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M属性 ~嗚呼、あなたに踏まれたい~  作者: 高谷正弘
第三章 新王都アムリタ
107/177

百四夜 策略と疑惑と

 ターダ山のふもとに広がる湖に、跳ね橋で繋がる巨大な王宮がたたずむ。

 主塔や城壁塔様式は健在だが、サーガラ同様防衛機能は余り感じない。とは言え周囲を湖に囲まれ、攻城戦用の船も運べない要塞のおもむき。

「湖」のイメージと異なり、ほとんどの場合は川と繋がり若干だが流れもある。

 しかし水車を回せるほどではなく、こちらも風車動力を利用していた。治水工事も行ったのだろう、築堤の跡が至る所に散見される。

 湖に沿い広がる都市部にも水堀が流れ、街外には大規模な荘園が埋め尽くす。

 広大な畑の数ヵ所に独立した監視塔が建ち、外部へ目を光らせていた。


「これは凄いな……まるで、モン・サン=ミシェルだ」

 満ち潮で海に浮かび、引き潮で陸と繋がる――湾内の小島に建造された修道院。

 10世紀に建築が始まり改築を重ね、歴史の満ち引きに翻弄され現在に至る。

「確かヘンリー5世の遠征では攻略できなかったはず。この時代の王宮としては、難攻不落と呼んで差し支えないだろう」

 新王都を見渡せる王道で、誰も理解できない感想をこぼす。

「凄いねえアユム、人がいっぱいいるよ――!」

 ヨーギも初めて見るのか、新王都へ向かう過客の波に圧倒されていた。

 とても素直な感想に、その通りだねと馬の背をさすり頷く。

「色々……あったなあ」

 ごく普通の少年が影供(えいぐ)の丘から召喚され、異世界で運命の方を見つけ無理難題を申しつかり、多くの方との出会いと助けを受け、魔獣の来襲。

 馬車の旅に胸と胃を高鳴らせ、イダム卿の町で盗賊騒ぎに遭遇し、黄昏れて立ち止まり、ノルブリンカの小都市起こしを手伝い、剣闘士競技会に参加。

 帆船で転げ回って探偵役となり、只人と亜人の格差に言い知れぬ虚しさを覚え、シャンティ卿に学園の構想を伝えて、あろうことか主君と戦闘訓練――…。

 2月に召喚されてから約8ヵ月。

 常識の違いに翻弄され、側溝を掘ってお風呂の整備、食事の改善に食器の製作。

 国を磨く――黒死病対策を行い、できる限りの可能性を模索してきた。

「ヴィーラ王国をほぼ一週し、ついに新王都へ辿りついたんだなあ」

 燕尾服は繕った跡やかぎ裂きが散見し、時の経過を如実に物語る。すっべすべの柔らかかった手が、野球部のクラスメイトと同じになっていた。

 現代ではとても味わうことのできない異世界の旅に、感慨深いため息が出る。

「おっと「百里を行く者は九十里を半ばとす」だね、気を引き締めて行こう!」

 画竜点睛を欠かないようにしなきゃ。

 ヨーギは意味が分からなかったのだろう、首を傾げつつ笑う。



 ――10月、すでに秋の気配が濃厚となっていた。

 欧州では地域にもよるが、8月の半ばで短い夏が終わり9月ではすでに涼しい。

 残暑なども感じず寒い時さえある。ヴィーラ殿下に拝謁がかなうかもしれない、ありがたくも再び燕尾服に袖を通す。

 まだ日も高いうちに新王都の城門が見え、荷もなく足も軽い。

 手押しポンプはウダカで使い、遠心分離機やパスタマシン等もプレゼントした。

 とはいえ打ち抜き井戸の工具だけで100キロ強。ぼくのバックパックもかなり重いのだけど、全てヨーギが請け負ってくれる。

 ウダカから徒歩で2日、約80キロの距離をずいぶんと楽をさせて貰った。

 結局職人ギルドでは馬車の手配がかなわなかったのだ。ヨーギはなんてことなく歩いてるけど、ぼくとしては感謝に絶えない。

「一旦は宿に泊まった方がいいかなあ……王宮へ向かう前に旅の汗を流したいし、調理場を借りてお土産も作りたい」

 ラクシュもいるし、殿下はお忍びに出ず大人しくしておられるかな。

 執事さんに小言を言われ、耳を塞いでとぼけてたりして――若干不敬な想像をしてほくそ笑み、はたと気がつく。

「あれっそういえば、ジャーラフはどこだろう?」

「ヨーギ見てないよ、朝からずっといないね」

 辺りを見渡しても見当たらない、只人が多いし気配を消してるのか。昨夜の夕食にはいたんだけど、今朝は現れず道中も見かけなかった。

 この距離なら殿下の所在を把握してるだろう、訊きたかったけど仕方がない。

「夜になれば、ぼくも少しは分かるんだけど」


「おい大道芸人! こんな所を通るな、危ないだろ!!」

「あ……っ申し訳ありません!」

 ヨーギの荷にぶつかりそうになった方が叫ぶ。謝罪のため振り返ったら、すでに雑踏の中に消えていた。

