83話 瀬能 梓
集まってきている。
巨大な芋虫は、今地上に出た二体だけではない。
血の臭いを嗅ぎつけたのか、周りの砂が盛り上がり、さらに何匹か近づいているのがわかる。
「スキルを発動させますか? ヒメ」
中野くんが私を呼ぶ。
この惑星にいる前から、私はずっとクラスメイト達にヒメと呼ばれていた。
小学校の時からのあだ名。
私は自分が綺麗なことを小さい頃から自覚していた。
何もしなくても、まわりがチヤホヤし、なんでも言うことを聞いてくれる。
それは、こんなふざけた世界に連れて来られても変わらない。
「全部、まとめてやるわ。それまで、しっかりと守りなさい」
「かしこまりました、ヒメ」
どんな場所でも、私は一番でないと気が済まない。
このクラスのトップは小日向くんじゃない。
やがて、スキルによる命令も克服し、私が一番になってみせる。
どん、どんっ、と大きな地響きが近づいてきた。
巨大化した大山くんだ。
第一部隊から離れ、一人で城まで走っている。
襲い掛かかる芋虫を、地中から引っこ抜き、豪快に潰していた。
「いい戦力ね。彼も護衛に欲しいわ」
「わかりました、ヒメ。後ほど説得してみます」
中野くんの盾は強力だけど、それだけでは心許ない。
大山くんの巨大化スキルと、ついでに真壁くんの壁スキルも欲しいところだ。
小日向くんの指揮下から、やがては皆、私の元に集めよう。
根岸くんと八千代さんが奮闘しているが、二匹の巨大芋虫に苦戦している。
どうやら凡人のスキルでは、ここいらが限界らしい。
「中野くん、大きな音を鳴らして。ここに集めるわ」
「ヒメっ! ついにお使いになるのですねっ!!」
意気揚々と中野くんがスキルで出した盾をゴンゴンと叩く。
鳴り響く音に、地上に出た巨大芋虫だけではなく、地中にいる数匹も反応し、向かってくる。
私は精神を集中させ、右手を挙げた。
そこには、私にしか見えない、長い刀が握られている。
「ば、馬鹿野郎っ、使うなら前もって言いやがれっ!!」
「横に飛べ根岸っ、来るぞっ!!」
私のスキル発動に気がついた根岸くんと八千代さんがそれぞれ左右に飛び退いた。
間に合わない時は仕方ない。
醜い芋虫にやられるよりも、私の美しいスキルにやられるほうが何億倍もマシなはずだ。
真っ直ぐに刀を振り下ろす。
同時に、私の目の前に赤い線が一本出来上がる。
その線の向こう側に、こちらに向かって来ていた二匹の巨大芋虫と地中にいる数匹が重なっていた。
「お見事です、ヒメ」
中野くんが盾のスキルを解除し、私に一礼する。
それと同時に、赤い線にそって、巨大芋虫達が頭から真っ二つになって、左右に両断された。
「姫一文字・次元両断」
携帯に示されたスキルの名前は『次元刀』だったが、あまりカッコよくなかったので、勝手に改名した。
見えない刀で斬りつけた直線上は、どんなものでも両断できる強力なスキル。
しかし、その発動には大きな弱点があった。
「……しっかり、と、守りな、さいよ」
一回使うたびに強烈な睡魔に襲われ、一時間は目覚めない。
あまりにも無防備な時間が出来てしまう。
「この中野にお任せあれ、命にかえても、守り通してみせましょう」
やはり、中野一人だけではどうしても不安だ。
早く小日向くんからクラスの政権を取り戻し、私がクラスのトップに立たなければならない。
薄れゆく意識の中で、私は強くそう思った。




