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M属性 ~嗚呼、あなたに踏まれたい~  作者: 高谷正弘
第五章 プールヴァ帝国
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百六十三夜 開幕

「サッカーのルールはとても簡単です。手や腕を使用せず、ボールを敵陣地にある杭の間に通せば1点(ゴール)です」

 逆に自陣地に通されると失点ですね――オルロックが蝋板に線を引き、白と黒のボールを手に説明する。

 そのテントの選手はほとんど初心者だったが、異様な気配を発していた。

「じゃあボールを敵陣地に蹴ってればいいんだ、よかったねお母さん簡単そう!」

「……」

「大丈夫ですよ母君、楽しいスポーツですから」

 ルーシーは少年の行動がふに落ちないながらも、母と一緒で喜んでいる。

 ヴァレリーも納得はしかけたが、視線で戸惑いを報せた。三人組が誰が聞いてもヤバそうな発言をしていたのだ。

「石壁もない陣地なんからっくしょ~♥ ウチの『あとす』で撃っちゃおう~♥」

「11人くらい相手にもなりゃしないよぉ、操って同士討ちさせてやろうかねェ」

「わたし目立ちたないんやけど、ああ……端から風穴を開けてきたいが……」

 漆黒のマント以上に黒い気配を撒き散らす「三悪党」である。

 ペールは関わったらツキが落ちると、隅で見事に気配を消していた。

「……全部ダメです」

「「ええ――――~っっ!!?」」

 額を押さえた少年が、それでも一応は反論を試みる。

 盛大なブーイングにテントは揺れたが、笑顔を崩さず辛抱強く諭す。

「皆さんは帝国の得がたき要でしょう。ただでさえ市井への影響が大きいのです、どうかご理解ください」

「わからせじゃ~ん、なのに『力』を使っちゃいけないの~♥ ダメなンだぃ! だちかんの!?」

危険(ルール)だからです」



「本日は『マレフィク杯』を開会できること、大変うれしく思います――」

 町の領主が赤い垂れ幕で飾られた、一段高い貴賓席で挨拶をする。

 休耕地にはサッカー場が2面も作られていた。雑草が生い茂った不整地と違い、大会に向け丹念に整備されている。

 ゴールラインとタッチラインには紐を敷き、フィールドがひと目で分かった。

 杭には全体に色鮮やかな布がまかれている。ゴールが確認しやすいよう、上部に紐も張ってあった。

 元は畑で若干の起伏はあるが、短時間で整えたとは思えない出来栄えである。

 さらに周囲は、馬上槍試合を彷彿とさせる装いに変わった。

 フィールドを囲んで階段状の観客席(スタンド)が新設され、選手用の大きなテントが並び、今までと比較にならないほど屋台が乱立している。

 外周には警備の兵まで配置する念の入れよう。

 観客はその豪華さに驚き、場違いではないかとたたずむ。とても町規模の市民祭(イベント)とは思えなかったのだ。

 これらの整備や出店などは、全てフラーテルが手配していた――。

「冬季となりはっきりしない天気も続きましたが、見事な小春日和となりました。

 各領地から参加された選手と応援団、そして観覧の皆さんの、サッカーにかける想いが天に通じたのでしょう。

 我が町のサッカー大会は、多くの関係者のご指導に支えられ開催できました。

 ご支援された皆さまにお礼を申しあげます。

 記念すべき今大会によって、近しい領地の皆さんと友好をはぐくみ、また交流を深めれたらと期待しています。

 選手の皆さんは今日この日のため、熱く濃い時間を過ごされたことでしょう。

 応援団の皆さんは今日この日のため、汗を流す子を友を見てこられたでしょう。

 観覧の皆さんは今日この日のため、指折り数えて楽しみにされたことでしょう。

 皆さんの一人一人が、『マレフィク杯』を成功へと導くのです。

 これまで積み上げてきた勝利への希望が、実りある日々が、サッカーへの想いが成果となって現れるのです。

 今日この日こそ、皆さんが主役です。

 ケガにだけは気をつけ、練習の成果を遺憾なく発揮しっ! いつまでも皆さんの思い出に残る、最高の一日になることを切に……っ切に願います――~っ!!」

 挨拶の盛り上がりにあわせ、盛大に角笛(ツィンク)と太鼓が鳴り響く。

 己の演説に感動し、領主がハンカチを取り出して涙と鼻をぬぐった。彼にとって一世一代の晴れ舞台だったのかもしれない。


「結びに当たり開催に尽力されました、ミノール子爵に心よりお礼申し上げます」

 同じく貴賓席に座っていたフラーテルが、軽く手を挙げる。

 領民たちは領主の長い挨拶に、早く試合がしたいと嫌気がさしていた。それでも男爵相手に無下にもできず、辛抱するしかない。

 ざわつかず大人しく聞いていたが、目先が変わったと拍手をする。

 気をよくした領主も拍手をあわせ、一層盛り上げようと爆弾を落とした。

「さらにミノール子爵より、贈り物を賜っております! 本日の優勝チームは納税を免除にするとの、恩賞をいただきました――っ!!」

