アイテム、何個持てる?~剣も魔法も使えないけど、無限に入るよ~
どこかで見たようなタイトルですが気のせいです。
「ねえ、フィニ。わたしの願いはね、もしフィニと一緒に冒険の旅に出られたら、それはとっても素敵な日々を送れるんじゃないかって思うの」
「でも僕は、生まれつき体が弱いし、剣と魔法の適正も無くて才能も無かったよ。こんな僕と冒険しても楽しくないと思うんだ」
僕は冒険者ギルド長を親に持つ平民、フィニ。だからといって、剣も握れなければ、魔法も扱えない。
ギルドには自由に出入りできるけど、そこで出来るといったら、冒険者たちの為にお茶を出したり、荷物を持ってあげたり、話を聞いてあげることくらいしか出来ない。
「それは素敵なことよ? わたし、フィニがいるだけで嬉しいもの」
「どうしてこんな僕に?」
「一目ぼれ!」
重装な鎧を着れるでもない、身のこなしが優れているでもない僕のことを、ギルドで初めて出会った時から、声をかけては嬉しそうに話をしてくれる剣士カーリア。
彼女は冒険者の中では最高ランクに位置する人で、数々の武勲を立てながら共に戦う冒険者たちからは絶大な信頼を寄せられているのだとか。
「フィニは嬉しくない? わたしと一緒に冒険に出られるの」
「行けたら行きたい。カーリアは可愛いし優しいし、僕の唯一の……」
「そうだよね! 両想い! たとえ、何も出来なくてもいいの。一緒に行けたら、それだけでわたしは強くなれる!」
綺麗な銀色の長い髪をなびかせながら、嬉しそうに笑う彼女は、僕なんかと話をするような冒険者じゃない。
それなのに僕とギルドで初めて出会ったその時から、いつも笑顔を見せながら話をしてくれた。
一緒に外に出かけて、敵を華麗になぎ倒す彼女の姿を間近で見たい。そう思っていても、どうしたら一緒に出られるというのだろう。
そんな毎日を過ごしながらギルドで掃除をしていると、ギルド長こと、父さんが声をかけて来た。
「フィニよ、体が弱いのに雑用をさせてすまないな」
「いいよ。僕はこれしか出来ないんだから」
「せめて何か出来ればいいなと思って、倉庫を探しまくっていたんだが……使っていないカバンを見つけたんだ。良かったら使わないか?」
父さんが見せてくれたのは、真っ黒でボロボロのカバンだった。しかも、肩掛けの出来るモノだ。
「これは……?」
「祖父を覚えているか? 先代は色んな狩り場を渡り歩きながら、レアなアイテムばかりをそのカバンに入れて、共に旅するみんなに貢献して来たと聞いている。祖父の形見ではあるが、使ってみないか?」
「形見……、で、でも、カバンを手にしても、僕にはせいぜいアイテムを詰め込むくらいしか出来ないよ」
祖父はカバンを装備しながら、冒険者としても優秀だったに違いない。だけど、僕はカバンしか持てない。
「それでも、ここにいるだけではなく、カバンを手にしながら冒険者のアイテムを持ってあげられることが出来るんじゃないか?」
「そうだけど、でも……」
「モノは試しだ。中身を見たことはないが、そのカバンに何でもいいから詰め込んでみろ。もしかしたら、フィニの世界が開けるかもしれないぞ」
「カバンを持つだけで世界が?」
父さんはいつも、僕に声をかけて来るカーリアのことを知っていて、彼女が僕に話していることも聞いているはず。
きっとそのことを気にかけてくれて、祖父の形見を探してくれたに違いなかった。
とにかく何か入れてみよう。見た目だけだと、装備品が入るような大きさでもなくて、回復薬とか魔術所といった、小物程度ならそれなりに入りそうな感じに見えた。
えーと、とりあえず……回復薬の瓶を数本入れてみよう。そうすれば、ある程度の重さも分かるだろうから。
回復薬の瓶は何本も持てるものではなく、一回の冒険で数本程度しか持つことが出来ないくらい重いものだ。
ただでさえ、力の無い僕が回復薬を何本も持とうとすれば、それだけで一緒に出掛けられるわけが無いと、一瞬で分かりそうなものだった。
――えっ!?
