見てみると杖や薬瓶がいくつか見えるが、あまり物は入っていないようだ。こっそり奪ってやろうかという考えが浮かぶけど、実際にやる気にはなれなかった。


 なによりも人と話をしたい。彼女と話をしたい。

 いったいどこからやって来たのか、どうやって生き延びてきたのかを話して欲しい。

 少女に対する興味と期待は尽きないが、今ははやる気持ちを抑えて、やるべきことを済ませることにした。


 まず、久々に生きている人間を見ていると自分の身なりが気になってきたので、ベッドロールの横に転がしていた“清浄の巻物”を手に取って封を切る。

 巻物に記されている短いキーワードをささやき声で読み上げると、巻物に込められていた魔法が発動する。全身が数瞬で水で丁寧に洗われたかのように清められて、全ての汚れが消し飛んだ。


 隠れ家生活では湯汲みすることも服を洗うこともできない。かといって不潔なままでいると体も心も病気にかかってしまう。というか実際に体調を崩しそうになった。

 だからこの巻物は今の生活における必需品なのだ。


 体の汚れをきれいさっぱり落とした次は、下ろしたカバンを持ち直して倉庫に入る。

 それからカバンの中身をすべて床にぶちまけて、今回なにを使ったのかを確認することにした。


「ああ、これはやばいな」


 今日は少女を助けるために、大切な物資を景気よく使ってしまった。

 探索用の巻物と薬を使い切った上に、杖もかなり酷使した。杖はまだ使えるのだろうかと大まかに確認してみると、“瞬間移動の杖”の充填が尽きていることがわかった。

 素早い移動を可能にするこの杖は、とにかく便利だ。こいつがあると無いとでは、店主からの逃げやすさが大違いである。使えなくなってしまったらマズい。


 魔法力を回復する“充填の巻物”を使えばいいのだけど、それも最後の一つだった。わりと手に入れやすい品とはいえ、手持ちを使い切ってしまうと後が怖い。

 面倒なことになってしまったものである。


「……次だ次」


 気を取り直して次は戦利品の確認をやることにした。


 今日手に入れたものは保存食が複数に杖が三本だけ。

 ……だけだと思っていたが、巻物二つと薬瓶四つがしれっと増えていた。取った覚えが無いのだけど、いつの間にか回収していたらしい。まあ、あるある。


 食料については優先してかき集めただけあって充実している。

 備蓄していたものと合わせれば、十日は飢えずに済むだろう。これでしばらくは食料以外の補充に労力を割くことができるはずだ。


「この杖は……やっぱりなんなのかはわからないな。試し振りするのも怖いし、保留。あとは、まずまずかな」


 杖は一本が“衝撃の杖”。それなりに消耗していたので予備が手に入ったのは良いことだ。

 もう一本は以前壊した“眠りの杖”。眠らせることのできる時間は短いけど、足止めには使えるのでまあいいだろう。


 最後の一本はなんの杖なのかはわからない。試し振りすれば効果がわかるかもしれないけど、変な効果が出て手に負えない状況になったりしたら人生が終わるから、怖くて使えない。

 こいつの出番が来るのは“鑑定の巻物”で詳しい効果を調べてからだ。今日の戦利品に“鑑定の巻物”はないか確認してみるが、残念ながら見当たらなかった。


「ああ、巻物はそんなにいいもんがないなぁ。“充填の巻物”は拾えてなかったか、くそ」


 巻物の一つは気配を察知する能力を強化する“感知の巻物”で、もう一つは何も書かれていないまっさらなものだった。

 雑貨屋では慌てていたので、変なものまで拾ってしまっていたらしい。白紙の巻物はまれに見かけることがあるのだが、なんの効果も発揮しない役立たずなのだ。

 残念に思いながら倉庫の隅にそっと放り投げた。


 薬瓶は使ってしまった“粘液の薬”と“加速の薬”を取っていたのが助かった。

 残りはぶつけたやつの視力を奪う“目つぶしの薬”に、ぶどうジュース入りの瓶だった。

 最後の一つを除いて、薬に関してはなかなかの収穫だった。


「こんなもんか。次は杖や巻物を優先して集めるべきかな」


 これで戦利品の確認が終わった。あとは倉庫の整理をするだけで、今日やるべき仕事は全て終わる。

 もしものことがあってもすぐに必要なものを引き出せるように、種類別に仕分けをしていると、背後から女のうめき声が聞こえた。


 ついに少女が目を覚ましたらしい。

 いったん作業をする手を止めて、急ぎ足で居間に戻った。

[杖]

 衝撃の杖

 金縛りの杖

 瞬間移動の杖

 炎の杖

 土壁の杖

 穴掘りの杖

 眠りの杖(New)

 未鑑定の杖(New)


[巻物]

 清浄の巻物

 充填の巻物

 感知の巻物(New)

 白紙の巻物(New)


[薬品]

 回復の薬

 粘液の薬(New)

 加速の薬(New)

 目つぶしの薬(New)

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