74話 大山 大吾 その2
スーパーヒーローは存在する。
そう強く思ったのは涼ちんに出会ってからだった。
身体が大きいだけで、どんくさい僕は、小さい頃からよくクラスでいじめられていた。
両親も先生も助けてくれない。
そんな中でいつも助けてくれるのが涼ちんだった。
「いくぞ、だいちんっ。今日も悪をこらしめるのだっ」
喧嘩が苦手な僕はいつも手を出せず、涼ちんがいつも一人でいじめっ子達と戦っていた。
勝つ時も、負ける時もあったが、どちらの時も涼ちんは笑っていた。
それはアニメに出てくるヒーローよりもカッコ良くて、僕にとって涼ちんはいつもスーパーヒーローだった。
「第二部隊及び、第四、第七、第八部隊が魔物の大群と衝突する。我々はその隙に、砂漠を超え、最終目的地である城に突入する」
小日向くんの言葉に耳を疑う。
日暮れ前、砂漠を見下ろす、小高い丘に全員が集合していた。
最初、四十人いたクラスメイトは、半数に減っている。
足手まといを切り捨てていく、小日向くんの考えに賛同はできなかったが、みんなが無事でいてくれることを信じて我慢してきた。
なのに、小日向くんは、別れた仲間たちを犠牲にして、自分たちだけ、生き残ろうとしている。
「そんな、そんなことが許されるものかっ!!」
声を荒げて抗議する。
だが、誰も反応しない。
まるで、僕の声が聞こえていないみたいに……
「砂漠への突入は、第三部隊を先頭に、第五、第六と続き、最後に第一部隊が突入する。各自、戦闘準備を怠るなっ」
「サー、イエッサー、サー」
全員が揃って反応し、小日向くんに敬礼する。
すべての者を従わせる将軍スキルがさらに強力になっていた。
思わず敬礼しそうになり、必死に抵抗する。
「イ、イエッサーじゃないっ! 誰もっ、誰もおかしいと思わないのかっ!!」
「思わないよ、大山一等兵」
直接、小日向くんが話しかけてきた瞬間、身体が硬直する。
「犠牲者の一人も出さずに勝つことなんてできない。最小限の被害で勝利する。これが我々の正義だ」
「ち、ち、ち、ちが……」
違うという言葉が出てこなかった。
こんなものは正義じゃない。
本当の正義を、僕はずっと見てきたんだっ!
「では、これより、進軍を開始するっ!!」
「サー、イエッサー、サーっ!!」
ひときわ大きな号令に、僕の身体は勝手に動き、敬礼してしまう。
もはや、誰一人、小日向くんに逆らうことはできない。
嫌だっ。
行きたくないっ。
涼ちんっ!!
子供の頃のようにスーパーヒーローの到着を待ちわびる。
だけど、この世界にはそんなものは存在しなかった。




