百六十三夜 開幕
「サッカーのルールはとても簡単です。手や腕を使用せず、ボールを敵陣地にある杭の間に通せば1点です」
逆に自陣地に通されると失点ですね――オルロックが蝋板に線を引き、白と黒のボールを手に説明する。
そのテントの選手はほとんど初心者だったが、異様な気配を発していた。
「じゃあボールを敵陣地に蹴ってればいいんだ、よかったねお母さん簡単そう!」
「……」
「大丈夫ですよ母君、楽しいスポーツですから」
ルーシーは少年の行動がふに落ちないながらも、母と一緒で喜んでいる。
ヴァレリーも納得はしかけたが、視線で戸惑いを報せた。三人組が誰が聞いてもヤバそうな発言をしていたのだ。
「石壁もない陣地なんからっくしょ~♥ ウチの『あとす』で撃っちゃおう~♥」
「11人くらい相手にもなりゃしないよぉ、操って同士討ちさせてやろうかねェ」
「わたし目立ちたないんやけど、ああ……端から風穴を開けてきたいが……」
漆黒のマント以上に黒い気配を撒き散らす「三悪党」である。
ペールは関わったらツキが落ちると、隅で見事に気配を消していた。
「……全部ダメです」
「「ええ――――~っっ!!?」」
額を押さえた少年が、それでも一応は反論を試みる。
盛大なブーイングにテントは揺れたが、笑顔を崩さず辛抱強く諭す。
「皆さんは帝国の得がたき要でしょう。ただでさえ市井への影響が大きいのです、どうかご理解ください」
「わからせじゃ~ん、なのに『力』を使っちゃいけないの~♥ ダメなンだぃ! だちかんの!?」
「危険だからです」
「本日は『マレフィク杯』を開会できること、大変うれしく思います――」
町の領主が赤い垂れ幕で飾られた、一段高い貴賓席で挨拶をする。
休耕地にはサッカー場が2面も作られていた。雑草が生い茂った不整地と違い、大会に向け丹念に整備されている。
ゴールラインとタッチラインには紐を敷き、フィールドがひと目で分かった。
杭には全体に色鮮やかな布がまかれている。ゴールが確認しやすいよう、上部に紐も張ってあった。
元は畑で若干の起伏はあるが、短時間で整えたとは思えない出来栄えである。
さらに周囲は、馬上槍試合を彷彿とさせる装いに変わった。
フィールドを囲んで階段状の観客席が新設され、選手用の大きなテントが並び、今までと比較にならないほど屋台が乱立している。
外周には警備の兵まで配置する念の入れよう。
観客はその豪華さに驚き、場違いではないかとたたずむ。とても町規模の市民祭とは思えなかったのだ。
これらの整備や出店などは、全てフラーテルが手配していた――。
「冬季となりはっきりしない天気も続きましたが、見事な小春日和となりました。
各領地から参加された選手と応援団、そして観覧の皆さんの、サッカーにかける想いが天に通じたのでしょう。
我が町のサッカー大会は、多くの関係者のご指導に支えられ開催できました。
ご支援された皆さまにお礼を申しあげます。
記念すべき今大会によって、近しい領地の皆さんと友好をはぐくみ、また交流を深めれたらと期待しています。
選手の皆さんは今日この日のため、熱く濃い時間を過ごされたことでしょう。
応援団の皆さんは今日この日のため、汗を流す子を友を見てこられたでしょう。
観覧の皆さんは今日この日のため、指折り数えて楽しみにされたことでしょう。
皆さんの一人一人が、『マレフィク杯』を成功へと導くのです。
これまで積み上げてきた勝利への希望が、実りある日々が、サッカーへの想いが成果となって現れるのです。
今日この日こそ、皆さんが主役です。
ケガにだけは気をつけ、練習の成果を遺憾なく発揮しっ! いつまでも皆さんの思い出に残る、最高の一日になることを切に……っ切に願います――~っ!!」
