表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

暗い部屋

作者: 一角黒馬

思いつきとノリです。

冷房をかけているために窓も障子も閉め切った部屋は明かりを消すと真っ暗闇になり、真っ白な障子が少し、青白く浮かび上がるくらいだった。

部屋の中心に垂れ下がっている紐を引っ張って明かりを消し、手探りで引き戸を探す。そこまで広くない六畳の部屋では、二歩くらい歩けばすぐに引き戸に辿り着くが、今日は想像の距離に引き戸がなかった。勢いよくぶつからないように慎重に歩を進めて、手で引き戸の位置を探る。しかし、全然引き戸に辿り着かない。

不思議に思った。この部屋はたったの六畳で、電気を消した位置から引き戸までは一メートルほどしかない。いつもたったの二、三歩で辿り着く。

方向を間違っている可能性もあるので、ぶつからないように慎重に引き戸を探るのを諦め、腕を伸ばしてあちこちに移動してみる。

やっぱり、おかしい。そんな広くない部屋なのに、全然、壁にぶつからない。一回電気をつけてみるかと振り返ると、異変に気が付いた。

暗闇の中でぼんやりと浮かび上がっているはずの障子が見当たらない。それに、さっきから数分暗闇の中にいるのに、目が暗闇に慣れる気配がしない。

少し薄気味悪いような気がしながらも、部屋の中心であろう位置で電気の紐を探す。空中を彷徨う手に一向に紐が当たらず、イライラして電気の紐を探すのを諦めた。そもそも、この暗闇ではここが電気の真下なのかも分からない。

もう、思い切りぶつかっても良いからさっさと出ようと、大股で出口であろう方向に突き進む。

背筋が冷えて、立ち止まった。

この六畳の部屋ではあり得ない距離を、今、歩いた。部屋の端から端を歩いたって、こんなに距離はない。少し早歩きで突き進んでみるけど、やっぱり壁にぶち当たらない。

ここは、どこだ。未だに暗闇に目が慣れなくて、今、私がどこにいるのか全く見当がつかない。怖くなって、縦横無尽に歩き回る。歩けば歩くほど、恐ろしくなる。机もない。敷布団もない。床に散らばったままだったはずの絵の具もない。当然、壁もない。ただ、足裏に触れる畳の感触だけが変わらない。

ここが私の部屋なのか分からなくなって、焦りながら飛び跳ねてみる。ここは木造一軒家の二階で、飛び跳ねるとギシギシ揺れる。が、全く揺れないし、木が軋む音もしない。

ここは私の部屋じゃない。異空間に来てしまったのだ。ヘナヘナと座り込んで、声を上げる。

「父ちゃん!母ちゃん!」

もう、声も届かないかもしれない。

瞬間、ナイフのように眩しい光が差し、部屋を照らした。

「何?大声なんてあげて。もう夕飯になるよ」

廊下の光を背に受ける母。廊下の光に照らされた私の部屋は、いつも通りの部屋だった。机と敷き布団と、散らばった絵の具がある、六畳の和室。私の頭上には、電気の紐。

電気を消したあの時と、全く同じ位置にいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