 高らかに公言した領主だったが、その瞬間領民の時が止まる。

「どうか皆さんミノール子爵に深謝の意を表し、精一杯の健闘を……健……ん?」

 領主が疑問に辺りを見回し、フラーテルの顔色を確認。

 なぜ静かになったのかと焦った矢先、地震に匹敵する振動と雄叫びが上がった。

「「うおおおおおおおおお――――っっおおおおお――――~~っっっ!!!」」

 それはまさに爆弾が落ちた喧騒。

 人頭税や地代など、農民は生産物の50%前後が徴収されたのだ。さらに領主の直営地で賦役や、戦争に駆り出されるなどの「血税」もある。

 領民にとって納税免除がどれほどの喜びか。

 選手のテントが天を揺らし、観客席が破城槌を受け、周囲に土煙が発生した。

「やるぞてめえらあ――っ! 足が折れても死ぬ気で走りやがれえ――っ!!」

「あんたら遊びじゃないよおっ! 本気のマジで戦いなあ――っ!!」

「この町の大会にそんな褒美が! だったら俺も出ときゃよかったあ――っ!!」

 選手は円陣を組んで背を叩き、応援団は鬼気迫る声で発破をかけ、見物人は後悔と悔しさで地団太を踏む。

 町の休耕地は狂喜乱舞のお祭り会場と化す。


「ああいや……これはその、ハハハッ……大盛り上がりですなあ」

 領主があまりの騒ぎにおよび腰で笑うと、フラーテルも目を細めていた。

「……うむ、我が方の勝利だな」

 これこそが狙いだった――。

 ルーシーの生家とばかり思っていた町の、癒せぬ魔女の噂。それが事実かどうか話す者には関係ない、風説は無責任を糧にふくらむ。

 悪評ほど人を惹きつけて離さないのだ。

 大道芸人も来ないさして娯楽もない田舎。オルロックが始めたスポーツだけで、領地を越え賑わっていた。

 ボールを蹴って楽しそうに笑う子供たち。

 町の領主が持ちかけた大会だったが、この流れを活かせるのではないか。

 フラーテルはできる限り大会を熱狂させるべく、近隣の町へ村へ早馬が飛ばし、領民を集客して場を整える。

 狙い通り前日から観客が詰めかけ、盛大な盛り上がりを見せた。

 すでに試合(・・)の結果は出ていたのだ。絶叫し沸きに沸き立つ領民の誰が、この町に魔女の噂があったと思うだろう。

「いずれ『魔女(マレフィク)の町』は『マレフィク杯』へと、サッカーの町として記憶が上書きされるでしょうね」

 騒ぎにテントから出てきたオルロックが呟く。フラーテルの心情を察し、全てのシナリオを描いた少年が貴賓席に礼をとる。

 聞こえるはずもないが、フラーテルも深く頷き同意した。

「さすがはルーシー様の従者、と呼びたいが……やはりつかみきれぬ少年だ」

 彼の理は、僕たちとは違う(・・)――。

「はっ? いえミノール卿、試合はこれからで……」

「ハッハッハッまったくだな」

 領主の戸惑いに、フラーテルは笑って立ち上がる。

 少年の言い知れぬ奇妙さを振り払い観客に向く。大将よろしく左腕を高く挙げ、堂々たる姿勢で声を上げた。

「では皆さん、存分に競いあおう――――っ!!」

「「おおおおおおおおお――――~~っっっ!!!」」

 再び雄叫びが上がり、お祭りが始まる。



 ☆



「マレフィク杯」に集まったのは総勢7チーム。

 初期の混合チームと修道士チーム、元混合メンバーの自領子供チーム。他領から子供チームが2組と、大人チームが2組。

 総当り(リーグ)戦では時間がかかりすぎるので、勝ち抜き(トーナメント)戦となった。

 時計がないので2点先取で勝ち上がりの設定。1チームだけはシードとなるが、3試合勝てば優勝である。

 77名がそれぞれの競技場に散り、緊張に体をほぐしていた。

 フラーテルと護衛も貴賓席から降り、混合チームに合流している。子爵夫人にと望むルーシーと母に笑顔で接していた。

「…――下、あの閣下……ワインをお持ちしました」

「ん……おおっご苦労、下がってよいぞ」

 想定以上に盛りあがった開会式に、集った領民の熱意もあふれている。

 そんななかで領主は、従者に声をかけられるまで惚けていた。連日練習を重ねた挨拶も無事終了し、気が緩んだせいもあるだろう。

「確かに市民祭(イベント)としてはすでに勝利(せいこう)だが、はぁ……なぜこうなってしまったのか」

 近ごろ住民が話題にしている、サッカーとやらの大会を思いつく。

 どうやらミノール卿もハマってるそうで都合がいい。仕事の合間に準備をさせ、粛々と執り行うつもりだった。

 しかしどうしてか、見る間に話が大きくなったのだ。

 ミノール卿が小都市から職人と兵を招集し、多くの使用人が走り回る。ここまで来ると小さな町の領主の手に余った。

 自分の館で小さくなり、指示を飛ばすミノール卿と少年を眺める日々。

「100歩譲ってここまではいい、ワシの懐も痛まんかったしな。だが確かに町の対抗戦のつもりだったが、近隣から4チームも来るとは……誰もここまでしろとは言うとらんではないかっ!」