挨拶の盛り上がりにあわせ、盛大に角笛と太鼓が鳴り響く。
己の演説に感動し、領主がハンカチを取り出して涙と鼻をぬぐった。彼にとって一世一代の晴れ舞台だったのかもしれない。
「結びに当たり開催に尽力されました、ミノール子爵に心よりお礼申し上げます」
同じく貴賓席に座っていたフラーテルが、軽く手を挙げる。
領民たちは領主の長い挨拶に、早く試合がしたいと嫌気がさしていた。それでも男爵相手に無下にもできず、辛抱するしかない。
ざわつかず大人しく聞いていたが、目先が変わったと拍手をする。
気をよくした領主も拍手をあわせ、一層盛り上げようと爆弾を落とした。
「さらにミノール子爵より、贈り物を賜っております! 本日の優勝チームは納税を免除にするとの、恩賞をいただきました――っ!!」
高らかに公言した領主だったが、その瞬間領民の時が止まる。
「どうか皆さんミノール子爵に深謝の意を表し、精一杯の健闘を……健……ん?」
領主が疑問に辺りを見回し、フラーテルの顔色を確認。
なぜ静かになったのかと焦った矢先、地震に匹敵する振動と雄叫びが上がった。
「「うおおおおおおおおお――――っっおおおおお――――~~っっっ!!!」」
それはまさに爆弾が落ちた喧騒。
人頭税や地代など、農民は生産物の50%前後が徴収されたのだ。さらに領主の直営地で賦役や、戦争に駆り出されるなどの「血税」もある。
領民にとって納税免除がどれほどの喜びか。
選手のテントが天を揺らし、観客席が破城槌を受け、周囲に土煙が発生した。
「やるぞてめえらあ――っ! 足が折れても死ぬ気で走りやがれえ――っ!!」
「あんたら遊びじゃないよおっ! 本気のマジで戦いなあ――っ!!」
「この町の大会にそんな褒美が! だったら俺も出ときゃよかったあ――っ!!」
選手は円陣を組んで背を叩き、応援団は鬼気迫る声で発破をかけ、見物人は後悔と悔しさで地団太を踏む。
町の休耕地は狂喜乱舞のお祭り会場と化す。
「ああいや……これはその、ハハハッ……大盛り上がりですなあ」
領主があまりの騒ぎにおよび腰で笑うと、フラーテルも目を細めていた。
「……うむ、我が方の勝利だな」
これこそが狙いだった――。
ルーシーの生家とばかり思っていた町の、癒せぬ魔女の噂。それが事実かどうか話す者には関係ない、風説は無責任を糧にふくらむ。
悪評ほど人を惹きつけて離さないのだ。
大道芸人も来ないさして娯楽もない田舎。オルロックが始めたスポーツだけで、領地を越え賑わっていた。
ボールを蹴って楽しそうに笑う子供たち。
町の領主が持ちかけた大会だったが、この流れを活かせるのではないか。
フラーテルはできる限り大会を熱狂させるべく、近隣の町へ村へ早馬が飛ばし、領民を集客して場を整える。
狙い通り前日から観客が詰めかけ、盛大な盛り上がりを見せた。
すでに試合の結果は出ていたのだ。絶叫し沸きに沸き立つ領民の誰が、この町に魔女の噂があったと思うだろう。
「いずれ『魔女の町』は『マレフィク杯』へと、サッカーの町として記憶が上書きされるでしょうね」
騒ぎにテントから出てきたオルロックが呟く。フラーテルの心情を察し、全てのシナリオを描いた少年が貴賓席に礼をとる。
聞こえるはずもないが、フラーテルも深く頷き同意した。
「さすがはルーシー様の従者、と呼びたいが……やはりつかみきれぬ少年だ」
彼の理は、僕たちとは違う――。
「はっ? いえミノール卿、試合はこれからで……」
「ハッハッハッまったくだな」
領主の戸惑いに、フラーテルは笑って立ち上がる。
少年の言い知れぬ奇妙さを振り払い観客に向く。大将よろしく左腕を高く挙げ、堂々たる姿勢で声を上げた。
