70話 約束
追放者の男と名乗りあった。
泉 涼。
僕と同じ日本人の名前を聞いて、強く思う。
泉も僕と同じなのだろう。
シャルロッテに無理矢理、この世界に連れてこられ、クラスメイトを全員殺された。
彼女は一体何者なのか。
天宮 ソフィア 。
金髪の姿の時に鑑定した名前はそれだった。
二世代前の救世主の一人。
他のクラスメイトは全滅。
それが彼女の正体とは思えなかった。
すべてのクラスメイトを失った僕は、砂漠で彼女に尋ねた。
「本物の楓は?」
「最初からここには来ていないわ。地球であなたのことを心配してるんじゃないかしら」
会話を思い出す。
それが本当ならどれだけよかったか。
鑑定のスキルで楓の身体は本物だとわかる。
だけど、そこに彼女はいない。
ここに連れてこられた時から、魂はシャルロッテと入れ替わっているのだ。
そして、その上で天宮 ソフィアの身体を操っていたのだろう。
乗っ取ると操る。
その違いは明確だ。
操っているほうの身体は生きていない。
追放者に頭を飛ばされた天宮 ソフィアを鑑定した時、死亡時期は五年前になっていた。
そして、推測が正しければシャルロッテの本体は……
「さすがね。ほとんど正解よ」
楓の顔で笑う姿に嫌悪を覚える。
本当に楽しそうなシャルロッテ。
壊れているのか。
いや、壊れていないとやっていけないのだろう。
「一体、いつからなんだ? いつからこんなことを繰り返しているんだ?」
シャルロッテがキョトンとした顔で僕を見る。
「さあ、あまりにも昔で忘れてしまったわ」
嘘ではない。
それがわかった。
スキルは使い続けることで成長する。
シャルロッテの嘘を見抜くまで鑑定のスキルが成長したのか。
いまなら真実がわかるかもしれない。
「シャルロッテ、君の本体は、何処にあるんだ?」
笑っていたシャルロッテの顔が真顔になった。
嘘が見抜けるようになったことも気がついているだろう。
だが、答えるはずだ。
ここで答えないと物語は盛り上がらない。
「とっくに消滅したわ。今はコレが私の本体。予備がないから壊れたら私は死ぬことになるわ」
嘘ではなかった。
とっくの昔に彼女の肉体は存在していないのだ。
「どうするの? 城に仕掛けた爆弾で私と一緒に心中するのかしら」
やはり、僕の計画にも気がついている。
何もかも終わらせるならそれもいいだろう。
「一つだけ約束してくれないか?」
それは、たった一つだけ残った僕の最後の願いだった。
「いいわ、約束してあげる」
楓の顔をした悪魔と契約する。
僕に残された選択は、それしかなかった。
「いくぞ」
泉が背中の大剣、『大吾』を抜いた。
同時に大剣は三倍ほどに巨大化する。
近くにいることで、泉が複数の武器スキルを同時に使っていることがわかった。
巨大化した大剣『大吾』は、かなりの重さになっている。
それを背中の赤マント『佐々木』で重力操作し、軽々と持っているのだ。
この世界でただ一人、僕と同じ境遇の男。
まるで、鏡の前に立つような、そんな錯覚すら覚えてしまう。
「ああ、始めよう」
僕の、最後の戦いが始まった。