 周囲の目も、大きな馬体に苛立って見える。

 幸いにもヨーギはキョトンとしてるけど……批判的な感情に晒され続けるのは、情操教育的にいかがなものか。

 ――新王都の都市部は、本当に「人がいっぱい」だった。

 大通りも路地も人波で溢れ、数台の荷馬車が立ち往生している。貴族とみられる騎馬や馬車が別けて通る以外、イモを洗う人混み。

「まるでサーガラの市場だ……足の踏み場もないとは、このことだな」

 10年かけた王都の移転が完了し、ヴィーラ殿下の即位が公式に発表された。

 2ヵ月後には教会で戴冠式も行われる。

 王室行事には国の聖職者や高官、大臣格や上級貴族らが招かれ、当然だが数百に上る従者も引き連れて集う。

 領民も自国の盛大な式典に盛り上がり、マナスルやウダカ、そして遠くサーガラからも旅をして詰め掛ける大騒ぎとなっていた。

 そうなれば食料も足りなくなり、商人が競って駆けつけ――…。

「おい頼むよ早く進んでくれ、積み荷が間に合わない!」

「痛えっ! てめえ足踏むんじゃねえよ!」

「手を離すんじゃないよ! あんたもしっかりついといで――!」

 気候次第で行商人といえど街にこもらざるを得なくなる時期。焦りと苛立ちが、あちらこちらで大声と罵声になり天を衝く。

 道端に建つ屋台を、ゆっくり見て周ることなどできるはずもない。

「こっこれは早々に、ラクシュと合流した方がよさそうだ」

 早くも予定変更し、整えた身だしなみを崩しながら王宮への流れに紛れ込む。


 新王都は通常でも4万人の市民が賑わう、ヴィーラ王国最大の都市。

 それが歴史的行事を前に、涼し気な陽気とは逆に熱気は最高潮に達していた。


「――詳しくは後日、然るべき措置を御取りしますのでっ!!」

 手を振り汗を落とした衛兵が声を荒げている。王宮へ向かう跳ね橋と門が見え、どうにか安堵したけど様子がおかしい。

 複数の馬と貴族の馬車が数台停まり、橋の前で足止めを食らっていた。

「本日拝謁許可を(うけたまわ)ったのだ! 門を閉ざすとはどういった了見かっ!!」

「お待たせしては不敬となるっ! 貴様に責任が取れるのか、背信行為だぞ!!」

 一見して貴族と分かる者と従者が、門衛を取り囲み押し問答していたのだ。

 兵士は基本的に、貴族の次男以降が出仕するか志願する。入城がかなう上流貴族の当主が、身分が下の者に行動を制限され憤っていた。

「問答というより詰問に近いな……国王が雇用している兵士に対し過度な無礼は、国家の体面に泥を塗る行為となる。刃傷沙汰まで、進展しなきゃいいけど……」

「ですからっ門は閉鎖してるのです! どなたであろうと立ち入りできません!」

 門衛が繰り返し説明しているけど、どれほど伝わっているのか。

「ええい貴様では話にならんっ! 通させて貰う、門を開けろ――っ!!」

 貴族が傲慢にも思える姿を平然と晒し、それが常識の世界だと知らしめる。

 王宮へと繋がる巨大な跳ね橋と、固く閉ざされた門。混沌とした空気が、城門前に身分のヒエラルキーを表す。

「……っオイ、そこの大道芸人! 見世物じゃないぞ、広場へ行け広場へっ!!」

 離れて騒動を見ていたぼくに、文字通り銀に輝く矛先が向けられた。

 殺気だった門衛の威嚇に、周囲の市民までが慌てふためき離れていく。遍歴する大道芸人や平民より、兵士はより上位に位置するのだろう。

 目を向けて貰えたので、マナスル領領主の印章が押された手形を提示する――。


「先触れが届いていると思うのですが、それでも入城は困難ですか?」

 由緒ある旧家、ローカァ伯爵夫人に先触れをお願いしておいたのだ。

「なっなな、なぜか閉鎖の理由は明示されておらんのですっ! こやつにすぐさま責任を取らせますゆえ、無礼の件どうかご内密にしていただければと――…」

「けっ軽率でした、どうか――~どうかお許しくださいっ!!」

 門衛の隊長格が駆けつけてきて、平謝りするのをなんとかなだめた。

 橋の前で取り囲み詰問してた貴族たちも、矛先の向け所を失い戸惑う。どうやらこの場にいた誰より、マナスル伯爵の裏書は上位のようだ。

 意図してた訳ではないけど、城門前の混乱は沈静する。

「まさかとは思うけど、戒厳令……? 衛兵に理由もあかさぬほどの、非常事態が起こったのだろうか……」

 見上げれば修道院を連想した王宮が、影となり異質な雰囲気を漂わせていた。

「王宮で一体、なにがあったんだろう」


「ジャーラフ聴こえる? いたら来て欲しいんだ――!」

 跳ね橋に後ろ髪を引かれながらも路地裏に入り、虚空に向かって声をかける。

 ジャーラフなら今の状況が分かるのでは……いや、彼女しか視れない(・・・・)