「では皆さん、存分に競いあおう――――っ!!」
「「おおおおおおおおお――――~~っっっ!!!」」
再び雄叫びが上がり、お祭りが始まる。
☆
「マレフィク杯」に集まったのは総勢7チーム。
初期の混合チームと修道士チーム、元混合メンバーの自領子供チーム。他領から子供チームが2組と、大人チームが2組。
総当り戦では時間がかかりすぎるので、勝ち抜き戦となった。
時計がないので2点先取で勝ち上がりの設定。1チームだけはシードとなるが、3試合勝てば優勝である。
77名がそれぞれの競技場に散り、緊張に体をほぐしていた。
フラーテルと護衛も貴賓席から降り、混合チームに合流している。子爵夫人にと望むルーシーと母に笑顔で接していた。
「…――下、あの閣下……ワインをお持ちしました」
「ん……おおっご苦労、下がってよいぞ」
想定以上に盛りあがった開会式に、集った領民の熱意もあふれている。
そんななかで領主は、従者に声をかけられるまで惚けていた。連日練習を重ねた挨拶も無事終了し、気が緩んだせいもあるだろう。
「確かに市民祭としてはすでに勝利だが、はぁ……なぜこうなってしまったのか」
近ごろ住民が話題にしている、サッカーとやらの大会を思いつく。
どうやらミノール卿もハマってるそうで都合がいい。仕事の合間に準備をさせ、粛々と執り行うつもりだった。
しかしどうしてか、見る間に話が大きくなったのだ。
ミノール卿が小都市から職人と兵を招集し、多くの使用人が走り回る。ここまで来ると小さな町の領主の手に余った。
自分の館で小さくなり、指示を飛ばすミノール卿と少年を眺める日々。
「100歩譲ってここまではいい、ワシの懐も痛まんかったしな。だが確かに町の対抗戦のつもりだったが、近隣から4チームも来るとは……誰もここまでしろとは言うとらんではないかっ!」
他領からはせいぜい1チーム呼べばいい。
ミノール卿の混合チームが、初心者を相手になんなく勝利する。きっとお喜びになってくださるだろう。
修道士チームと自領の子供チームは試合巧者と聞く。
競わせて疲れたところに、混合チームが戦い勝利を飾る。ワシの才覚に卿の覚えもよくなり、今後の所領経営に箔をつける妙案だった。
「それがどうして……くっあの修道士めェ……」
競技場に修道服の集団が見え、領主は思わずゴブレットを握りしめる。
「チームの選抜に手を加えたら、出来レースになっちまうでしょう。いっそコレで運を天に任せちゃどうです?」
会場の設置がすみ、試合方法の検証が行われていた。
領主はどうにか自分の案に誘導しようと、フラーテルにサッカーの熱意を説き、少年に腰を下げて願い出る。
それが無理でもせめて、最初の優勝チームは自領から出したいではないか。
なのにフラーテルに付き添ってる修道士が、サイコロを転がしたのだ。領主以外がなるほどと納得し、なし崩しに決定してしまった。
A競技場。
第一試合・他領子供チームVS他領子供チーム。
第二試合・他領大人チームVS他領大人チーム。
B競技場。
第一試合・修道士チームVS混合チーム。
シード枠・自領子供チーム。
他領チームが潰し合うのはいいが、自領チームもぶつかってしまう。
しかも混合チームが勝ち上がっても、次も自領チームと試合なのだ。シード枠で体力を温存している子供チームと。
そして2試合を経験した他領チームは、手強くなっているだろう。
最悪の組みあわせに領主の頬が引きつった。
「というかあの少年は何者なんだ? ミノール卿の側近かと思い、町の通りに溝を掘る許可はしたが……むしろ指揮を執っているような」
いやまさかなあ――。
修道士と同じ競技場にいる燕尾服の少年に、領主は今更ながら首を傾げる。