 他領からはせいぜい1チーム呼べばいい。

 ミノール卿の混合チームが、初心者を相手になんなく勝利する。きっとお喜びになってくださるだろう。

 修道士チームと自領の子供チームは試合巧者と聞く。

 競わせて疲れたところに、混合チームが戦い勝利を飾る。ワシの才覚に卿の覚えもよくなり、今後の所領経営に箔をつける妙案だった。

「それがどうして……くっあの修道士めェ……」

 競技場に修道服(トゥニカ)の集団が見え、領主は思わずゴブレットを握りしめる。


「チームの選抜に手を加えたら、出来レースになっちまうでしょう。いっそコレ(・・)で運を天に任せちゃどうです?」

 会場の設置がすみ、試合方法の検証が行われていた。

 領主はどうにか自分の案に誘導しようと、フラーテルにサッカーの熱意を説き、少年に腰を下げて願い出る。

 それが無理でもせめて、最初の優勝チームは自領(うち)から出したいではないか。

 なのにフラーテルに付き添ってる修道士が、サイコロを転がしたのだ。領主以外がなるほどと納得し、なし崩しに決定してしまった。


 A競技場。

 第一試合・他領子供チームVS他領子供チーム。

 第二試合・他領大人チームVS他領大人チーム。

 B競技場。

 第一試合・修道士チームVS混合チーム。

 シード枠・自領子供チーム。


 他領チームが潰し合うのはいいが、自領チームもぶつかってしまう。

 しかも混合チームが勝ち上がっても、次も自領チームと試合なのだ。シード枠で体力を温存している子供チームと。

 そして2試合を経験した他領チームは、手強くなっているだろう。

 最悪の組みあわせに領主の頬が引きつった。

「というかあの少年は何者なんだ? ミノール卿の側近かと思い、町の通りに溝を掘る許可はしたが……むしろ指揮を執っているような」

 いやまさかなあ――。

 修道士と同じ競技場にいる燕尾服の少年に、領主は今更ながら首を傾げる。



「サッカー場へ出た選手って、こんな感じなのかな」

 少年が手をかざして明かりを遮り、誰も理解できない奇妙なセリフを呟く。

 競技場に現れたそのチームを誰もが見返した。燕尾服、町娘、修道女、行商人、貴族、護衛3名、漆黒のマント3名。

 見事に不揃いなユニフォームが、「混合チーム」の由来を如実に表している。

 そんな11名の対面に、もう11名が応じた。

「おいそこの坊主、火元はどこだ? どこで燃えてんだ――~?」

「フッ……どこにも火は出ていませんよ」

 修道士が軽口を叩いて笑うと、少年も平然とした顔で反論する。

 次いで現れたそのチームに誰もが言葉を失った。統一されたユニフォームだが、くるぶし丈のローブ――修道服だったのだ。

 世俗を離れ神に仕える者が何をしているのかと。

「なんかでっかい話になっちまったが、元はお嬢との勝負だったんだ。まさに因縁の対決ってやつかねえオルロック殿」

 オブリが白と黒のボールをリフティングし、足の甲でピタリと止めた。

 他のチームとは接してきた時間が違う。足元には砂埃が舞って暗雲が立ちこめ、人里に紛れこんだ猛獣の異質感。

 B競技場だけ独自の色合いに、観客は固唾を飲んでいる。

「では混合チームのボールから……っピ――ッ!!」

 審判を任された町の住民が、呼子笛を口に息を吸う。

 各々の思惑が複雑に絡んだ競技場で、キックオフが告げられた。


「よし、いくぞっ!」

「がってんだ――っ!」

 フラーテルが蹴り出し、すかさずペールが取って試合が開始される。

「ペールっ一番槍の誉だぞ! 皆の者よ、盾となり勇者を守れ――っ!」

「はは――っ!」

 行商人の周りを豪華にも兵が護衛した。ひと塊の集団となって駆け抜ける姿は、まさしく古代の戦闘用馬車(チャリオット)

