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M属性 ~嗚呼、あなたに踏まれたい~  作者: 高谷正弘
第五章 プールヴァ帝国
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百六十九夜 マレビト

 市井では2月25日の降誕祭(クリスマス)に向け、気持ちが高揚する時期である。

 すでに4週前の日曜日から、待降節(アドベント)が行なわれていた。祈りを捧げ断食をして、審判者の再臨に備えたのだ。

 当日は教会で礼拝が行われ、1月5日までの12日間が祝祭となる。

 広場では民衆劇が幕を開け、動物や女性に仮装(マミング)して家を回り、踊りを披露したり民謡を歌ってプレゼントに期待した。

 1月1日には教会で愚者の祭りが催される。

 司教に代わり助祭がミサを行うなど、秩序の乱れと笑いを演出した。この期間は愚かな行為が許されたのだ。

 これには習慣となった役割を逆転させ、社会の緊張を解きほぐした側面もある。

 祝宴を開いてガチョウや猪の丸焼きやに舌鼓を鳴らし、貴族の晩餐会ともなれば白鳥や孔雀が食卓を彩った。

 宗教行事だけではなく、準備に数週間を費やして楽しむ一大イベントである。



「バルチャスと申します、以後お見知りおきください」

 都市部の浮かれた喧騒とは異なり、皇宮の居室には複雑な空気が流れていた。

 紹介された男が右手を胸に会釈する。人の良さそうな笑みを浮かべてはいるが、精巧にできた仮面を予感させた。

「オーランドゥム卿、コルポレ卿! 軍議に遅れ、大変申し訳ございません!」

「……ェン!」

 男を連れて来たフェスティーナが礼をとり、レンテも甲冑を鳴らして続く。

 身長差がいちじるしい「仁王」の同調は、どこか滑稽さを誘う。

「なに細かな意見のすり合わせだ、気にしないでくれ。『四君子』と『三悪党』も召集したのだが見ての通り、因果伯とはかくあるべしさ」

制御不能アウトオブコントロールが通常と思われては不名誉です。ですが困ったことに彼らの不在で、より有意義な軍議になりました」

 オーランドゥムは両手を広げて指し、コルポレが腕を組んで目線を下げる。

「双璧」が苦笑とため息とを演じて出迎えた。そこが舞台ならば役者の4名には、スポットライトが当たっていただろう。

 皇太子直属の家臣たちは、異質な気配を放っていたのだから。

「それで彼が盗賊に襲われ、命拾いしたという遍歴商人か」

「ええ偶然ですが近くに居合わせ救助しました、ご紹介いたしますわ」

 視線を移された商人が背をただす。プールポワンとコタルディの貴族服に対し、簡素な貫頭衣と帽子(バレット)姿は少々浮いていた。

 しかしさして気にする様子もなく、歯切れよく台本を読みあげる。

「名にし負う方々に助けていただき、感謝に堪えません。そればかりか皇宮に登城できるなど、望外の喜びに打ち震えております」

 広げて見せた手の平が微かに震え、その手腕(・・)に場がほころぶ。

 商人の能弁さに司令官が手を打って笑い、秘書すら口元を緩めた。しかし居室の片隅にたたずんだ少年だけ、微動だにせず影に呑まれている。

 燕尾服を知らぬ時代の者からすれば、大道芸人にしか見えない。

 最大に浮いた姿のオルロックは、呆然と商人を見ていた。焦点の定まらない瞳が何かを求めてさまよう。

「バルチャス? 彼になにを……いや、私の方か?」


「うむっ災難に見舞われたな、疲れているなら重荷を負うことはない。滞在費など気にせず傷が癒えるまで安らぎなさい」

 オーランドゥムの保証ほど、安心を象徴する言葉はない。

 バルチャスは胸をわしづかみ謝意を表す。頭を下げると赤茶色の巻き毛が乱れ、平民の苦労と苦しみが如実に表れる。

