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みかん箱の幼女1

幼女を拾った。ゴミ捨て場の小さなみかん箱の中で、純白のワンピースを身に纏い体を猫のように丸め、スヤスヤと寝息を立てていた幼女だ。

 白銀色の絹でできたような滑らかな髪の毛が夜風に吹かれて、綺麗な顔が見え隠れする。長い睫毛の下に隠れている瞳はきっと宝石のように綺麗なのだろう。


 僕はその幼女に少しためらうようにして触れた。

 すぐに揺り起こさなかったのは、ガラス細工のような肌に僕のように汚れた手で触れた瞬間、粉々に散って消えてしまいそうだったからだ。それでもやっぱりこんなところに一人でいる幼女が気になり、僕はそっとその肩に触れた。


「ち、ちょっと……君大丈夫?」


 触れた肌の暖かさに少し安堵しながら、僕は今度は少し強めにその体を揺すった。


「ねぇ、君」

「……ん……?」


 うっすらと開けられる瞳。ああ、やっぱり綺麗なエメラルドグリーン。宝石のような輝き、何も悪いことなんて知らないと言ったような曇りなき眼。

 さぞ声も可愛らしいのだろう。そう思った矢先だった。


「……ああ、お前だな? 私を呼んだのは」

「……へ?」


 せいぜい四つ、五つにしか見えないその姿。それなのに、その姿に似合わないほどの大人びた、いや少し老成した声、そして言い回し。

 声そのものは大人のような声なのだが、その発声の圧は何百年と生きている老婆を思わせるようなものに僕はこの目の前の幼女から発せられる声とは信じられず辺りを見渡した。

 しかし、こんな深夜近くに辺りを歩いている人なんているわけなく、ましてや〝この〟場所だ。

 僕がぽかんとしていると、再び幼女は口を開いた。


「貴様が呼んだのだろう? 来てやったぞ」


 そう言ってふにゃりと笑うと、再び眠たそうに体を横たえた。具合が悪いのかと心配したけれど、スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てているのだからそんな心配はいらなだろう。そう僕はこの不思議な幼女を一瞥してポケットの中の携帯を取り出した。

 とりあえず迷子として警察にでも届け出るべきだろう。そう思ったのだが……


「圏、外?」


 何故だかいつもならアンテナと4Gと堂々と書いてある場所に不穏な二文字が浮かんでいる。

 電源を付け直してみてもダメ。携帯がダメになったのか、それとも電波障害の類の何かか。

 僕はため息をついて携帯を仕舞うと、とりあえずダンボール箱に入っている幼女を抱えて学園の寮を目指した。ここから近い寮に行けば電話もあるし、寮母だっている。だからそうしたのに……


 気がつけば僕は寮の自室で横たわっていた。ハッとして硬い床に寝ていた僕が目を開けると、仁王立ちした幼女がそこに居たのだ。


「おはよう! 随分と遅い目覚めだな!」


 真っ先に思ったことは、今何時だろうとか、そんな事じゃなくて、


 幼女を誘拐してしまった……


と言う事だった。


───

 

 誰かに、オマエはダメなやつだと言われた。大人に社会不適合者のレッテルを貼られ、僕は社会から追い出された。

 

 ここは人工島。この人工島にあるのは高校一つとその学生寮。日本のとある島の近くに作られて、最寄りの島まで行き来するには一日三本の連絡船のみ。本土には一日一本の直通便がある。

 そもそも、なんでこんな人工島が作られたのか。それは現代社会が大きく反映されている。

 流れ行く時代、希薄な人間関係が好まれるのに社会で必要とされるのは濃厚なコミュニケーション。人々は心を病み、ついに年間自殺者数が五万人を超えた時代。

 ここはとある理由から高校に通えなくなった子供達が四年間という少し特殊な年数をかけて卒業する、いわゆる社会復帰プログラムを兼ねた高校。

 国の政策で若い頃から心身健康な体を目指す事が推奨され、この学園は政府からの多大な補助を受けて大きな期待を背負って開校したが、今となっては若者の間では【島流し】と呼ばれている。

 いじめなどをはじめとした所謂引きこもりのみを対象とせず、いじめの加害者、そして様々な罪を犯した者にも広く開かれたその校風は、独特の雰囲気をまとったまま世間から揶揄されるような場所となってしまった。

 これは、そんな高校に通う彼ら、そして誰かの物語の些細な一遍である。


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