「サッカー場へ出た選手って、こんな感じなのかな」
少年が手をかざして明かりを遮り、誰も理解できない奇妙なセリフを呟く。
競技場に現れたそのチームを誰もが見返した。燕尾服、町娘、修道女、行商人、貴族、護衛3名、漆黒のマント3名。
見事に不揃いなユニフォームが、「混合チーム」の由来を如実に表している。
そんな11名の対面に、もう11名が応じた。
「おいそこの坊主、火元はどこだ? どこで燃えてんだ――~?」
「フッ……どこにも火は出ていませんよ」
修道士が軽口を叩いて笑うと、少年も平然とした顔で反論する。
次いで現れたそのチームに誰もが言葉を失った。統一されたユニフォームだが、くるぶし丈のローブ――修道服だったのだ。
世俗を離れ神に仕える者が何をしているのかと。
「なんかでっかい話になっちまったが、元はお嬢との勝負だったんだ。まさに因縁の対決ってやつかねえオルロック殿」
オブリが白と黒のボールをリフティングし、足の甲でピタリと止めた。
他のチームとは接してきた時間が違う。足元には砂埃が舞って暗雲が立ちこめ、人里に紛れこんだ猛獣の異質感。
B競技場だけ独自の色合いに、観客は固唾を飲んでいる。
「では混合チームのボールから……っピ――ッ!!」
審判を任された町の住民が、呼子笛を口に息を吸う。
各々の思惑が複雑に絡んだ競技場で、キックオフが告げられた。
「よし、いくぞっ!」
「がってんだ――っ!」
フラーテルが蹴り出し、すかさずペールが取って試合が開始される。
「ペールっ一番槍の誉だぞ! 皆の者よ、盾となり勇者を守れ――っ!」
「はは――っ!」
行商人の周りを豪華にも兵が護衛した。ひと塊の集団となって駆け抜ける姿は、まさしく古代の戦闘用馬車。
フラーテルはチラチラと後ろを意識し、己の雄姿をこれでもかとアピール。
年齢もかえりみず張り切っている。だが目当てのルーシーとヴァレリーは仲良く歩いており、少々当てが外れて眉が下がった。
混合チームのフォーメーションは「3-4-4」である。
自陣地の守備は3名の因果伯が担当する。攻撃させると気が高ぶり、我を忘れるかもしれないのでリスク回避。
オルロックが中盤でボールを支配し、攻守のサポートも行なう。
ペールもある程度はついてこれるだろう。ヴァレリーになにかあるとルーシーが黙っていないので、初心者の2人は状況を見つつ楽しんでいただく。
前線にはフラーテルと護衛の3名。
フラーテルは年齢的に体力がおぼつかない。護衛の兵たちも主人から離れるのを懸念したため、そばにいて決定機だけ担ってもらう。
結果的だが攻守にバランスのいい陣容となる。
「お嬢との勝負……そういえば元気な少女が、前面に出てこないのは珍しいな」
オルロックが視線を飛ばすと、修道士の中に気配の光だけは視えた。
「この『サッカー』は、あのなんとかロックってガキの企画だよな」
「帝都で流行ってるスポーツだってさ兄貴」
ステッラとミラ兄弟が、すかさず前線へ駆け出す。
「町を耕してる時ゃあどうかしてると思ったがな、あれも帝都の設備って話だぜ。うまいメシやらフロやら、大した坊主だよ」
「……偉いのはやらせてる、主人の娘だろう」
「金も取ってねえみてえだからな、欲のねえ娘っ子だ」
オイラもあやかりてえもんだ――ペンナが皮肉げな笑みを浮かべ周囲を観察し、インベルが音もたてずに走る。
互いに等距離を保ち、ボールを支配するペールに肉薄していた。
「ままま町の娘はこぞってあああの少年に、ねねね熱を上げてるって話だよ!」
「おい……気が抜けてる、もっと……真剣にやれ」
修道士の集団に紛れ、フードで顔を隠したアニーが苦言する。見間違いでなければすでに息が上がっていた。
