80話 報告
「レンタル、毒牙の短剣」
泉の胸に、強力な毒を持った短剣を突き刺した。
象ですら、一撃で崩れ落ちる毒だが、泉は短剣が突き刺さったまま、大剣『大吾』を振りかぶる。
「レンタル、瞬間……」
「止まれっ!」
拡声器『小日向』の将軍スキルによって動きを止められた。
「ぎぃっ!」
ずぶぶぶっ、と僕の頭に大剣が食い込み、そのまま尻まで真っ二つに引き裂かれる。
だが、その後に。
「ぐはっ!」
僕を両断した後、泉が血を吐いて膝から崩れ落ちる。
やはり、効いてないはずがなかった。
泉の全身に毒がまわり、身体が紫色に染まっている。
「……移動」
将軍スキルの効果が切れ、二つになった僕は瞬間移動で距離をとった。
「レン、タ、ル、自己、蘇生」
別れた身体から、スライムのような液体が溢れ出し、僕を繋げていく。
あまりに綺麗な切り口だったからか。
回復にそこまで時間はかからない。
だが、毒に侵された泉も同じように回復している。
「十五個目のスキルを確認。付け爪『鈴木』。指先から蜘蛛の糸を出し、拘束する」
一気に使ってきた泉のスキルを確認していく。
「十六個目のスキルを確認。大盾『中野』。全身を覆う頑強な盾は、正面からの攻撃を無効化する」
聞こえているか、シャルロッテ。
最後まで、僕はお前に利用されてやる。
「十七個目のスキルを確認。手榴弾『根岸』。ピンを抜いて、2秒後に爆発する小型爆弾。爆発後、冷却時間が終わると再びストックされる」
泉のスキルをまだ半分も把握していない。
だけど、それはこちらも同じだ。
シャルロッテは亡くなった僕のクラスメイト全員のスキルをレンタルしている。
「十八個目のスキルを確認。イアホン『音峰』。耳から流れてくる歌を聞くことにより、身体のダメージが回復する」
報告を終えると同時に、身体は完全に繋がっていた。
泉も毒が抜けたのか、紫に変色した肌が元に戻っている。
強い。
しかも、まだ半分以上ものスキルが分からない。
僕が勝つ確率など、ほとんどないだろう。
シャルロッテの借り物屋を利用しても、まったく勝つイメージが湧いてこない。
だが、それでも僕は勝たなければならない。
「一つだけ約束してくれないか?」
一つだけ残った僕の最後の願い。
この戦いに勝てば、約束するとシャルロッテは言っていた。
「僕が勝ったら、楓の肉体を解放してほしい」
「いいわ、約束してあげる」
いつも、僕の後ろをついて来ていた楓。
彼女といることはあまりにも自然で、離れることなどないと思っていた。
「しゅーいち」
下の名前で呼ぶなと楓に言ったのは中学になってからだった。
友達にからかわれるのが嫌で、思春期を迎えた頃から、自然と彼女を避けるようになっていく。
だが、楓は小さい頃から変わらずに、高校になっても、ずっと僕の側にいてくれた。
「……全部だ」
負けるわけにはいかない。
たった一つだけ残った僕の最後の願いをかなえるために、すべてのスキルをレンタルする。
「全部を使って、お前を倒してやる」
そのあとはもう、何も残らなくていい。
泉が大砲『名波』を取り出し、僕に向けて発射する。
スキルを連続で使いすぎ、瞬間移動が発動しない。
もはや、残された手は一つしかなかった。
「うわぁああぁああああぁあああっ!!」
シャルロッテを倒すために仕掛けていた爆弾のスイッチを押す。
大爆発と共に、巨大な城がなくなった。




