8話 五人
「今後、共同作戦を除き、戦闘は部隊ごとに分かれて行う。困難な状況も、他部隊への干渉は極力避け、自部隊のみで解決せよ」
「サー、イエッサー」
小日向くんのこの宣言は実質、俺達、第八部隊への死刑宣言だった。
「な、納得出来ない」
クラスメイト全員が小日向くんのスキルに逆らえない中、ただ一人、反対する者がいた。
「大山一等兵。返事はサーか、イエッサーのみだっ」
「さ、サぁ……いやだっ、この班分けはおかしいっ」
苦しそうにしながら、声を押し出すようにそう言ったのは大吾だった。
「第八部隊だけ、戦闘バランスが明らかにおかしいっ。彼らを犠牲にするつもりなのかっ」
「足手まといが混ざっていると、他の者まで犠牲になる。不穏分子は取り除くっ」
俺だけがスキルを使えず足手まといだと思っていた。
だが、第八部隊の他の四人も、どうやら役立たずの烙印を押されていたようだ。
確かに図書委員の眼鏡っ子、名波さんは虫も殺せないような性格だ。
いくらいいスキルを持っていても、戦闘に使えなければ、それはスキルがないのと同じなのだ。
「僕を第八部隊にかえてくれ」
「駄目だ。これがベストな選択だ。やがてわかる時がくる」
小日向くんの声が大きくなる。
「下がれっ、大山一等兵っ」
「さ、サー、い、イエッサー」
ついに大吾が折れて後ろに下がる。
どうやら小日向くんのスキルは声の大きさにより強力になるようだ。
ゴブリンとの戦闘からずっと声を出し続けている小日向くんの喉が枯れてきている。
大吾と目があった。
俺は大丈夫と大吾に向かってうなづいた。
なんの根拠もなかった。しかし、俺は大吾に心配をかけたくなかったのだ。
「どうせ、無駄だよ。多分、みんな死ぬ」
俺の隣にいる第八部隊の隊長、田中くんがそう呟く。
いつも無気力で、よくテストを白紙で出して先生に叱られていた。
彼もいいスキルを持っていても、使うことはなさそうだ。
「いやぁ、帰りたい、帰りたいよぉ」
「なんでこんなことにっ、これは夢だっ、夢なんだっ」
ぶりっ子の河合さんは泣いてうずくまり、デブの森山くんは現実逃避をして、お菓子を食べている。
「泉くん……」
副隊長の名波さんが不安そうに声をかけてくる。
「大丈夫。この五人で協力して、頑張っていこう」
根拠のない励ましは、名波さんにではなく、自分に言い聞かせていたのかもしれない。
「これより、北に向かう。先頭は第一部隊っ。殿は第八部隊っ」
赤い血のヒゲをつけた小日向くんが叫ぶ。
「サー、イエッサー」
絶対に生き残って見返してやる。
小日向くんを睨みながらも、彼のスキルに逆らえず俺は返事をして敬礼した。