「これは……っこれはありがとうございます! 昔から逃げ足だけは得意でして、それでどうにかやってこれましたが……最後に良き方と巡り合えました」

「最後?」

「ハハッ……掻き集めた資金を元手に、帝都で一旗揚げようとしたんです。それがこうなってしまっては……もう一度初めから立て直す、気力がありません」

 潮時でしょうね――。

 あきらめきった笑みに合わせ、目には涙すら浮かんでいた。

 上目遣いで値踏みする仕草に、貴族ならば誰もが思い当たる。「金の無心」――女性陣2人の目が遠慮なく細まった。

「――バカなことを言うな!!」

 だが突如の怒号と共に疾風が襲う。

 司令官が商人の右頬を打ったのだ。手の平が赤々と輝き、さして筋肉質でもない体が床に叩きつけられる。

「見ればまだ20代半ばだろう、人生をあきらめるのは早すぎる! 此度の損害を算出して提示せよ、そのくらい俺が支援してやる!」

「しっしかし……貴方(あなた)様には、なんの関係も」

「帝都周辺での盗賊行為など許されざる謀反っ! 帝国の重臣として俺の隣人を、俺自身として助けるだけだ!」

 座りこんだ商人に目線を合わせ、肩をつかむと身動きもできない膂力。

 だが司令官の真摯な瞳は、手の平以上に赤き光を発していた。

「いいか、けっして腐るな! 投げ出すなっ! 最後の審判を受けるその日まで、救いを信じて命をまっとうするのだ!!」

「お……っおお! あり……ありがとうございますっ!」

 商人が手を付き嗚咽を洩らすと、伏せた目から光が落ちる。司令官は震える背を優しく叩き何度も頷くのだ。

 戦に傷つき断念した兵士に、騎士が激励する叙事詩がそこにあった。


「まあ下賤な(やから)です、資金援助を匂わせている間は裏切りませんわ」

「ッ……!? ……ィーナ!」

 フェスティーナの物言いに、レンテが袖を引きおそらくはたしなめている。

「それでフェスティーナ嬢、何故この場に下……ん"ん"商人を(・・・)参画したのです?」

 皇宮はもとより因果伯が軍議を行う居室、扉の前には衛兵すら配していない。

 平民が立ち入れる場ではなく、コルポレの疑問も当然だった。

「ええ助けた手前放ってもおけず、本日もケガの様子をうかがいに行ったのです。そこで聞くともなしに聞いた素性に驚き、遅れてしまったのですけど……」

 少しばかり言い訳を含んだ令嬢が、巨漢を見上げて同意を得る。

 ある意味土地に縛られている貴族には、意外すぎる商人の生い立ちだった。

「彼は以前大道芸人の一座を率い、各地を巡業して周っていたそうです」

「ああなるほど、座長の経験があるのですね。商人にしては表情を隠し過ぎだと、違和感を感じたのはそれですか」

 戦場の情景を浮かべる男2人を冷ややかに眺め、秘書がふに落ちる。

 ですが雰囲気だけで言えば盗賊ですね――さすがに批判が過ぎると思ったのか、視線を外して呑みこんだ。

「うさん臭そうな笑顔ですからね、私ならけっして信用いたしませんわ」

「……マッ、……ィーナ!」

「なんですレンテ、先ほどから。ですが此度の西征における、貴重な知見を得られそうだったのです。国をまたいで興行をしていたと……つまり」

 巨漢が再び袖を引き、令嬢が不思議そうに問う。

 小首をかしげたが秘書に向きなおり、手を組んで因果(うんめい)の神に拝礼した。


「彼は小国の都市と街道を――ヴィーラ王国の経路を、把握しているです!!」


「密偵が調べた絵図に、地理や地形も記されてはいます。ですが実際に旅した者の印象ほど明確なことはありません、情報を共有すべきと判断しました!」

「なんと!」

 フェスティーナが持参した地図をテーブルに広げる。

 やにわバルチャスが舞台の中央に配された。オーランドゥムがさらに力をこめ、肩を揺すって頭が前後にズレる。

