彼がメガネをかけるようになった理由 1
男性視点です。
自分の見た目がいいのに気がついたのは、小学校高学年の時だった。
それは周りからしたら得に思われることかもしれないけど、自分にとっては面倒なだけだった。
それを強く感じたのは小学6年生の時だった。
小学校の卒業式、正確には卒業式の2週間前から、俺は5人の女子に告白された。
どうして女子は一人では行動しないのだろう。
俺に告白してきた子は、全員友達と一緒にくるか、一人で来たように見せかけて、柱の後ろとか、曲がり角の向こうとかに友達が数人隠れていて、みんなが俺たちのやりとりを聞いている。そしてそのほとんどが、隠れている筈なのに、姿が見えている。
うんざりする。
俺は全員、断った。
断り方も、かなり素っ気のない、優しさのかけらもない断り方だったと思う。
結果、俺は非難され、女子から悪口を言われた。そんなことが重なって、小学校の最後の時間は嫌な思い出しかない。
好きではないから、適当に付き合うつもりがなくて断っているのに、どうしてあんなに人間性を否定するようなことまで言われるのか意味がわからない。
中学でもそれは続いた。
女子は好きであることを伝える時に、一人ではいられないらしい。小学校の時と同じように友達を引き連れて告白されたり、友達に手紙を配達させたり。信じられない。
高校は男子校にしたかったが、うまく条件の合う学校がなくやむなく共学校へ入学した。
高校になると、気の合う友人ができた。彼らは、その後生徒会副会長になる俺と共に、生徒会のメンバーに名を連ねるメンバーで、高校生活を一緒に過ごす、大切な仲間となった。彼らとは1年生で同じクラスになったことがきっかけで仲良くなった。どちらかというと人付き合いの淡白な俺にしては珍しく、彼ら−男2人と女1人−とは、いつも一緒にいるくらい、仲良くなった。
一人は生徒会長の神崎智、入学テスト満点のトップで入ってきた天才で、優等生に求められる条件を全方向に最良にして、それを絵に描いたような人間だった。それなのに、目鼻だちの整った綺麗な顔をしていて、背が高くてスタイルが良くて、なんと実は大きな会社の御曹司だった。恵まれすぎている。
もう一人は書記の白石晴人、こちらも成績優秀で、見た目だけなら神崎よりも良いくせに、神崎とは全く反対に、愛想という文字が存在しない世界に住んでいた。ぶっきらぼうで性格はキツイ。どうしてコイツと仲が良くなったのかわからないけれど、いつの間にか仲良くなった。
その2人は、男の俺から見ても顔が良かった。周りにこれだけの人がいたら、前のように俺が女子に告白されることもないだろう、そう胸を撫で下ろしたのに、実際は以前よりハイペースで告白されることになってしまった。
おかしい。
「佐々木くんはさ、ちょうど良いんだよね」
忘れもしない高校1年の夏、昼休みに俺は本間美琴と担任に頼まれた仕事をしながら話していると、そう言われた。
どうしてそんな話になったのかよく覚えていない。多分、また告白された、と俺が言ったか、本間に言われたかしたことが始まりだと思う。
本間美琴は生徒会の会計で、生徒会長の神崎の会社に代々勤めている重役の家の娘だった。つまり、神崎とは幼なじみだ。親戚を見渡しても女の子は一人きりらしく、本人はわかっていないが、家族からも神崎家からもかなり大事にされている。特別に美人でもないし、可愛い訳でもない。写真だと素通りしてしまいそうなのに、動いている彼女からは目が離せない。何故だか人目を引いた。
「何それ、どういうこと?」
俺は思わず聞き返した。本間は俺の顔を見てうーんと苦笑いした。
本間はなんと言うか、女子のくせにさっぱりしている。何が良いって、俺を特別扱いしないことだ。顔がいい、頭がいい、そんなことで俺を勝手に王子様みたいに考える女子が多い中で、本間だけはそれがなかった。だからなのか、俺は本間とは自然に話しすることができる。
どうして本間はそうなんだろうと考えて、すぐに答えに行き着く。
会長の神崎を思い出して俺は苦笑いした。
まあ、あんな神様みたいな幼馴染みがいたら、そうなるか。
「なんというか、佐々木くんはちょうどいいんだよね」
本間は思い出したように繰り返して笑った。
「智はなんかとっつきにくいし、白石くんは、顔はいいけど、話したら最悪だし」
本間の人物評価は、とても的を射ている。会長の神崎はちょっとできすぎて神々しくて、手が伸ばし辛い。白石のキツさには、普通の女子はついていけない。入学してから白石に告白した女子は、軒並み泣いて帰ってきた。
「その点、佐々木くんはソフトだし、話しかければちゃんと答えてくれるし。なんて言うか、手の届きそうな感じ?そこが良いんだと思う」
そんなものかな、と思う。いまいち腑に落ちない顔をしている俺に、本間は笑いかけた。
「よく見ると佐々木くんは大抵無表情だし、どちらかと言うと、いや、かなり?そっけない方だと思うけど、遠くから見てるとクールで格好良いってことになるし、あの二人と比べると、身近に感じるよね」
彼女の言ったことを俺なりに解釈してみる、ただあの二人と比較して俺の評価が高いだけで、内容的には決して褒められているとは言い難い。
「それって、手の届きそうなイケメンってこと?」
微妙な表現じゃない?と続けて聞いてみれば、本間は大きく口を開けて笑った。
「自分で言いだしたくせに。しかも何だか的確な表現だし」
そう言って、よほどおかしかったのか、本間はしばらく笑っていた。
「女子、面倒臭い」
ボソッと言うと、本間は少し黙って俺を見て、それからまた笑った。
「確かに、すごいモテてるよね。ちょっとくらい、そっとしておいて欲しいよね」
そう言った後で、私も一応女子なんだけどな、と少しだけ怒ったように笑った。