「ジャーラフ――!?」

 しばし周囲を見渡し、屋根を見上げるが変化なし。

 通りは変わらず雑踏が流れ、しばらく待ったが返答もなし。

「どうしたんだろうジャーラフに限って、万一があったとも思えないけど」

 いやそれも楽観し過ぎではないのか、杞憂だといいけど。

 新王都に行きたくない感じはしていたし、なにか関係があるのかもしれない。

「アユム――お腹減った――~っ!」

 思考に潰されそうなところを、いつも通りのヨーギに心安らぐ。

「そうだね、まずはゆっくり休もうか。夕食はヨーギの好きなリンゴを買おうね」

「わ――い! リンゴ、リンゴ――~!!」

 お腹のカレシーも落ちついてるし、突発的な危機は感じられない。

「うん大丈夫、急がば回れの精神だ。まあ当初の予定には沿ってるし」

 この事態をふくめての予感だったかなと、自分に言い聞かせて苦笑する。


「客室に亜人を? おいおい、坊主正気か!?」

「大道芸人が笑えねえ冗談だ、叩き出されたくなきゃとっとと消えな!」

 夕方近くになり、通りの混雑も緩和されていった。

 屋台で夕食を求めながら都市部を練り歩くと、側溝から水が溢れ通りかかる方が困っている。そうかと思えば設置し直したりと、試行錯誤に頬が緩む。

 反面宿を求めては拒絶と門前払いが続く。

「ヨーギを(うまや)に? とんでもありません、是非とも客室をお願いしたい!」

 亜人であるヨーギを泊めるのに、難色をしめされるのだ。

 ぼくは大部屋で構わないけど、ヨーギを1人で放置などできない。説明したけどはなっから聴く姿勢ではなく、何軒もの宿に手で追い払われた。

「仲がいいんだね、だけど他のお客さんもいるし……悪いねえ」

「いえ、ありがとうございます」

 給仕のおばさんが、うなだれるぼくに声をかけてくれる。

 それだけで胸が詰まるほどへこたれていて、次の宿を探す足が重い。

「……ラクシュはどうしてたんだろう、ちゃんと確認しておけばよかったなあ」

 傾く日を見上げ、ライオンのたてがみが赤く染まっていた。

 悪目立ちは避けたかったけどこの際仕方がない、人を動かす3大要素を使う――すなわち資金力。

「ウチにゃあ亜人連れに貸す部屋はねえよ、出てった出てった!」

「保証にこれだけ(・・・・)払います! 一泊で構いませんので、個室をお願いします!」

 ぼくはサイフ代わりの巾着から金貨を一枚取り出し、机の上に差し出す。

 アラヤシキ計算で約12万円。

 流れ流れて辿りついた、湖を望む街外れの簡素な宿屋。他と違い一階が酒場で、杯を傾ける男たちを背にヨーギを連れ交渉を迫った。

「きっ金……!?」

 宿の主人は全身を使って金貨に覆い被さり、隙間からじっくりと観察する。

 手で曲げ咬みつき、どうやら本物だと確信してニヤリと媚びた笑みを浮かべた。

「なんだよ亜人なんか連れてくるな、酒が不味くなる!」

「馬臭えぞお、どっか連れてけよそこのガ――…」

「てめえら黙れっ! ウチの大切なお客様に失礼だろっっ!!」

 酔っぱらいは主人の剣幕に押され視線を外す。一瞬だけ静まり返った酒場に再び喧騒が戻るのに、時間はかからなかったが。

「へへっすいやせん、やつらほんと口が悪くって! 特別に上等なお部屋をご用意いたしますんで――オイご案内しろ!」

 主人は使用人を呼ぶと顎で指し、揉み手でぼくらを見送った。


「特別に上等なお部屋……ね」

 一階の離れ、倉庫と見紛う奥まった部屋。

 使用人用なのか扉横に備えつけの長持ち(チェスト)だけはある。寝台代わりの藁束を運んでもらい、リネンのシーツをかけた。

 格子状の柵がついた明り取りはあるけど光源に乏しい。