 フラーテルはチラチラと後ろを意識し、己の雄姿をこれでもかとアピール。

 年齢もかえりみず張り切っている。だが目当てのルーシーとヴァレリーは仲良く歩いており、少々当てが外れて眉が下がった。

 混合チームのフォーメーションは「3-4-4」である。

 自陣地の守備は3名の因果伯が担当する。攻撃させると気が高ぶり、我を忘れるかもしれないのでリスク回避。

 オルロックが中盤でボールを支配し、攻守のサポートも行なう。

 ペールもある程度はついてこれるだろう。ヴァレリーになにかあるとルーシーが黙っていないので、初心者の2人は状況を見つつ楽しんでいただく。

 前線にはフラーテルと護衛の3名。

 フラーテルは年齢的に体力がおぼつかない。護衛の兵たちも主人から離れるのを懸念したため、そばにいて決定機(ゴール)だけ担ってもらう。

 結果的だが攻守にバランスのいい陣容となる。

「お嬢との勝負……そういえば元気な少女(アニー嬢)が、前面に出てこないのは珍しいな」

 オルロックが視線を飛ばすと、修道士の中に気配の光だけは視えた。


「この『サッカー』は、あのなんとかロックってガキの企画だよな」

帝都(とかい)で流行ってるスポーツだってさ兄貴」

 ステッラとミラ兄弟が、すかさず前線へ駆け出す。

「町を耕してる時ゃあどうかしてると思ったがな、あれも帝都の設備って話だぜ。うまいメシやらフロやら、大した坊主だよ」

「……偉いのはやらせてる、主人の娘だろう」

「金も取ってねえみてえだからな、欲のねえ娘っ子だ」

 オイラもあやかりてえもんだ――ペンナが皮肉げな笑みを浮かべ周囲を観察し、インベルが音もたてずに走る。

 互いに等距離を保ち、ボールを支配するペールに肉薄していた。

「ままま町の娘はこぞってあああの少年に、ねねね熱を上げてるって話だよ!」

「おい……気が抜けてる、もっと……真剣にやれ」

 修道士の集団に紛れ、フードで顔を隠したアニーが苦言する。見間違いでなければすでに息が上がっていた。

 睨まれたポエッタが首を引っ込め、自陣地へと逃げていく。

「はっ! 管理が行き届かず申し訳ありません、貴様ら歯を食いしばれ――っ!」

 アニーにつかず離れずいたグラウィスが、代わりに声を張る。

「ふん……確かに外見はいいが私は騙されんぞ。あいつは修道女を見捨てたんだ、きっと根底には狂気が隠れてる……っ」

「そいつあ聞きましたがね、大道芸人の坊主がそんな大層なことしますかねえ」

「しかしアニーさんも、外見(かお)は認めてるんすね――ぐあっごめんなさい――!」

 ソルスとヨークスの軽口にアニーが土を蹴り、全員が砂弾の洗礼を食らう。

 インベルがなぜ俺もと、巻き添えに眉をひそめていた。

「……お前ら、アニー嬢が興奮する話をするな」

 後ろにいたので無事だったカーニスが、角笛をなでながら息を吐く。

 ペンナも見事に洗礼を避け、首を傾げて怪しむ。

「けどサッカーに熱中したり溝を掘るのを手伝ったり、嬢ちゃんが一番あのガキにハマってんでしょう」

