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素直な子

作者: 海蒼柊

「あなたが素直に育つようにって願ったの。だからあなたは『直己』って名前なのよ」

 母に自分の名前の由来を聴いた時、そう聞かされた。父はさらにつけ加えてこう言った。

「素直な己を持ちなさい、って意味だぞ。元素の素に己で"もとき"か、素直って書いて"もとなお"か、今の名前か、母さんと揉めたんだけどな」

 なおき、という名前は、幼稚園の頃はあんまり好きじゃなかった。皆外国人の名前みたいな、あるいはかっこいい名前を付けられていたから、こんなのはもう使い古された名前だと思っていた。

 しかし、小学校に入ってからは、他にも日本人っぽい名前の人がいて、別に珍しいというか、古い名前じゃないんだな、と内心喜んだ。

 小学校低学年の宿題で、『親に自分の名前の由来を聞く』という変な物が出されたので、家に帰って聞いてみたら、何でそんな質問をするのだろう、みたいな顔をした後、にっこり笑って両親はそう答えたのだ。


 名前の通り、僕は素直な子に育った。小さい頃から、親の言うことをよく聞いた。

「あんなふうにワガママな人になっちゃダメよ」

 主に自分の世話をしてくれるのは母親だった。小学校に入る前から、親の言うことに素直だった。そうしていれば親は僕を褒めてくれた。

「勉強を一生懸命しなさい」

 小学校に入学して、人間関係とか、社会がちょっと広くなった。親の言うことは先生もだいたい同じことを言うから、そういうのが当たり前なんだなと思っていた。

「好きなものを見つけなさい」

 両親はそうやって僕を手厚く育ててくれた。

 僕はお笑いが好きだった。芸人さん達のことを、あんなふうにおどけてみんなを笑わせることができるのがすごい、と素直に思った。

 当時デビューしていた、好きな芸人さんのネタの決めゼリフを真似すると、両親はすこぶる笑ってくれた。

「よく似てるねぇ」

「すごいねぇ」

 そんな事を言ってくれた。僕はとても嬉しかった。純粋に、他人が笑ってくれたことが嬉しかった。


 中学生になると、自分で一発ギャグを作ったり、コントを考えたりするようになった。底抜けに明るいことだけは誰よりも秀でていると自負していた。周りからも、こいつは面白いやつだ、と思われていたのだろう、友人は学校中にいて、その誰もが自分といると笑ってくれた。