「すばらしい! バルチャス、これは真実(まこと)か!?」

「はっはい、旅の途中で疫病が流行りまして、それからは商人を。興行できたのは大都市だけですが……それでよければ、はっきりと覚えています」

 商人の宣言に、因果伯たちの視線が交差した。

 眉根を寄せていたコルポレですら、やや興奮して目を見開いている。

「騎士団を要する大都市の位置は重要です、騎行も覚悟していたのですが……」

「そうだ街道を外れれば戦いは回避できるが、斥候を放っての行軍は蝸牛の歩み。地の利がない我らにとって、挟撃の愚を犯さずにすむのは朗報だ!」

「双璧」が額に汗を浮かべて目を輝かせた。

 現代と違い、傾斜と寸法を明記した精巧な俯瞰図など存在しない。未知の他国へ侵攻するのは、見通しが立たない迷宮を手繰るに等しい。

 兵の不安と補給線の長さは、疑心暗鬼と疲労だけを積もらせる。

「これが事実ならばです! どうやら虚偽ではなさそうですが、私はどうにも……不審の念がぬぐえません」

 秘書は期待とは裏腹に、商人との距離を置いていた。

 何が引っかかるのか、本人にも分かっていなかったのかもしれない。

「コルポレ卿が感じる漠然とした疑問は、他にも理由があるからですわ」

 令嬢が頷き、半眼となって軌跡を追う。

 O属性の瞳には、ひときわ太く立ちのぼる光が視えていた。

「彼――バルチャスは、啓いて(・・・)いるのです」



 ☆



「信じられん……王都を含めても2万人以上の大都市が、3ヵ所しかないのか」

「これは予想を下回る小国ですね。モルディブの樹海がなければ早々に侵略され、何処かの属国にされていたことでしょう」

「……ァン、……シダ」

「王国を守る霊山、魔獣が守護神とは皮肉な話だ――ってレンテが言ってますわ。エクス殿が永世中立国を貶めていましたっけ、遺憾ですが私もそう思います。この小国はなるべくして亡国となるのです」

 悪あがきをしているだけ――。

 ヴィーラ王国の絵画的な地図に、大都市と街道が記されている。

 新王都とウダカ、ターダ山を挟んでサーガラ。そしてプールヴァ帝国との国境に位置する、マナスルの経路が描き足されていた。

 北東に鎮座するモルディブが、禁足地のごとく塗りつぶされている。

「……私は元々、パシュチマ連合王国の生まれでして」

「双璧」と「仁王」が食い入るように地図を見て意見を交わす。

 テーブルの隅にいたバルチャスが、己で描いた道を視線でたどっていた。

「高貴な方々には申し訳ありませんが、商人にとって『国の壁』は無きに等しい。街道は絶えず繋がっているのです。三ヵ国のどこへ行っても交流はありましたし、交易が途切れることはありません」

 税を収める方が変わるだけです――。

 商人が少々の矜持と、若干の揶揄をこめて呟く。

 上目づかいで地図から視線を外したコルポレが、髪をかき上げてイラだった。

「国を背負わぬ者の気楽さでしょうが、ここは酒屋ではなく我らも農民ではない。帝国の貴族を前にしたり顔で語られると、いささか血が冷えますね」

「あっ! もっ……申し訳、ありませんっ!」

 商人が飛び上がって恐縮する。

 あるいは秘書が腰に佩いている剣が、冷たく音を立てたのかもしれない。

「おいおいコルポレ卿、話くらいさせてやってくれ。商人が行くべき道を教える、助言を与える……含蓄のある比喩ではないか」

 オーランドゥムが妙に突っかかる朋輩に苦笑を返す。

 気にするなと商人に頷くと、地図の出来栄えに手を広げて喜びを表した。

「どうだバルチャス、商人の……お前の歴史が脚光をあびたのだ! これは貴族にはできない勤めだろう、どんな生き様であろうとけっして無駄なことなどない! 一旗揚げられたな、なあバルチャス――っ!!」

