82話 大山 大吾 その3
とてつもなく嫌な予感がして、後ろを振り向いた。
そこには、砂漠が広がるだけでなにもない。
なのに、僕はそこに一人寂しそうに笑う涼ちんが見えたような気がした。
きっとなにかあったんだ。
いますぐにでも涼ちんの所に行かなくてはならない。
なのに、小日向くんのスキルにより、僕は涼ちんからさらに離れていく。
「先陣の第三部隊が魔物と接触っ! 交戦している模様ですっ! 恐らく、一名が犠牲になりましたっ!」
誰かが亡くなったのかっ!
そんな衝撃的な安藤くんの報告にも、小日向くんは眉一つ動かさない。
「ルートを変えて移動する。第五部隊と第六部隊に伝達せよ。第三部隊は、魔物を討伐した後、合流させる」
全ての部隊で討伐に向かえば、第三部隊はこれ以上の犠牲を出さずに済むかもしれない。
それでも小日向くんが下した決断は、第三部隊を置いて、最速で敵の城に向かうことだった。
「なにか言いたそうだな、大山一等兵」
言いたいことは山ほどある。
涼ちんを助けに行きたい。
第三部隊も救いたい。
誰かを犠牲にして、前に進みたくない。
けれど、それは言葉にならない。
僕はもうわかっていた。
小日向くんの将軍スキルは、どんどんと力が強くなっている。
それは、言葉だけではなく、その想いまで身体に染み込むように伝わるようになっていた。
「……僕に先頭を行かせて下さい」
誰一人犠牲になどしたくない。
だけど、そんなことは不可能だ。
だから、一人でも少ない犠牲者で、早くこの馬鹿げた戦いを終わらせようとしている。
鉄面皮のような表情の下で、小日向くんは、ずっともがき苦しんでいた。
「許可する。行ってこい、大山 大吾」
一等兵ではなく、フルネームで呼ばれる。
「はいっ!」
大きな声で答えて、息を吸い込む。
身体は、いままでにないほどに巨大化していく。
涼ちんを助けに行く。
けど、それは戻ることじゃない。
この戦いを完全に終わらせるっ。
地響きをたて、砂漠の砂を巻き上げながら、全力疾走で城を目指す。
ざざざっ、と砂の中を何かが移動しており、走っている僕に向かってくる。
「……邪魔を」
走りながら、砂の中に手を突っ込む。
ぶにっ、とした気持ち悪い感触のものを、砂から引きずり出す。
巨大な芋虫が、姿を現し、僕に噛みつこうと大きな口を広げていた。
「邪魔をするなっ!!」
両手で、力いっぱい、芋虫を引っ張る。
張り詰めたゴムのように伸びた芋虫から、ぶちぶちという小さな音がした後、ばんっ、と真ん中から引きちぎれ、弾け飛ぶ。
緑色の液体が全身に降り注ぐが、気にしない。
そのまま、城まで走り続ける。
スーパーヒーローはやってこない。
だったら今度は、僕がそのスーパーヒーローになってやる。
「行くよっ、涼ちんっ!!」
僕は雄叫びをあげながら、城を目指して走り続けた。