 その中でも一番の友人は小学校の頃からの仲で、やんちゃなやつだった。しかし、僕といるといつもニコニコしているので共々とても可愛がられていた。

 彼は中学生になると、元々の勉強嫌いから成績が落ち、親と反発するようになった。家や学校を抜け出し、公園でたむろする、まるで絵に書いたような不良生徒になった。

 僕はときたま彼が学校に来ては、度々先生に怒られているのを見かけた。彼はつまらないような、悲しいような表情をしていた。僕はそれを見逃さなかった。

 友達が悲しんでいるのを見過ごしてはおけない。きっと先生に怒られるから学校が楽しくないんだ、と思った。

 彼が怒られないようにしたら、きっと学校も楽しくなるはずだ。そう思った僕は、彼を何とか不良行為から遠ざければ、先生に怒られることもなくなると考えた。

「先生、僕に何か出来ることはないですか」

 急な相談に応じてくれた担任の先生は僕の様子に驚いて、目をぱちぱちさせた。

「……君は友達思いの子なんだね。すごいよ」

 そう言って目を伏せた。

「……そうだね、何か、彼に出来ることは無いんだろうか」

 僕はもう一度問うてみた。

「先生は何かやってみたんですか?」

 先生は答えた。

「もちろん。家庭訪問とか、二者面談とか、たくさん色んなことやってみたよ。着実に良くなってると思うよ」

「僕にはそうは見えません。確かに小学校の頃からああいうやつだったかもしれないけど、親に反抗して学校を抜け出すようなやつじゃなかった」

「君にはそう見えるかもしれない。ただ成績自体はなんとも言えない……というより、良くない。それに、出席日数も足りなくなりそうなんだ」

 僕はこう言った。

「僕になにか助けになることがあったら、手伝わせてください!」

 そうすると、考えを整理するように、先生はゆっくりと頷いた。

「わかった。君の力を貸してくれ」

 先生は僕の性格を理解していて、なおかつ僕の友達思いな一面を彼の学校復帰に役立てようとしてくれた。先生に頼られた僕はいっそうやる気が出た。

 僕には笑わせることしか出来ない。確かに彼を笑わせることはできよう。しかしそれが彼の問題を根本的に解決するものでは無いことくらいはわかっていた。それでも彼と学校に通う事を現実にすることぐらい、僕には出来るはずだと思っていた。

 きっと僕は彼を笑顔にする。そう意気込んでいた。


 先生と彼と、新たに加わった僕を含めて三者面談は衝撃的であった。彼は先生に連れられて一緒に教室に入ってきたのだが、僕の姿を見るなり開口一番こんな事を言ったのである。

「ふざけんな、なんでお前がここにいるんだよ。お前だよ、お前が気に入らねぇんだよ。ヘラヘラ笑ってばかりの、なんでお前が良くって俺はダメなんだよ。おかしいだろ」

 要領を得ない支離滅裂な言葉だったが、僕が嫌われてることくらいは分かった。

「どういう意味だよ? なんで僕を嫌うんだ? 友達だろ?」

 僕は椅子から立ち上がって言い返した。

「お前なんか友達じゃねぇよクソ野郎。誰彼構わず媚びてばっかで、ダッセェ。つまんねぇな、俺は帰る」

 それだけ言い捨てて、彼は自分が座るはずだった椅子を蹴り飛ばして教室を出た。

「待ちなさい!」

 先生の言葉も無視して彼はどこかに消えていった。

 先生は気にしないでいいと慰めてくれたが、僕は悲しかった。失意のままに家に帰った。

 なんで、あんなに仲が良かったのに、嫌われてしまったんだろう。なにが、気に入らなかったのだろう。色んなことを考えたが、頭の中は整理がつかなくて、結局僕は両親に夕食の席であった事を全部洗いざらい話した。

 両親は全てを聞いてこんなことを呟いた。

「次は、あなたの事が嫌いな人も笑ってくれるといいね」

 何気ない一言だったのかもしれないが、僕には大きな意味を含んだ言葉として胸に突き刺さった。


 誰も僕の事を見て悲しんだり、嫌いに思わないようにしたい。どうしたらいいんだろう。その日は一日眠れなくて、ずっと考えていた。

 僕が出した答えは、面白くなる事だった。

 単純な事だ。みんなを笑わせる。テレビに出てるお笑い芸人なんかより面白くなる。みんなが平等に笑ってくれる存在になる。

 他の人達よりずっとみんなを笑わせられる存在になれば、僕の事を嫌いになる人がいなくなると僕は思った。

 次の日から、ギャグ漫画や、コメディ小説、テレビのドラマやバラエティ、ありとあらゆる「笑い」を見るようになった。クラスでも今まで以上に色んな人と喋って、とにかく笑ってもらうことを考えた。

