表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻爆弾  作者: レゲエパンチ
1/4

lucky strike

 暗緑の木の葉。沸き立つ陽炎。油蝉が鳴く。


 線香の匂い。西に見える灰色の空。ポケットには五百円が一枚。


 僕は走り出すことにした。


 走ることが、走ることだけが、結局、今出来る全てなのだと、僕は決めつけた。


 何かにしがみつき、何かを目指していないと、何かがなくなってしまうと思った。





 僕は、何も考えたくなかった。

 冷たい汗が流れ、制服が濡れる。頭痛が走り、吐息が掠れ、意識が朦朧とする。

 それでも僕は、今が一番楽な気がした。





 白から茶に変色した看板が見え、足を止めた。

 店員の怪しむ顔を無視して、僕はワンコインでライターとタバコを1つ買う。

 



 外へ出た時、雲は流れて、上空には大きな積乱雲があった。

 のちに雨が降り出すと、僕は看板の横でタバコに火をつけた。

 煙を肺に入れ、大きく吐くと、雨音だけが僕の耳に届いた。






 ミサキが死んだ。






 僕の脳内に浮かぶ。よぎる言葉。 

 もう一度深く煙を吸う。

 キミが白い制服を纏い、爆弾のように学校の屋上から落ちた姿を思い出す。

 そしてまた、煙を吐き、その記憶を追い出す。


 キミが亡くなってから、僕は何かに縋る思いでたばこに手を出したが、タバコを吸っても忘れることなどできなかった。

 むしろタバコを吸う度にキミの事を思い出す。

 それが、僕に課せられた罰だと自分に暗示し、満たされていることに気づいたのは、つい最近のことだった。

 そしてこの日々が、三ヶ月を経とうとしている。




 雨音がやけに落ち着く。

 僕はライターを二、三度鳴らして、普段吸わない二本目のタバコに火をつけ、キミがいた日常と、キミがいないこの三ヶ月間を、間違い探しのように何度も何度も繰り返し、比べてみた。

 ただそれが、何の解決にもならないと分かっていても、僕はやめる事が出来なかった。


 結局、どんなに考えても、僕のキミに対する気持ちと、キミが消えた事実だけが、僕自身に強く訴え続けていた。





 僕はまた、キミが落ちた時のことを思い出してみる。



 屋上から落ちたキミはトマトのように潰れていた。

 壊れたマネキンのように関節が折れ、真っ赤な染色体が、流れ、飛び散っていた。

 キミはその後、放射能のように周りの人間に影響を及ぼした。

 そして僕も、まるで夢の中にいるような錯覚に陥った。現実と幻がぐちゃぐちゃになり、わからないことばかりが増えた。

 キミは戦っていた。それだけはわかった。見えない敵とずっと戦っていた。

 そしておそらくキミは戦いに勝利した。原型が崩れていても、笑っていたような気がしたからだ。



 僕はふと二本目のタバコを見る。

 有害物を取り入れて肺を腐らせ、余分な煙は宙に昇る。

 ゆっくりと、ジリジリと音を立てて燃えるその葉巻は、まるで時限爆弾の導線に見えた。

 雨音が一層強くなり、屋根から滴る雨粒によって、吸っていた導線の火が消えた。


その時、何かわからずとも、いや、わからないからこそ、今やるべきことがわかった気がした。


 爆発する前に。時間が来る前に。

 雨の中、僕はまた、走り出す。

 三ヶ月という、ちっぽけな逃避行で出来あがった汗を雨で流し、爆発させまいと体を濡らす。








 やっと僕は目指すべき何かを見つけた気がした。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