「は……っはい! おっお役に立てたなら、幸いです!」

 司令官が覇気をこめて叫び、商人と笑い合う。

「商人なればこそ、ですか」

 再び地図に目を落とした秘書が、自虐ぎみに苦笑した。

「さてオルロック、君はどう見る?」

 指揮官が振り返って声をかける。

 テーブルの輪には入らず、少し離れていた少年に注目が集まった。


「君もルーシー嬢の従者として国をまたいだ身。年齢に似合わず随分と博識だが、他国の現状も把握しているのなら教えてはくれないか」

 寛容な笑みの奥に隠された危険な気配。

 偽証を述べれば腰に佩いた剣が輝くのではないか。オーランドゥムは気前のいい領主ではなく、軍隊の司令官であるのを如実に表していた。

「私からは付け足しも修正もありません。やはり実際に旅をされた方の見識です、その正確さに思わず舌を巻いていました。ですが肝心の――」

 ニコリと微笑んで謙遜したオルロックだが、ふと我に返る。

 口元を押さえしばし考えると、地図の一部を指して口籠った。

「此度は前哨戦と銘打ち、兵の消耗を抑えての連戦。ですが肝心のマナスルから、新王都への経路が……なぜか不自然なほど、記憶にありません(・・・・・・・・)?」

 自分でも理解できないのか、見開いた目が閉じれない。

 他の経路は自分で旅したように(・・・・・・・・・)思い起こせる。それなのにスッポリと抜け落ち、真っ白のまま描かれない一部。

 欠けている環(ミッシングリンク)だと、誰かが耳元でささやく。

「記憶にない? それは聞き覚えがない、ということか?」

「……えっ? ああっそうです、そうです聞き覚えがないのでしょう。おそらくはこの辺りを知る方と、出会わなかったのでしょうね」

 そうだ記憶は確かだし、忘れている訳ではない――。

 内心の動揺をひた隠し笑顔を張りつける。普段から他人事のように話す少年が、より無機質な表情で納得していた。

 あるいは納得するように、意識を制したのかもしれない。

「しかし行軍は隠れえぬ巨大な蛇です。経路が分かるからこそ陽動される危険は、常に想定しておくべきですね」

「陽動の危険? それは――…」

「あの、こちらの少年は? とても皆様と同じ貴族とは、思えないのですが……」

 コルポレから叱責された手前、バルチャスが言い淀みながら問う。

「ああっ奇妙な姿だが大道芸人ではない、因果伯(なかま)の従者をしている希有な少年だ。見かけの年齢とは不相応に深い教養は、敬意を表して余りある」

 司令官の評価に、少年が会釈を返す。

「おお初めまして(・・・・・)オルロック様、私はバルチャス。一応、商人をしております」

 どこかで聞いた言い回しで、商人が苦笑する。

 そして握手をしようと手を差し出す。けれど少年は不思議そうに見ると、虚空に何かを思い出そうとしていた。

 司令官も手を出してどうするのかと、商人の行動が分からず2人を見比べる。

「意識の混濁……『綺人(きじん)』……か」

 チャンドラ(・・・・・)は何事もなかったように手を引っ込め、笑顔の下で眉をひそめた。


「殿下がよくおっしゃっていました、戦争は外交の一手段だと。ならば商人をして密偵に見立てても、国益にかなうなら認められるでしょう」

 ましてや啓いている者ならなおのこと――。

「平民を侮っていたわけではありませんが、視野が狭まっていたかもしれません。疎放な姿勢は改めましょう、ですが彼に因果伯の爵位を叙勲されるのは……」

 コルポレが苦悶の表情で腕を組んだ。そこまでバルチャスとは合わないのかと、フェスティーナの目が瞬く。

 肩に置かれたレンテの巨大な篭手(ガンドレット)に手を添え、おもむろに胸を張る。