「コントでも漫才でもフリートークでもオヤジギャグでもいい、みんなが笑ってくれればそれでいい」

 学年が上がって、去年と違う先生と二者面談をした時はそんな話をした。

 努力は運良く実って、みんなが笑ってくれた。持ちギャグが出来た。漫才が書けた。仲のいい友達が増えた。文化祭でピンコントもやった。

 しかし不良になった彼の席はいつも空席だった。どれだけみんなを笑わせても、彼だけは笑わせることが出来なかった。悔しかった。


 笑いの勉強ばかりで学生の本分である勉強の方は怠っていたので、中学を出た後は商業科の学校に通うことになった。正直、流れで入学したと言っても過言じゃない。

「この学校で専門知識を蓄えて、そのスキルを早く社会に出て発揮したいです」

 面接の時のセリフなど嘘も方便だった。

 実際、専門科目は頭に入らなかった。授業中だろうと学校中のみんなの顔を一人一人思い出しては、彼らを笑わせることばかり考えていた。持ちギャグは増える一方だったし、話し方も色々挑戦して、たまには失敗することもあったが、その繰り返しで話しかけた人誰もがどんどんニコニコするようになっていった。


 二年生になって、二者面談の時に先生とこんな話をした。

「君はフレンドリーで明るく、自分から積極的に他人と関われる。社会に出た時きっと役に立つな」

 僕は首を横に振った。

「いえいえ、みんなに笑ってて欲しいから、こうやってるんです」

「それが良いんだよ。人は第一印象が大事だ。協調性の高く見える人間は好かれる。個人にも企業にも、ね」

「僕に協調性があるんですか」

 先生はうむ、と唸った。

「そうだね、君はコミュニケーションを取るのが上手い。」

「自信があります!」

「だろう? それでいい。ただ、勉強はちゃんとしよう。成績ギリギリで卒業も危ういぞ?」

 頭を掻きながら僕は答えた。

「難しいんですよ、勉強。自分の好きなことは得意なんですけど……。ほら、国語は成績いいですよ」

「しかし問題は専門科目だから、ちゃんと考えておくことだ。……さっきの話に戻るが、君は人と関わるのはとても上手いが、強いて言えば物事の本質を見極める力が苦手なんじゃないかなぁと私は感じている。」

 どういうことだろう、と思ったが、聞き返す前に先生は言葉を続けた。

「でも勉強をすれば、きっと身につくから、やっぱり勉強はしなくちゃなぁ。分からないことがあったら、先生捕まえてどんどん聞くことだ。君ならきっと出来る。」

 さらに先生はこんなことを聞いた。

「それから……将来はどんな職につきたい?」

「ええと……。」

 そんなこと僕は考えたこともなかった。考え込んでしまった僕を見て先生は言った。

「じゃあまずそこを考えよう。行きたい会社やなりたい職が決まってしまえばあとは頑張るだけだ。一緒に頑張ろうな」

「はい……」

 二者面談が終わっても、先生の言葉がずっと思い返されていた。ぼんやりしていたので帰り道で何度か転けそうになった。

「あんたご飯はいいの?」

「あー……」

 家に帰って母親にそう呼びかけられても曖昧な返事しかできなかった。何か大切なものがある気がした。自分の感情というか、信念のようなものがそこに反映されるんじゃないか、そう思った。

 僕がずっと考えてきたことは、他人を笑わせることだ。それも出来るだけ多くの。将来なんて考えてなかった。

 ……それは簡単な閃きだった。笑わせることを仕事にすればいいじゃないか。

 自分の中で合点が行くと、なんだ至って簡単な話だ、重苦しくのしかかってきた気持ちはどこかへ吹き飛んだ。これまでの十数年分やってきた事が自信になって、それを後押しした。


 後日、先生から呼び出しを食らった。進路希望書の、進路希望欄に「芸人」と書いた事について、との事だった。

「これ、一応聞いておこうと思ってね」

 僕はなんで呼び出されたのか分からなかったので、素直に聞いてみた。

「なりたい職業はお笑い芸人です。何か問題でもありますか?」

「問題とは言わないよ。ただ、ここは商業科の専門学校だから、当然他のみんなはそういった職を希望する。でも君はこう書いた。将来に関しては君の自由だが、あえて聞いておくよ。……本当にこれでいいのか?」

