カップル割り引きのチケットを手に
二人並んで街中を歩く。
僕よりも少し背の高い彼女を横目に見ると、高いところで結ったポニーテールが楽しそうにぴょこぴょこと揺れていた。
あれからおしゃべりをしていたら、あっという間に外出する時間になっていて、慌てて二人で家から出発したのである。
街行く中で、しっかりとお洒落した幼馴染の姿に見惚れる。
やっぱり、ずるいくらいに綺麗で、可愛いんだよなあ……。
スイーツバイキングの店までに歩く道を、ゆっくりとウィンドウショッピングを楽しみながら進んでいく。あ、あの服蒼葉が着たらすっごい可愛いんだろうなとか、彼女が見ている視線の先を追いながら思う。
そして、ピカピカに磨かれたガラスの反射で、店の中を見ていた蒼葉と僕の目が合う。ぱちりぱちりと不思議そうに瞬きをして蒼葉がこちらに振り返れば、今度は直に彼女と目が合い、お互いにはにかんで視線を逸らした。
そんな風に、自分達のことながらじれったいやりとりをしながら目的の店へと辿り着いた。
辺り一帯は仲の良さそうな男女で埋まっていて、この全てがカップルなんだろうかと嫉妬にも似た感情を抱きそうになる。僕達もその中にいる癖にね。
こんなにカップルがたくさんいると……僕らも、そう見えるんだろうか。
「並ぼうか」
「ええ、あっちが列の最後よね」
蒼葉と共に列へと並び、軽くおしゃべりをしながら待つ。
他の女の子とだと話が長続きしなかったりするんだけど、蒼葉と一緒ならいつまででも話していられる気がする。それくらいに彼女とは気安い仲で、一緒にいるのが心地良くて楽だ。でもそれは幼馴染だからなのか、それとも彼女のことが好きだからなのか……ちょっと判断がつかないでいる自分もいるんだよね。
僕自身の気持ちがまだふわふわとしていて分かりにくい。
何度も何度も「好きだ」と思うと同時に、本当にそうか? という疑問がついて回る。僕は嘘つきだ。もしかしたら無意識のうちに、自分に嘘をついているのかもしれない。疑いだしたらキリがなくて、結局考えるのをやめる。
せめて、きっかけがあればこの気持ちを伝えられるんだけどな……だから、僕は絵のコンクールに出そうとしているという部分もある。もし、入賞ができたのなら、そのときは勇気を出して、自分に自信を持って彼女へ好意を伝えることができると思うからだ。
「それにしても、先輩達も惜しいことをしたわね。こんなに人気なんだもの、きっと美味しいケーキが食べられるわ!」
蒼葉が世間話の流れでそう言って、なんとなく違和感を覚えた。
なにかが間違っているとか、彼女がなにかに騙されているとか、そういうことではないのだが、とにかく気になったので聞き返してみる。
「そのチケットじゃあ、どちらにせよ先輩と姫宮さん二人は来られなかったと思うよ。そういうフリをするならともかくとして……僕らに分けること前提でチケットを取ってくれたんじゃないかな?」
だって、カップル割り引きのチケットだし。
「え、どうして? 普通に二人なんだからチケットは使えるでしょう?」
「んん? 蒼葉、もしかしてこれが『カップル割り引き』専用のチケットだと気づいてなかったのか?」
「へ?」
なんとも間抜けな声をあげて蒼葉は硬直する。
「ちょっと、前進んでるよ。ほら行こう」
「ひゃ、ひゃい……」
列が進んであと少し。蒼葉は硬直したままだったので、ささっと手を繋いで前に進む。彼女は俯いてもう片方の手で顔を覆っている。指の隙間から見える頬や髪の隙間から見える耳には朱がさしていて、真っ赤な表情になっている。
なるほどね、気づいていなかったのか。
つまり今、蒼葉はこないだぼくがその事実に気がついたときと同じ状況に陥っているわけだな。これを見る限り、僕は先に気がついておいてよかったのかもしれない。店頭で初めて二人して気がついた……なんてことになったら大変だ。
「あ、あああ、あの、わたし……気づかなくて……その……えっと」
「気づいてなかったならさっきの反応も納得だよ。それでもお店に入る? 僕は……蒼葉が嫌ならそのまま帰ろうかと思ってる」
「嫌じゃない!」
少しトーンを落ち着けて、断られる覚悟もして言った言葉だったのに秒で返されてしまった。間髪入れず、まさに絵に描いたような即答だ。思わず笑ってしまい、蒼葉が不安げにこちらを見つめる。
「僕も嫌じゃないよ。蒼葉がよければ、このまま入ろうか」
「え、ええ。その、なんなら本当に恋人……として……」
「えっ」
「あ、なんでもないわ! ほら雪春! 前進んでるわ! 早く行きましょう!」
「……うん」
蒼葉が言いかけた言葉に、心臓が高鳴る。
大丈夫かな? 僕の心臓の音……こんなに近くで大きく鳴っていたら蒼葉に万が一にでも聞かれてしまうんじゃないか? そんな風に思ってしまうほど、ドキドキとしている。
お互いに照れて、そして一歩踏み出しかけてはその場で足踏みして結局進めない。僕らはこのままなのだろうか。昔から少しも変わらず、ただの幼馴染として過ごして……そしていつかは、お互いに結婚したりして……。
……嫌だな。
蒼葉の隣に誰かが笑って居座るのは、嫌だ。
そんな想像をするだけではっきりと『嫌』だと感じる。
なら、やっぱり僕は蒼葉が心底好きなんだろう。
ウエディングドレスを着た蒼葉の隣にいるのは、僕でありたいと素直に思った。その隣の座が誰かに奪われると想像するだけで苦しくなる。
これは、多分転機なんだ。
姫宮さん達が用意してくれた、チャンス。
踏み出そうとして踏み出せない僕らのために、彼女達が思いっきり背中を押してくれた形になる。あとは、僕らがちゃんと行動に出せるか……そこにあるのだ。
「蒼葉、次だよ。行こう」
「ええ、たくさん食べましょうね!」
「うん」
繋がれた手は振り解かれない。だから、するりと手の繋ぎかたを変えて彼女の指の間に自分の指を通す。いわゆる恋人繋ぎに。
「!」
「ほらほら、行くよ蒼葉」
「……うん!」
ほら、嬉しそうな顔。こんな顔をしていて、脈がないと思うようなやつは鈍感を超えて脳みそが空っぽなんじゃないかと思うほどの、それほどの好意が溢れんばかりに現れている。
さて、ここからが勝負どころだぞ。
ずっと、自信が欲しくて絵で実績を作ろうとしていた。でも、そんなものがなくったって、たった一言。たった一言声をかけるだけでいいんだ。
前にやった「愛してるチャレンジ」はあえなく失敗したけれど、今度こそ彼女に想いを伝える。
勇気を出して、一歩踏み出すんだ……!
そうして僕は、告白するための決意を持って、店の中に足を踏み入れた。