 皿状の容器に油を溜め、灯心を燃やすと辛うじて視界が明るくなる――植物油や動物油を使用した、ランプである。

 金額だけで言えば「高級スイートルーム」に、嗅ぎ慣れぬ獣臭が漂う。

 場所的に只人の客は来ないだろう、亜人連れでも批判されないのを喜ぶべきか。

「ごめんねヨーギ連れ回しちゃって、重かったでしょう」

「んん――~全然平気、ヨーギ力持ち!」

 藁のベッドに座り込むヨーギに感謝し、荷をとき三つ編みを整えた。

「とにかく今はヨーギを、無事ラクシュに引き合わせるのを最優先とする」

 ぼく自身、異世界の常識を謀り兼ねているのだ。ちゃんとヨーギの心情を気遣えているのか心許ない。

『ヨーギ肌寒くない? 雪はまだ降らないと思うけど、気をつけなきゃね』

『ヨーギ雪大好き――! えっと1~2~……6回、ヨーギ6回遊んだ――!』

『そっかよかっ……6回? えっちょっとヨーギ、それはどういう意味――…』

 指折り数えて手の平を突き出す、学園の勉強が役に立ってて微笑ましい。

 旅の合間訊いたところ、どうやらヨーギは生まれてからまだ6年みたいだ。

 馬の年齢は諸説あるが、最初の3年で17歳、以降は3歳ずつ歳を取る。6年は馬の年齢なら26歳だが、亜人年齢にすると半分の13歳。

 ぼくと同年代にはなるけど、意味が随分と異なってしまう。

 思考が幼いとは思っていた、学園で子供たちと気が合うのも当然。ラクシュとは2ヵ月近い不在、気に留めているのではないだろうか。

「因果伯にしかも一騎当千のS属性に、心配し過ぎだとは思うけど……只人と亜人の相違は、本当に気をつけないといけないなあ」

 あれ……じゃあジャーラフも、見た目よりずっと若いのかな?

「そのジャーラフの行方も気になるけど……明日にはラクシュと連絡がつくよう、なにか対策を考えるからね」

「うん!」

 ヨーギが首を傾げ見つめてくるので、安心できるよう頷いて笑う。

 新王都に来てからも感じる、妙な違和感。なにも疑わず全てを任せてくる瞳に、ぼくがしっかりしなきゃと改めて決意する。

 鼻息も荒く胸を叩くと、扉をノックする音が続いた。

「アユム、在室されておられますか?」

「――えっチャンドラ!?」

 驚いて扉を開けると笑顔の男性、見慣れぬ街の宿で見知った者と出会う。



 ☆



「お久しぶりです、ウダカではお世話になりまして!」

「とんでもございません、お役に立てたなら光栄です」

 チャンドラは佩刀しておらず、長袖の上着(コット)脚衣(ブレー)に長めのブーツ。

 ブーツ以外は一見平民の服装ではあるが、その気配を知る者には別種の緊張感をもたらす存在だろう。

「それにしても殿下がお招き(・・・)した方が、まさかこんな安宿に泊まろうとは……」

 この立ち振る舞いもアラヤシキの流儀なのですかと、相変わらずにこやかな仮面を張りつけて狭い部屋を見渡す。

「むしろ強引に主張を押し通した結果です。傲慢にも思える姿を晒したのではと、少し反省もしているんですよ」

「亜人をふくめた、社会のヒエラルキーですね――っとコホン」

 歓迎して部屋へ招くと、歓迎してないヨーギに睨まれ咳払いをする。

 そういえば敵視されていましたねと頬をかく。

「ぼくの所在をご存じということは、ジャーラフから聴いたのですか?」

「少し違いますね、ジャーレーからです」

「ジャーレーさんから?」

 まだお会いしたことがない、ジャーラフのお姉さん。ジャーラフはあんまり話をしなかったので、仲が悪いのかなとも思っていた。

 新王都に訪れたぼくの『カルマ』をとらえたのだろうか? ではジャーラフは?

