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【表紙付き】完璧無比で幼馴染な風紀委員長様が不器用でポンコツなことを、嘘つきの僕だけが知っている!【完結】  作者: 時雨オオカミ
転校生が僕らの強火過激派ファンになるまで

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ずっと一緒にいたいのは、きっと同じ気持ち

 公園に着き、ベンチに座る。それからイーゼルを置いて軽めに鉛筆を滑らせて景色の写生(しゃせい)。ひとまずはいつもどんな風に絵を描いているか見てもらおうと思って、だ。


 つまらなくなったら言ってくれと告げて腕を動かす。

 会話は描いていてもまあ、できないことはないので喋りながらだが。


「桜並木も見てるだけなら綺麗なのよね……」

「それだけ魅力的だから虫も寄るんだよ。美人に集まってくる男みたいに。僕も似たような……いてっ」


 自虐しながら言った途端、蒼葉のデコピンが額にヒットした。対して痛くはないけど、こういうときはどうしても口に出るものだ。


「そういうのは禁止!」

「……ごめん」


 反射的に謝ると、彼女はキリリと眉をつり上げて言葉を続ける。


「桜には蝶々でしょう」

「蝶は毛虫からなるけど」


 多分猪鹿蝶(いのしかちょう)みたいに合うものを(たと)えたいんだろうが、勢いで言っているためか指摘すると目が泳ぐ。


「うっ、えっと、それは……なら、やっぱりお月様かしら」

「夜桜もいいよね。大人になったら、夜桜を見ながらお酒とか飲んでみたいな……」


 ポツリと言う。きっと夜桜を見ながら蒼葉とご飯でも食べれば最高だ。いや、夜桜じゃなくて隣が気になって結局花より別の花……だろうか。


「お酒!? ふ、風紀っ!」

「憧れない? そういう(みやび)で和風なこと」


 未成年でお酒を飲もうとしていると勘違いしたのか、変なポーズをとる彼女に笑いながら問いかける。着物でも着てくれたらなおいいな、とオタクの妄想力を使って想像しつつ。


「う、ちょっと……憧れるかも」

「それに、大人になったらの話だよ。今じゃない。お酒が飲める年齢になってからだね」


 僕と同じく、大人になった自分が夜桜見をする想像でもしたんだろう。観念したように蒼葉が呟く。それから大人になってからの話だよと穏やかに告げれば、ほんの少し俯いた彼女は小さな、本当に小さな声で言った。


「……そのときまで、大人になるまで、雪春、一緒にいてくれるの?」


 不安そうな、健気な想い。一緒にいるのが至極当たり前のように振る舞う彼女も不安に思うことなんてあるんだと……たとえ無意識下でも、ずっと一緒にいたいと思ってくれていることにあたたかい気持ちになる。


 一瞬言葉に詰まりそうになって、けれどしっかりと僕は言葉に出した。


「君が望むなら、いつまでも」

「キザ……似合わない」


 心なしか、互いに顔が赤い気がする。

 イーゼルとキャンバスに向けた視線を落として耐える。自分自身でもクサイ台詞を言ったなと思ったよ。


「悪かったね、似合わなくて。それとも嘘つきの言うことなんて信じられない?」

「まさか、君は人を直接傷つけるような嘘をつかないわよ。そんな嘘はつけないわ」

「……よくお分かりで」

「何年一緒にいると思っているのよ。今考えてることも当てられるわよ?」

「それはすごいね。さて、今僕はなにを考えているでしょう?」


 当てられるものなら当ててみろ。

 僕は蒼葉が好きだ。付き合って……いや、結婚してくれ。ずっとそばにいたい。ずっとそばにいて、この気持ちが嘘じゃないことを証明してくれ。


 ……告白せずに伝わるならいっそ伝わってしまえ、この想い! 

 そんな気持ちでじっと見つめる。


「うーん……」

「……」

「あ、喉が渇いたから飲み物買いたい!」


 脱力した。

 まあ、通じるわけないよな……。


「ずっと一緒に……」

「え?」

「ううん、なんでもないわよ? これはわたしの願望だから違うもの」


 脱力から、一気に高揚へ。

 不意打ちはよくない。


「それ、最初のやつも自分の考えてることだろ……なに飲む?」

「見ないと分からないから、わたしも行くわ!」

「はいはい」


 いったい一日に何回、こんな風に気持ちが高揚してしまっているのだろう。

 鼓動が早い。確か、一生は鼓動の回数が決まっているんだっけ。脈が早いとそれだけ短命になるとかなんとか……その話を信じるなら、きっと僕の人生は蒼葉によって寿命が縮んでいるに違いない。


 ……その日描いた絵は、結局桜の下に振り返る蒼葉の姿。

 木漏れ日の中で僕を見つけた時の嬉しそうな顔。いつでも見られるけれど、だからこそ大切な日常。


 おしゃべりに飽きて、途中で桜の花びらを捕まえようと走り回りだした姿からは想像もつかないほどの可憐さ。


 絵具を使うのはもう少し先にしよう。そう、ちょうど二人で絵を描くのに慣れてから。じゃないと、絵具が乾くまで話し込んでしまいそうだったから。


「わたしも隣で絵を描きたいわ!」


 なんて彼女が言い出すまで、数日もかからなかった。

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