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【表紙付き】完璧無比で幼馴染な風紀委員長様が不器用でポンコツなことを、嘘つきの僕だけが知っている!【完結】  作者: 時雨オオカミ
転校生が僕らの強火過激派ファンになるまで

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ひねた僕と彼女の出会いは、小学生のとき

 彼女と出会ったのは小学四年生くらいのときだったか。僕は両親を亡くして、姉のところに引き取られることになった。その、隣の家に住んでいたのが蒼葉とその家族だ。


 挨拶に行ったときはただ、無愛想に『よろしくおねがいします』をしただけ。


 当時からちょっと捻くれていて、嘘つきだった僕はあまり人付き合いが得意でなかった。故に、一人でいることが多く、一人で絵を描いているだけ……って今もそんなに行動自体は変わらないか。そこに、蒼葉がいるかいないかの違いがあるだけで。


 あの日はそう……抜けるような青空で、今とはちょっと違い、小鳥が地面でぴいぴいと助けを求めるように鳴いていたのだった。


「雪春ったら、ひねてるのになぜかお人好しよね」

「なぜかとはなんだ、なぜかとは」

「だってわたしのこと、すぐ騙すし」

「信頼の裏返しだよ」

「そういうの、普通は嫌われるって分かっててやってるでしょ」

「……まあ」

「だからぼっちだったのよ」

「さらっと傷つくようなことを言うな」


 あの日、巣から落ちた鳥の雛に自分を重ねていたのかもしれない。とにかく僕は雛が気になって、手のひらの上に乗せて、巣のある場所まで必死になって木を登った。


 そんなときに現れたのが蒼葉その人だった。


 ――「ちょっと、鳥の雛は地面にいても触っちゃダメなのよ!」


 今と同じように長い黒髪をポニーテールにして、腰に手を当ててビシッと言い切った少女。それが彼女だった。

 お隣さんだと最初は気づかずに、僕が思ったのは「なんだこいつ、うっとおしいな」という失礼極まりない感想である。


 ――「うるさいな、関係ないだろ」

 ――「あるわ! だって君、斎宮(いつき)雪春(ゆきはる)くんでしょ! お隣の! お母さんから、見ていてあげなさいって言われてるのよ!」


 女の子に、しかも『両親がいる』子に心配されるのが、心底嫌だった。だから無視して雛を巣に戻して……。


 落ちた。


 細い枝だったせいで、鳥の巣のある場所は巻き込まずに、けれど自分だけ。


 ――「ほら、危ないじゃない!」


 恐怖で目をつむり、衝撃がくるのを待っていた僕をふわりと柔らかいものが包み込む。

 それが誰かの腕だと気がついたのは、いつまで経ってもこない痛みに目を開いたとき。


 ――「大丈夫? 怪我、してない?」


 目の前いっぱいに広がる紫がかった黒の瞳。

 心配げなその瞳に、目を奪われた。


 木から落ちた僕を、なんと同じ年齢の少女が受け止めていたのである。びっくりしながら、たどたどしくお礼を言えば少女は向日葵が咲いたように笑って、心底嬉しそうに「よかった!」と言う。


 僕が恋を自覚したのは高校に入ってからだったが、もしかしたらこのときからすでに……蒼葉のことが好きだったのかもしれない。これが憧れから来るものなのか、それとも別のものなのか。今思い返しても、実はよく分からない。


 ひとつ、言えることがあるとすれば……お姫様抱っこをされる形で受け止められた僕が、彼女にその後心を許したということだろうか? 


 今考えると、やっぱり立場が逆では? と思うが。イケメン女子かよ。


「蒼葉だって、あのときからずっとお人好しだろ」

「わたし? うーん、そうだったらいいな」

「そうだよ」

「そっか」

「うん」


 短い言葉のやりとり。それだけでも充分伝わる……のに、この淡い想いだけはなぜ伝わってくれないのか。絶対に同じ気持ちだと思うのに。


「よし、不審者もいないし、校則違反している人もいないし、部活をしている人と見学してる人以外は大体帰ったかしら? わたし達も帰りましょうか」

「ん、それじゃあ帰るか」


 校門のところで先輩の風紀委員と挨拶を交わして下校する。僕と蒼葉が揃って帰る場面を見ただけで胸を抑えてうずくまる先輩は、もう少し耐性をつけたほうがいいと思う。萌えの。


 あんな反応されているのに気がつかない蒼葉も蒼葉だ。『嘘』扱いされたくないから、うかつに告白もできやしない……いや、こいつのことだから、きっと嘘扱いしないと分かっているが、僕の勇気が足りない。


 し、自然に気がついてくれたらそれでいい……んだ。多分。


「明日の弁当なにがいい?」

「お魚が食べたいわね」

「あー、鮭が安くなってたかな? んじゃ、買い物にも付き合え」

「付き合うー」

「……」

「なにその顔」

「別にー」


 たった一言の『付き合う』で色々と想像してしまう僕はいったいどうしたら。


「んじゃ、土日から絵のモデルよろしく」

「任されたわよ! 絶対に金賞まで導いてみせるんだから!」

「頑張るのは僕の腕だけどね」

「お、応援はするわよ? こう、ふれー、ふれーって」

「もっと具体的な応援がいいなあ。こう、いい感じに描けたら抱きしめてくれるとか」

「そんなんでいいならやるけど?」

「……嘘だよ、やんなくていい」


 嘘だ。やってほしい。いや、いや、いや。欲望全開はまずい。抑えろ抑えろ。


「ふうん、わたしにできることで頑張るわね」

「ぜひ、そうしてほしい」


 これ、確信的犯行でもなく全部天然で言っているからこそタチが悪い。せめて小悪魔的だったら、こっちもからかい返したりできるんだけど……そんなことできないからね。

 風紀委員が風紀を乱すな。


 こうして、思い出話をしつつ帰路を行く。

 桜の小道での出来事だった。

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