 疑問が浮かび開きかけた口を塞ぐように、チャンドラが左手をかざす。

「さてアユムとは複雑な出会いがあり、また面識もありますが……国の内情をどこまでお話していいのかと迷いますね」

 後ろ手で扉を閉めると、顎に左手を当て心を探る。長持ちに置いたランプが横顔を照らし、若干だけど仮面が歪んで見えた。

 なんだろう、またもや重なる違和感。

 閉鎖され場に空気が停滞し、心臓の鼓動が耳に届く。


「――その世界は赤き3つの血が集い、混沌とした様相をみせています」

 3つの血は長い間、互いに覇権を競い合っていました。ですが間に挟まれた血は疲弊し、競わないことで争いから脱します。

 地の利があったのも、争いを退けれた要因でしょう。

 侮られ嘲笑を受け、しかし血が流れぬゆえに大地は実り豊かとなる。争うことが生きる術だった世界で、中々に皮肉ともいえます。

 そうなると2つの血は実りが惜しくなり、奪うべく牽制し合い血は混ざりあう。

「100年の膠着状態――これを世界は、平和と呼ぶのか否か」

 チャンドラは一拍置くと首を振る。紛う方なき、ヴィーラ王国と隣国の歴史。

 ぼくになにを伝えようとしているのか。

「マナスルに魔獣を引き込んだ指揮官が、昨夜自殺しました」


「な……っ」

 鼓動が脳天で鳴り響く。

 接点はバジリスクに追われていた姿だけ、しかしあまりにも意外で声が出ない。

「彼は爵位があり身分が保証され、都市部ですが貴族の生活が許されていました。盲目ゆえに不便はあったでしょうけどね」

 事情聴取も済んでおり、情報の擦り合わせなどの確認作業も終えていました。

 戦獣部隊の演習は公務であり、小隊長として告発義務も果たしています。

 プールヴァ帝国から援助を受け、マナスルの復興も順調に進行中。戴冠式を控えていることもあり、無用な混乱は避けたいのが実情でしょう。

 時期を見計らい保釈の手続きをすべく、王宮へ護送された最中の出来事。

「城館の客室で短剣を握りしめ、喉を突いた姿で発見されております」

「悲劇の遭遇戦」と世に流布された騒動の、中心的人物の最後。

 これでバジリスクの件に関わった実行者は、全て闇に消えたことになる。

「――っやられた!」

 チカチカと乱反射する光が脳内で弾け、最悪の絵を描く。

「男」は帝国の因果伯であり、盲目になったとはいえラヴィの例もある。「力」が使えなくなった訳ではない。

 まさかそこまで(・・・・)の、強硬手段に出るとは。

 動揺し汗を落とすぼくの顔を、ヨーギが不思議そうに覗き込む。意味が理解できてなくて幸いと言えた。

「じ……自殺と、断定されたのですか?」

「短剣の入手経路は不明ですが、扉の前には衛兵が詰め、目を離したのは短時間。なにより部屋は城館の3階にあり、格子状の柵がつき賊は侵入できません」

 ぼくは振り返り、同じく格子状の柵がついた明り取りを見る。

 とても人が通り抜けれる幅ではない、しかし――…。

「国に迷惑をかけた身を恥、帰国を前に己で始末をつけたのではと推測されます」

「確かに騎士道精神がある方とは思いました――いいえ、だからこそ(・・・・・)そんなはずがありません! 「自殺」は教義的に禁止とされています!!」

 騎士道精神があるのならなおのこと、名誉を重んじて自殺だけは回避したはず。

 ぼくの反論に、笑みと頷きが返る。

「その通りです、ゆえに現在の事変を招きました。すでにご存じかと思いますが、只今王宮は戒厳令が敷かれています」

「やはり、それほどの事態に――…え?」

 ランプの小さな火が揺れ、複数の陰影が疑惑のダンスを踊った。


「……なる……、……ほど……」

 ぼくは扉を背にするチャンドラに対し、すり足で移動しヨーギとの間を遮る。

 その行動が分かった上での余裕か、仮面に変化はない。

「ラクシュに、なにかあったのですね?」

「えっラクシュ?」

 話はよく分からいまま、ヨーギが主君の名に反応した。

「これは――これは、驚きましたね。何故そう思われるのでしょう?」

 チャンドラがわざとらしく笑みを強める。