「ええ」

 僕は二つ返事で答えた。

「人を笑わせる仕事がしたいと思ったんです。」

「は、はぁ……そういう事にしておこう。……君も分かってると思うけど、それでも言っておきたい。人生は一度きりだ、君にはもっといい選択肢があると先生は思う。よく考えて将来は選びなさい。まだ二年生だしね、時間はあるよ。では」

 そう締めくくって二者面談は終わった。

「君の今の決断は、親に話してもいいかもね」

 と、先生は付け加えた。

 家に帰って親と話をした。将来の夢を決めた経緯と、先生に言われたことについて話した。

 僕は本心から芸人を目指したかったから、素直な自分を親は認めてくれると思っていた。


「お笑い芸人? 何言ってるの。今から芸能界に入るなんてそんな難しいことしなくていいじゃない。素直に会社員になりなさいよ」

 しかし親から告げられた言葉は真反対だった。

「お前は何を見てそう思ったんだ。素直になりなさい」

「僕は本気だ。何度もお父さんやお母さんを笑わせてきただろう!」

 僕は食ってかかった。何も間違ってないはずだ、と伝えたかった。

「それは俺達がお前の事を愛しているからだ。」

 父はそう言った。

「あなたのことを愛していない人の事を、あなたが笑わせられたことがあった?」

 母はそう言った。

 間違ってる。直感的にそう思った。

「こんなのおかしい!」

「おかしくないわ。お母さんは今からじゃ難しいと思うわ」

「僕ならやれる! 絶対やれる」

「直己!」

 父は怒鳴った。僕は萎縮して黙り込んだ。

「直己。お前は勉強ができん。お笑いが好きなのはよく見てきたよ。でもな、まずは勉強が出来んとお話にならん。テレビって言うのはそういうもんだ」

「お笑いの勉強ならずっとやってきた、見てきただろ」

 僕は辛うじて食い下がる。父は頭を振ってこう言った。

「俺が言ってるのはお笑いの勉強じゃなくて普通の勉強の事だ。五科目が出来なかったから今の高校にお前はいるんだろう」

「でもうちは商業科だから普通の勉強なんかしなくていいだろう!」

「そういう事じゃないだろうが!!」

 父はなおも怒鳴った。そして静かにこう言った。

「父さんはな、お前をこの高校に入れたことを後悔してるんだ。もっといい学校に行っていれば、もっと多くの選択肢が……お前の言うようにお笑い芸人になる道だってあったかもしれん。だがお前は違う。」

「……違わないだろ?あの人たちはどんな生い立ちでもステージに立ってる。僕が立ったっていいだろう!」

「お前に才能があるのか!?」

「才能ならある!今まで努力してきた分と、これから努力する分がある!」

「……俺から言えることは一つだ。」

 父は頭を抱えて席を立った。

「屁理屈をこねるな、直己」

 そう言い放って、父は自室に消えた。


 父の背中を見送って、母はゆっくりと口を開いた。

「直己。父さんはね、真面目にコツコツ頑張って、正社員になって、今の役職を任されてるの。」

「……。」

 まるで小さい子供に言い聞かせるような口調で、母は僕に話しかける。

「親に言われるまま勉強して、嫌だっていいながら正社員になって、本来やりたくなかったことをやってるの」

「何が言いたいんだよ。やりたくないならやらなくていいだろ」

 僕はイライラしながらぶっきらぼうに言い放つ。

「そういう訳にも行かないの、子供じゃないんだからわかるでしょ」

 母はなおも言う。

「お父さんもお母さんも、元々あなたを素直な子に育てたくて、なるべく自由に、何でも与えてきたつもりよ。でも、あなたが今の高校に進学した時に、お父さんは気づいたの。あなたの自由にさせていたら、どんどんあなたは自分の将来の道を狭めてしまう。だからこれからはちゃんとコツコツできるように育てていかなきゃならないって、そう思ってるの」