睨まれたポエッタが首を引っ込め、自陣地へと逃げていく。
「はっ! 管理が行き届かず申し訳ありません、貴様ら歯を食いしばれ――っ!」
アニーにつかず離れずいたグラウィスが、代わりに声を張る。
「ふん……確かに外見はいいが私は騙されんぞ。あいつは修道女を見捨てたんだ、きっと根底には狂気が隠れてる……っ」
「そいつあ聞きましたがね、大道芸人の坊主がそんな大層なことしますかねえ」
「しかしアニーさんも、外見は認めてるんすね――ぐあっごめんなさい――!」
ソルスとヨークスの軽口にアニーが土を蹴り、全員が砂弾の洗礼を食らう。
インベルがなぜ俺もと、巻き添えに眉をひそめていた。
「……お前ら、アニー嬢が興奮する話をするな」
後ろにいたので無事だったカーニスが、角笛をなでながら息を吐く。
ペンナも見事に洗礼を避け、首を傾げて怪しむ。
「けどサッカーに熱中したり溝を掘るのを手伝ったり、嬢ちゃんが一番あのガキにハマってんでしょう」
修道士チームのフォーメーションは「3-6-2」である。
中心的人物の性格か、より攻撃的なファイヤーフォーメーションだった。
自陣地の守備はソルスとヨークス、そしてポエッタが入る。
中盤の6名は攻守に即時対応し、数的優位を作ってもらう。インベルとペンナは前よりのアタッカーとして突破力を活かす。
カーニスは諸事情によりアニーの護衛。
前線にはステッラとミラを配した。技術はまだないが一撃の正確さを評価して、狩人の眼光に期待する。
両チーム起源に習い、ゴールキーパーは無し。
「ぬおおお――っ!!」
「は――っ!!」
グラウィスとペールの護衛が激突した。
同程度の力量だったのか、互いに弾かれて空気が割れる。
「くっアニー嬢様の護衛こそ、吾輩の任務に相応しいのに……っインベル殿!」
「……そも本来の任務は別だろ」
崩れた陣形を見逃さず、インベルが潜り込んでインターセプト。
「ああっ……くそぉ!」
ペールのシザーズもどきが見事に破られる。
足元の技術はインベルに軍配が上がった。すかさずペンナにパスし、ドリブルで中盤まで引き戻す。
まだオルロックほど正確ではないが、パスもドリブルも形になっている。
「おっしこっちのボールだ! 隊長っ一旦仕切り直しますかい!?」
「構わねえ前線に切りこめ! 2点先取で終了だ、のんびりしてらんねえぞっ!」
「おおさ――っ!!」
ペンナが右サイドを駆け上がり、少し離れてインベルも付いていく。
どちらに注視すればいいのか、相手が逡巡している間に敵陣地へ雪崩れこんだ。
アニーの態度から、頭のどこかでは分かっていたのかもしれない――。
「よしっステッラとミラにパスしろ! 速攻で決めっちまえ――っ!!」
オブリ自身がどこかで、引っかかりを覚えていたのだろう。
だがまさかこんなところで、そんな偶然があるはずない――そうやって自分を、ごまかしてはいなかったか。
混合チームの杭の前に降り立った影。
「……っ!?」
そうだ外衛兵だった俺だけが知っている、忘れようはずもない漆黒のマント。
ディスケ公爵領の北門を、黒き煙と赤き血の地獄に変えた3人の死神――。
「戦ってのは……想定外が起きるもんだ……」
しかしこいつは――。
休耕地のグラウンドでオブリは石化する。
ただならぬ気配を発する、マスクをした三人組が集っていた。
「私とお母さんをサッカーに誘ったのは、フラーテル様に花を持たせるため?」
ならばまだ理解はできるが――。
攻城戦の勝者と敗者が再び相まみえる。
スポーツと呼ぶにはあまりに殺伐とした空気に、ルーシーは眉をひそめた。
領主「諸君、私は市民祭が好きだ。諸君、私は市民祭が好きだ。諸君、私は市民祭が大好きだ……っ」
従者「……」