「まずは一つ目の血、ヴィーラ王国の立場です」

 護送中の馬車内ならまだしも、問題は陛下のお膝元で凶事が発生した事態。

 対象者は犠牲が出なかったとはいえ、マナスルに魔獣を引き込んだ指揮官です。

 国家の体面を慮った者が、無抵抗の貴族を害して雪辱を晴らした。報復したとも取れて(・・・)しまいます。

 この際事実はどうあれ、対外的にマイナス要素でしかありません。

「どれほどあり得なくとも、ヴィーラ王国としては「自殺」と発表するしかない」

 チャンドラが納得して頷く、事の経緯に沿っているのだろう。


「次いで二つ目の血――今王宮には、キールティ公が滞在されていますね?」

「――っ」

 ヴィーラ殿下の婿にと名乗りを上げている、プールヴァ帝国の公爵。

 チャンドラの仮面がわずかながらズレ(・・)、ぼくはそれを答えと受け取る。

「なぜなら件の教義通り、自殺は不名誉の誹りを受けるからです」

 プールヴァ帝国の因果伯が「自殺した」など不名誉を発表されては、国家の体面に泥を塗る最大限の侮辱。

 ヴィーラ王国の挑発だ……宣戦布告だと大義名分を振りかざし、領民を扇動して戦争へ雪崩れ込んでも不思議はない。

 あるいはそれをこそ、狙っているのかもしれません。

「永世中立国を国是として掲げるヴィーラ王国としては、先ほどとは逆に「自殺」と発表できる訳がないのです!」

 他国間の戦争に中立的立場を維持し、他国に対して戦争を始めない(・・・・)条約。

 侵略行為があったのならまだしも、先制攻撃などもっての外。まして覇権政策のプールヴァ帝国に単身挑むなど、それこそ自殺行為。

 仮面をかぶり直したチャンドラが無言で頷く。

「しかしながらチャンドラは、当然のごとく「自殺」と主張しました」

 事の経緯が、早すぎるのです。

 しかし権威のある方が、こちらの立場を呑むか駆け引きに応じた上なら別。

「なるほど、プールヴァ帝国王位継承第2位――爵位も発言権も相応しいですね」

 しかしそれすらも、おそらくは表向きの策略……。

 重く沈んだ部屋に、突如大きな拍手が鳴り響き空気が割れた。

「素晴らしいっ! ウダカでも思いましたが、アユムの英知は国家の宝ですね! 私との会話だけで、よくそこまで推測できますな! いや参りました!!」

 チャンドラがわざとらしいほどに持ち上げ、恭しくこうべを下げる。 

 影となり隠された表情に、一層不安感が優った。

「ではやはり、事態は最悪だな」

 チャンドラの賞賛とは逆に、ことの重大さに汗を落とし独語する。

「その知恵を是非お貸し願えないかと、殿下から言づかり本日は参じた次第です。ああもちろん馬のお嬢ちゃんも、御一緒で構いません」

 窮地に立たされたヴィーラ王国の、ひいてはヴィーラ殿下のために――。

 やっと扉前から半歩ずれ、左手で出入り口を差す。

「私と同行していただければ門は開きます、ご足労願えますか」


「残念ですが、まだ肝心の三つ目の血が残っています」

 申し訳ありませんチャンドラ、あなたの仮面を剥させてもらいます。

 ぼくはその場を一歩も動かず、チャンドラの動向を観察する。ピクリと、左手の指輪が怪しげに瞬く。

「パシュチマ王国、王位継承第1位――リグ公爵の存在です」

「はて……先ほどもおっしゃいましたが、今件にリグ公は関係なかろうかと」

 少なくとも表面上は笑顔を崩さず、チャンドラがぼくの自説に待ったをかけた。

「いいえ……彼こそが最大の争点です。なぜなら二つの血は体面的な問題であり、交渉を終えたのなら――」

「アユムが来てくれれば済む話です、なによりヴィーラ殿下のお願いですし」

「交渉を終えたのなら――チャンドラ、王宮の戒厳令は解けている(・・・・・)はずですよ」

「――っ!?」

 チャンドラの仮面が、大きくが歪みひび割れる。

「しかしこの件には関わりのない血に、ラクシュに焦点を当てたらどうなるか」

 三つ巴の最中にある、漁夫の利に相当する位置。

 ヴィーラ王国とプールヴァ帝国に確執を持たせる、パシュチマ連合王国の企て。