「……」

「お金だってないの。これから頑張るためには、お金が必要よ。でもうちにはお金が無いの。だからあなたには、しっかり稼げる大人になって欲しいの。」

 僕は溢れる感情が止まらなかった。

「そんなのわかんないよ!!」

 視界が歪んだ。

「わかんないだろ!!」

 それでも気にせず母を睨みつけたら、頬を涙が伝った。

 母も悲しい目をしていた。頬に涙が伝ったあとがあった。

「なんでわかってくれないの?」

 母の声はいつの間にか酷く震えていた。

 僕はそこで気づいた。両親を悲しませてしまったと。

 僕はまた、悲しませたままにしてしまうのか。それは二度とごめんだった。

 僕は歯を食いしばった。長い沈黙の後、僕は言った。

「……悪かったよ、僕が悪かった。」


 高校生活も残り半年を切った。二者面談で僕は先生に、予め書いてきた進路希望書を見せた。

 進路希望の欄には、イベント企画系の会社の名前を書いた。悩みに悩んで、ここが一番いいと思った。ここ以外は――例外の職業ひとつを除いて――絶対嫌だと言うつもりでいた。

 学年が上がる頃には学業成績も上がっていて、なかなかの位置にいたし、過去の二年間で取れなかった資格も必死になって半年で取った。

 先生は大きく頷いた。

「いいんじゃないかな。ここなら君の希望通り働けると思う。先生は聞いたことない企業だったけど、調べてみたら結構面白いことやってるところだったな。はは。でも地元企業じゃないけど、いいの?」

 僕は真剣な顔つきで答えた。

「ここ以外は嫌なので」

「毎回言ってるね」

「当たり前です。」

 先生は怪訝な顔をした。

「ちょっと、一応聞いてみていいかい?」

「なんでしょう」

「これは先生が個人的に気になるだけだけどね。」

 そう前置きをして、先生は僕にこんなことを聞いた。

「なんでそんなにこだわるの? 地元でも同じような事やってて収入の多い企業はあるし、他の地域に行く必要は……。」

 僕はすぐさま答えた。

「ここがいいからここなんです。それ以上もそれ以下もないです。ここに行く以外嫌だって思ったんで、それが地元じゃないなら地元を出るまでです。」

「おぉ……そうか。情熱を感じるよ。」

 先生のその言葉が気に入らなくて、僕は反射的に呟いてしまった。

「別に情熱はないですけどね」

「何だって?」

「いいえ、なんでもないです。今日はこれで終わりですか?」

「ああ、お疲れ様。気をつけて帰れよ」


 家に帰るとニコニコ顔の母がご飯を作っている。

「何かあったの今日?」

 僕はそれに笑顔で応えてみるが、内心ではこんなの僕がしたいことと違うと思っている。

「ええ、美味しいケーキ屋さんを見つけて、買ってきちゃった。」

「やったー、たのしみ。夕ご飯の後に出してね」

 それだけ言って、自室に逃げるように入る。ドアのバタンという音が、一年くらい前を境に強くなった気がする。

 そして動画サイトでコントを見る。部屋から声が漏れないように、面白い時はくつくつと笑うように心がけている。両親に迷惑だからだ。

 そうやって笑っている時、ふとした瞬間に笑えなくなる。大概、そういう時は中学の時の不良になった友達の顔か、自室に消える父の背中、或いは母の涙がフラッシュバックする。

 僕はつまんなくなってタブレットをぶん投げて、何もしたくなくなる。それでも腹は空く。そうでなくても両親を悲しませないために、くだらない笑顔を貼っつけて会話をしに部屋を出る必要がある。

「直己〜」

 母の声が聞こえる。ご飯だ。行かなきゃ、という気持ちと、あんなやつの所に行きたくない、という気持ちがせめぎ合って、最終的に暗い顔をして自室のドアを開ける。空く瞬間に、また笑顔を貼っつける。

「ご飯ー?」

 ああ俺は、何をするためにここにいるんだろう。



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