「バルチャスに限らず帝都ほどの規模なら、いつの間にか啓いてる職人がいます。意志の力で啓けるかは因果次第、けれど例外はありますわ――」

「――絶対的な危機におちいったり、強い衝撃を受けた場合ですね」

 令嬢の言葉を受け、秘書が頷いて答えた。

「そうです戦獣部隊に次いで帝国独自の、商人による『斥候部隊』を組織する! 臣民を戦場で鍛え、門を啓く可能性を高めれば――」

「――他国を圧倒する数の因果伯を、帝国は抱えこむことができる!!」

 令嬢の言葉を受け、オーランドゥムが手を打ち鳴らして呼応する。

「……ィモ、……ナイ!」

「そうよレンテ! プールヴァ帝国が世界を制する日も、そう遠くありません!」

 巨漢の相槌を受け、令嬢によって因果伯のリレーが〆られた。

 すでに勝利を確信し、小国の空に帝国の軍旗がはためいていたのかもしれない。

「オルロックの軽蔑する(コンテムン)と、バルチャスの先導者(ドゥコー)もだ! 短期決戦に挑む我らに、頼もしき仲間が増えたな!」

 司令官が手の平を指して2人を輪にくわえる。

 驚愕した「部外者」たちは一瞬息を呑み、我先にと叫ぶ。

「まっ待ってくださいオーランドゥム卿! 私は従者としての立場が――」

「わっ私も従軍するのですか? 剣を持ったこともないのに遠征など――」



「はあ!? 冗談ではないぞジジイ、なんで私が従軍しなければならんのだ!」

「ほれ予想外の結果になってしまったじゃろう。ノドゥス様をこのまま来春まで、放置(なおざりに)するわけにもいくまい?」

 古城にふさわしい色あせた石畳の上を、古参の因果伯が肩を並べて歩く。

 両者共に気配が薄い。交わされる重要な内容も、すれ違う兵士にはどこか遠くの私語にしか感じられない。

「近習として救助に尽力すれば、彼の方とて恩を感じて対応が変わるやもしれん」

「そんなに気になるならジジイがお迎えに参じればいい! 私はヴィーラ王国に、何一つ良い記憶がないんだゾ!」

「そうじゃなあ儂も魔獣に追っかけられたりと、災難つづきじゃよ。近頃は腰やら手も痛くて、今だ痺れておるよ……イタタタタ」

 ルーシーは潜伏したウダカ城で、盗賊(チャンドラ)に追い詰められ窮地に陥った。

 まだマシとばかりに三階の窓から飛び降りる決意をする。だがそれすらかなわず炎の巣に突っこみ、霞む意識の中で影が現れた。

 コンコルディアが炎の糸を無理矢理広げ、救助してくれたのだ。

「くっこの……恩着せがましい」

 広げて見せた手の平が微かに震え、その手腕(・・)に娘がイラだつ。

 おもむろに視線をそらすと、早足で老人から離れていく。

「あの盗賊め! 次に会ったらギャフンと言わせてやるゾ!」

 だいたい――。

「だいたいあの方なら……『何故もっと早く来なかった』と、叱責するだろうよ」

 久しく鼻背に残った傷がうずいた。

 老人は不敬な呟きを聞かなかったことにしたのか。遠くなっていく小さな背を、腰を曲げて見送る。

 衛兵も配さない扉が、腹立ちまぎれに開く音が響いた。

「おいオルロック! 呪詛は終わったか――っ!」




 ――ある司令官と秘書の会話――

「バルチャスが叙勲すれば13人目の因果伯だな。ならば『外郭十二門』から門を引き継ぎ、『十三門跡』か『十三門派』が総称に相応しいか」

「私は反対です……っ」

「そういえばやけに反発していたな、今度は何を考えていたんだ?」

「13ですよ!? 13番目の席、13日の金曜日、13番目の天使! どうにか因果伯は13名にならないよう、手配してきたのに――~っ!」

「……」

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