 修道士チームのフォーメーションは「3-6-2」である。

 中心的人物の性格か、より攻撃的なファイヤーフォーメーションだった。

 自陣地の守備はソルスとヨークス、そしてポエッタが入る。

 中盤の6名は攻守に即時対応し、数的優位を作ってもらう。インベルとペンナは前よりのアタッカーとして突破力を活かす。

 カーニスは諸事情によりアニーの護衛。

 前線にはステッラとミラを配した。技術はまだないが一撃の正確さを評価して、狩人の眼光に期待する。

 両チーム起源に習い、ゴールキーパーは無し。


「ぬおおお――っ!!」

「は――っ!!」

 グラウィスとペールの護衛が激突した。

 同程度の力量だったのか、互いに弾かれて空気が割れる。

「くっアニー嬢様の護衛こそ、吾輩の任務(ポジション)に相応しいのに……っインベル殿!」

「……そも本来の任務は別だろ」

 崩れた陣形を見逃さず、インベルが潜り込んでインターセプト。

「ああっ……くそぉ!」

 ペールのシザーズもどき(・・・)が見事に破られる。

 足元の技術はインベルに軍配が上がった。すかさずペンナにパスし、ドリブルで中盤まで引き戻す。

 まだオルロックほど正確ではないが、パスもドリブルも形になっている。

「おっしこっちのボールだ! 隊長っ一旦仕切り直しますかい!?」

「構わねえ前線に切りこめ! 2点先取で終了だ、のんびりしてらんねえぞっ!」

「おおさ――っ!!」

 ペンナが右サイドを駆け上がり、少し離れてインベルも付いていく。

 どちらに注視すればいいのか、相手が逡巡している間に敵陣地へ雪崩れこんだ。


 アニーの態度から、頭のどこかでは分かっていたのかもしれない――。


「よしっステッラとミラにパスしろ! 速攻で決めっちまえ――っ!!」

 オブリ自身がどこかで、引っかかりを覚えていたのだろう。

 だがまさかこんなところで(・・・・・・・・・・)、そんな偶然があるはずない(・・・・・・・・・)――そうやって自分を、ごまかしてはいなかったか。

 混合チームの杭の前に降り立った影。

「……っ!?」

 そうだ外衛兵だった俺だけが知っている、忘れようはずもない漆黒のマント。

 ディスケ公爵領の北門を、黒き煙と赤き血の地獄に変えた3人の死神――。

「戦ってのは……想定外が起きるもんだ……」

 しかしこいつは――。

 休耕地のグラウンドでオブリは石化する。

 ただならぬ気配を発する、マスクをした三人組が集っていた。


「私とお母さんをサッカーに誘ったのは、フラーテル様に花を持たせるため?」

 ならばまだ理解はできるが――。

 攻城戦の勝者と敗者が再び相まみえる。

 スポーツと呼ぶにはあまりに殺伐とした空気に、ルーシーは眉をひそめた。




領主「諸君、私は市民祭が好きだ。諸君、私は市民祭が好きだ。諸君、私は市民祭が大好きだ……っ」

従者「……」

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