「ラクシュが「男」を自殺に追い込んだと、疑惑が持たれたのではないですか?」

 3つの血(・・・・)が集いし世界――チャンドラはなぜか、ぼくに答えを伝えていたのだ。

「たぶん決定的な証拠があったはず! 争う姿を見られた……いえ「男」は貴族、衛兵が放っておくはずありませんね。ならば凶器とされる短剣に――」

左後片足立ち(ランパント)の翼獅子……リグ公爵家の、紋章が掘られていた」

 左手を上げ息を吐いたチャンドラが、観念したとばかりに吐露した。

 仮面が崩れ本音が表情に表れる……そうでなくてはと、少しばかり面白そうに。

「そればかりでなく、リグ公は昨夜の事件時から姿が見えないんだ」

「行方不明ということですか? 一切足取りも追えず?」

「王宮ではそのように伝わっている、天に登ったか地に潜ったか……と」

 周知できぬ事件が起こり、情報が錯綜する前に敷かれた戒厳令。ヴィーラ殿下が真っ先に、王宮を社会から切り離したのだ。

 人の口に戸は立てられない。

 外部との接触を隔絶し、関係者全てに状況の報告と疑惑の流布を止めさせる。

 支配力ある者の卓越した思考、まさしく名君と言わずにおれない。

「……ラクシュになにかがあったとしても、ぼくは彼の人となりを知っています。どんな事情があれ自殺に追い込むなんてせず、正面から雌雄を決するでしょう」

 船員に本音を訊くため、殴り合いをする王太子は彼くらいだろう。

「リグ公が直接手を下した証拠はない。しかし残された凶器と、行方をくらませるタイミングが余りにも悪すぎた」

 誰もが疑心暗鬼に陥るほどに。

「まして現在は友好的であっても彼は他国民。なにか関係があると怪しまれても、仕方がない状況だろう」

「チャンドラも、ですか」

「ああ俺は、リグ公を疑っていたからな」


 ヴィーラ王国の陛下が住まう王宮で、プールヴァ帝国の件ある因果伯が害され、パシュチマ王国の王太子が被疑者に上がる。

 赤き3つの血が複雑に混ざり合い、まさしく混沌なる様相を見せつけていた。


「……チャンドラは、ぼくに会いにきた訳ではないんですね」

 沈黙がランプを煽り、足元から伸びた影が壁を覆う。

「お察しの通りだ、ウダカで卓を囲み遊んでいた「シチナラベ」と同じ。少しでも関連のあるカードをそろえたいのさ、混沌の世界に繋がりを持つ彼の従者――」

「ヨーギを、引き渡せと?」

 2人の間に立ち塞がり、けして渡さないとの意思表示。

「それが仕事だからな……俺をヴィーラ王国を、敵に回すつもりか?」

 いつしかチャンドラの目には黒き光が宿っていた。鼓動が大きくなり、危機感が全身に広がって身体を叩く。

 ――戦いに適してないM属性が、S属性やO属性と敵対した場合どうすべきか?

 再びヴィーラ殿下と戦闘訓練した際の、問答が浮かび上がる。

 チャンドラは扉の前から動かない。外壁にある格子状の柵を外せても、ヨーギの馬体では潜ることはできず逃走不可能。

 現状は追い詰められた、密室の虫かご。

「凝縮」で濃霧を発生させ、姿を隠せれば……けれど手袋を外す隙も窺えない。

 部屋に入る以前から、チャンドラの視線はぼくから外れていないのだ。なにより彼は戦闘訓練を目撃しており、「初見殺し」が通じない。

 心を隠す仮面に惑わされ、違和感の正体に気づくのが遅すぎた。

 他に隙を突く、知らない術は……腰の軽さに思わず舌を打つ。装備は彼の足元、長持ちの横に置いてある。

「この狭さで催涙スプレーは使用不可だけど、なんとかスタンガンを手に威嚇し、脱出を計るしかない……っ」

「なあアユム……悪いようにはしない、大人しく渡してくれないか?」

「チャンドラ分かっているでしょう? 問題は誰が(・・)疑惑を持たせたか(・・・・・)なんです!」

 だからこそヴィーラ殿下は、戒厳令をとかないのだ。

 誰か(・・)を王宮から、出さない(・・・・)ために。

「そんな所に、ヨーギを連れては行けません!」

「アユムこそ分かってるはずだ。誰の(・・)企みを暴こうとどれだけ踊らされようと……他国の貴族が害された時点で選択(カード)は2つ、貸しを作り伏して望みを聞くか――」

