表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻爆弾  作者: レゲエパンチ
2/4

働き人

 柳色の木の葉も、滑らかに、そして鮮やかに紅く染まり出し、虫の奏でる心地よい鳴き声と、金木犀の香りで、季節が夏から秋へと変わったのだと僕は知った。


 高校を卒業して4年。

 僕は卒業後、大手企業に就職した。多忙な日々に追われ、時間が過ぎていくのを、季節の変化でしか実感できなかったが、

最近は仕事に慣れ、やっと余裕が出てきた。プライベートでも同僚の女性と付き合い、今まで疎遠だった高校の同級生ともよく遊ぶようになって、充実した日々を過ごせていると思っている。


 仕事終わり、僕が職場の屋上の喫煙スペースでタバコを吸っていると、彼女のアカリが僕を呼びにきた。

「タバコ、辞めたんじゃなかったの」

 呆れた顔をしながら、僕を叱る。

「一緒に帰ろうと思ったのに。クサイから辞めてって前も言ったじゃない」

「最近、ちょっと昔のこと思い出す事が多くてさ。もう辞めるから」

「高校の頃の話?」

「そうだけど、話したっけ?アカリに」

 彼女はまた呆れた顔を見せる。

「高校の同級生と酔っ払って帰ってきた時言ってたじゃない。高校の頃、自殺した女の子の話でしょ?」

「あー、あの時か。ヤマカワと飲んだ時の」

「あの時二人とも何度も吐いて凄く大変だったんだからね?」

「ごめんって。本当に悪かったよ」

「自殺した子は、俺の事好きだったのに、勿体無いことしたなーって自慢してたものね」

「ほんとにごめん。」

「それで、その子のことでも考えてたの?」


僕はアカリと話しながら、まだ賑やかな街並みを見下ろす。

屋上から見下ろすと、自分はなんでもできそうな気がした。

人も、車も、なんだか働きアリのように見えた。


「最近、ヤマカワと飲みに行ったんだけど、その時ヤマカワがさ、本当はその子のことが好きだったって言われて」

「それで?」

「罪悪感を感じて」

「なんでよ。」

「自殺する前、僕が彼女を振ったんだよ。それで彼女が自殺したんじゃないかって言われてさ。仕方なかったんだ。確かに可愛かったけど、僕にはその時彼女もいたし。」

「へぇ。自慢ですか。あなたモテてたって言ってたものね」

「違うよ。その時本当は酷いいじめがあってさ、彼女が標的にされたんだ。主犯が友達で、僕も止めるに止められなくて、結局死んでしまったんだけど。」

「それで罪悪感感じてるんだ。その友達がヤマカワ君?」

「いや、ヤマカワとは高校の頃ほとんど話してないな。アオちゃんって子だよ」

「そっか。それもそうよね。それで、そのアオちゃんって子とは会ったりしてないの?」

「事故があってから、僕がすぐに転校して、連絡先も持ってなかったから今何をしてるのかも分からない」

「ふーん。アオちゃんって、もしかして女の子?」

「だったらなんだよ」

「へー。本当はその子もあなたの事好きだったんじゃないの?」

「お前までそんなこと言うのかよ」

「ごめんごめん」

彼女はおどけて見せる。

「でも、モテモテだったあなたが今は私の彼氏だもんねぇ」

「やめろよ恥ずかしい。こんなとこで言うなよ」

「じゃあ、ドコだったらいいの?」

「さあね」

タバコを吸い終えた僕は、彼女の手をとり、仕事場を後にした。

屋上から見下ろした僕は、地上では誰かのアリンコになるだろう。

それでも僕は、何処にいても人間でいられるよう、今やるべき事を一緒懸命頑張ろうと思った。

何よりも、彼女の為に。


「よーし、明日からも仕事頑張るぞ」

「どうしたの急に意気込んじゃって」

彼女は笑いながら僕に肩を寄せる。


帰路である公園近くの並木道は、紅葉が鮮やかに咲き揃い、赤く染った葉が緩やかに乱れ落ちていった。


「次の休みにでも、この公園で紅葉狩りするか」

彼女ははしゃいで、僕を置いて走って言った。


「いいわね。凄く楽しみ」


僕は、少しだけ自殺した女の子を思い出しながら、近くにいた蟻を、ぐっと足裏で潰して、アカリの元まで走り出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