試しにギルド内に常備してある回復瓶を3本くらい入れてみたものの、まるで重さを感じることが無かったので、目に見える回復瓶をカバンの中に入れまくってみた。
お、重くない……!?
それどころか、際限がない感じがする。
カバンの中を覗いてみると、しっかり回復瓶は収まっていてすぐに取り出せるように整えられている。
な、何だこれ!?
もしかして無限なのだろうか。カバンの口こそ広くはないけど、アイテムなら何でも入りそうな予感がした。
幸いにして、冒険者も父さんもギルドを留守にしていて、手あたり次第にアイテムを放り込もうと思えば出来る……そんなことを思っていたら、彼女が声をかけてくれた。
「フィニ? そのボロボロのカバン、どうしたの?」
「カーリア! あ、あのさ、カーリアのその剣と盾を、このカバンに入れてみてくれないかな?」
一体僕は、何を言っているんだろう。
「カ、カバンに? 入るかなぁ? 入ったらすごいけど」
「だ、大丈夫! きっと入ると思うんだ!」
「わ! すごい自信だね。フィニが言うなら間違いないかな。じゃあ、はい」
「っととと……お、重い……」
カーリアが手にしている剣と盾は、とても重くて使いこなれているものだった。
「もし入ったら、身軽になるし、旅の途中に疲れなくなるかも?」
「い、入れるよ?」
「うんっ!」
とにかくそっと手にしながら、彼女の大事な剣と盾をカバンの中に入れてみた。
「ど、どう?」
「……は、入った! そ、それに、ちっとも重くないよ! これなら一緒に冒険に行けるんじゃ?」
「中はどうなっているの? 見てもいい?」
「う、うん」
僕からは、しっかりと剣と盾が収まっていて、さっき入れまくった回復瓶が何本も入ったままにみえる。
「あれ? 何も見えないけど、床に落ちているでもないよね? ど、どういうことなの?」
「えっ!? そんなはずないよ! だって、僕には見えているんだよ?」
何度見ても、カーリアの剣と盾、回復瓶は収まっていて重さは感じられない。
カーリアがカバンの中身を覗き込むと、真っ暗な空間が目に飛び込んで来ているだけみたいだ。
「カーリア、これ、返すね」
「あ、うん……不思議……剣と盾は特に何も変わっていないし、カバンも形状が変わったようでも無いのに」
「そ、そうだ! 父さんが戻って来るまでに、回復瓶を戻さないと」
彼女が不思議がっている中で、さっき入れまくった回復瓶を棚の上に戻した。
「フィニ! それ、それなら行けるよ! ね、そのカバンを手にしてわたしと冒険に行きましょ?」
「――あ! そ、そうか!」
世界が開ける……もしかしなくても、そういうことなのかな。
祖父の形見が、僕を冒険の世界へ導いてくれるだなんて、これは何かの始まりなのかもしれない。
「ふふっ、楽しみ! わたし、そろそろ戻るわね。近いうちに、他のみんなに紹介するから、一緒に冒険委出掛けようね!」
「うん! あの、カーリア……」
「なぁに?」
「剣も持てないし、使えないし……魔法も使えないけど、僕と一緒に冒険に行ってください!」
「はい! 剣士カーリアは、アイテム士フィニを歓迎します! よろしくね、フィニ!」
僕の力じゃなく、祖父の形見によるものだけど、僕は無限の可能性を秘めたカバンを手にして冒険の旅に出かけられるんだ!
頑張るんだ、外に出て僕はカバンと共に冒険に出て見せる!
お読みいただきありがとうございました。
短編で書きました。機会があれば長編でかければなと思います。