「――戦争への口実を、与えるか」

 じわりと、背に冷たい血が上ってくる感覚。

 貧相な剣を振るう永世中立国VS大剣を振るい続け鍛え上げられた大国。

 待っているのは、一方的な虐殺。


「冷静になりこちら(・・・)を選んでください、アユムなら理解していただけるはずです」

 ぼくの覚悟を察したのか、チャンドラが礼儀正しく頭を下げた。

「アユム……?」

 話は全て分からなくとも、ヨーギが不安気にぼくの背を見上げる。

 ヴィーラ王国の全領民と、守るべき女の子。いつかジャーラフが話してくれた、生死の順位(せんたく)――決断を迫られる時が必ずくると。

『お前が旅で見た、バジリスクや盗賊の襲撃はたまさかではない。選べようはずもない二択を突きつけられる、常にその覚悟だけは持っておけ』

 己の決断が、世を巻き込む覚悟を――。

「二度と、見失わない……」

 ぼくは、見つけた(・・・・)のだから。

 部屋の中から外へ、宿の間取りから過客の姿へ、路上から街並みへ。視界が霧となって白く広がり、意識が膨張し世界を細部までとらえた。

 その時ぼくがどんな表情をしていたのか分からない。

 ただ心を満たす、狂おしいまでの悲しみと怒り。

「ア、ユム……?」

 チャンドラが後ずさり、扉に背をくっつける。

「シ――――ッ!」

 カレシーが首元から飛び出して、ぼくに(・・・)叫んだ。


『またぼくから、奪うつもりかっ!!』

 聞き覚えのある声が、地の底から響いた。



 ☆



 ――新王都の王宮、主塔の屋根。

 凝視しても発見できただろうか、漆黒の塊がある。ナイフの光を放つ青い瞳が、都市部に現れた「光」に安堵していた。

 細くはあるのだがとても強い、天と地を「繋ぐ」ように真っ直ぐ立ち昇る光。

「無事ついたか……まったく気を揉ませるな、バカ」

 口調に反して、その瞳は笑みに揺れていたかもしれない。

 アユムらと新王都に向かい旅をしていた昨夜、ジャーラフに緊急収集がかかる。

『…――ラフ、ジャーラ……聴こえる!?』

『お姉ちゃん!?』

『よ……った近く……て! 急ぎ新王都へ来なさい、詳細は追って伝えるわ!』

『まっ待ってよお姉ちゃん! そんな急に言われても……ボクは、護衛で』

『殿下の身に危険が生じるかもしれないのよ! 因果伯として行動なさいっ!!』

「――っ!?」

 木の上から視線を転じれば、過客に開放された宿代わりの農家。

 ヨーギがアユムのお腹を枕代わりにしており、その重みでバカが唸っていた。

 なんだか蹴飛ばしてしまいそうになるのを、グッと耐える。

「シ――~?」

「カレシー、あのバカを……頼む」

 ジャーラフの気配を察し、そばに寄ってきたカレシーに呟く。理解しているのかいないのか、首を傾げる「魔獣」に思わず苦笑がもれた。

 数舜後、新王都に向け「得体のしれない影」が疾走する。


「ジャーラフ、なにか痕跡でも発見できた?」

「……2人の「光」は確認済みです、範囲内に手掛かりはありません」

「ちょっとジャーラフ、まだ怒ってるの?」

「……因果伯として行動しているだけです、期待に沿えなくて申し訳ありません」

 分かりやすくふて腐れる妹に、姉は腰に手を当て苦笑した。

 三角錐の屋根を危なげなく歩くのはジャーレー、17人の因果伯の1人である。

 ウェーブのかかった肩までの銀髪が揺れ、猫の耳が立つ。

 少年を思わせる顔に傷が走り、右目を潰していた。精悍な肢体は女性の特徴以外の一切を無駄として省き、半ばから断ち切られた尻尾が存在をしめして揺れる。

 黄色い瞳が縦に一筋、ナイフの光を放っていた。

 ジャーラフと共に生を受けた、双子の姉である。


「そもハスター伯爵に護衛を命じられたのは、サーガラまででしょ? 確かに殿下は許可されたけど、もう関わる必要はありませんって何度も伝えたのに」

 まったくこの娘は頑固なんだから――姉の器量か、慣れ親しんだお説教。

「でもプラーナ様には、撫でて貰ったし……」

「マナスルに因果伯6名はプラーナ様の下知よ、名誉に傷がつくでしょう!?」

 幾度もマナスルに戻るよう説得され、幾度も拒否が繰り返された。

 2人に距離の概念はなく、生まれてから今までどれほど会話を交わしただろう。

「それにこの頃特に声が遠くって……以前もあったでしょう。心がなにかに支配されてると、意中の人以外は声が届きにくくなるの」

 なにか思い当たる節はある――?

 姉が顎に手を当て、妹を盗み見る。

「――っべ、別に」

「ふう……まったくジャーラフを(たぶら)かすなんて、やっぱりあの少年は危険ね」

「お姉ちゃん!?」

 しかし姉は、妹の心情を理解できていない……。

「召喚の間に現れた時から感じてた。国家存亡危機の魔獣を呼び寄せ仔を手懐け、旅先でも次々と騒動を巻き起こす疫病神」

「そっ……れは」

「あいつは存在が理解不能な魔獣と同じ。この国に、ヴィーラ殿下に危害を及ぼす可能性があるのなら……この命を賭して、絶対に止めてみせる!」

 危険な只人を妹に近づけたくはない、静かな気配に混ざる本気の殺意。

 姉のどこかで聞いたセリフに、妹は呆気にとられる。

「あの少年は、私たちとは違う(・・)っ!!」


「それは、だから! 嵐……船を、学ぶというか――~…っ!」

「ジャーラフ?」

 ことは殿下の安全と名誉に関わる、妹の反論に姉は怪訝な瞳を向けた。

「いっ一緒に旅をすれば、分かるんだよ! アユムは確かにお気楽なバカでやたら女に手は早いし鈍感で別け分かんない奇天烈な只人のガキだけどっ!!」

 美味しい料理を取り分け、チェスを一緒に作り、数字や文字を教えてくれる。

 亜人のボクに、ありがとうって当たり前みたいに笑う。

「だからっ! 放っておけない、バカなんだよ……っ!!」

「ジャーラフ、あなた……まさか」

「――えっ!? なっなんだよ、なんでもないよっ!」

「「綺人(きじん)」で、操られてるんじゃないでしょうねっ!?」

「にゃっ!?」

「私の妹になんてことを! M属性とは偽りだったのね、よくも謀ったアアア! 謀ってくれたなアアアアア!!」

 拳の第二関節を握り、両手のバグ・ナウが猫の爪のように鋭く光る。

「あの顔を十字裂きにして、王宮の湖に叩き込んでやる……っ!」

「待って違うの、待ってお姉ちゃん! お姉ちゃ――んっ!!」

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