61話 カウントダウン 33
「もうすぐ着くわ。準備してて」
佐々木さんにそう言われて、腰のベルトからナイフを取り出した。
ハーピーがいた渓谷を抜けた所で、五人は二手に分かれる。
宇佐さん、時任さん、鰐淵くんは、地上から、俺と佐々木さんは上空から第二部隊の救出に向かう。
後ろから佐々木さんが俺を遠慮がちにそっと抱えて飛んでくれていた。
「あまり無茶はしないで。救出メインだからね」
「わかってる」
スキルのない俺に大した戦闘は出来ない。
リザードマンを退治しにいった時にそれはつくづく実感した。
ナイフはあくまで、もしもの時の護身用だ。
「これ、持っていけよ」
そう言って田中くんが渡してくれたナイフは、以前自分が作った槍もどきとは比べ物にならないほど良く出来ていた。
短剣にちかい少し大きめのナイフは、田中くんが硬めの石を砕き、研磨した後、リザードマンの爪を埋めこみコーティングしてある。
黒々とした鈍い光を放つナイフは、まるで芸術品のように綺麗だった。
「あ、ありがとう。大切にするよ」
「あげたんじゃない。帰ってきたら返せよ」
こちらを見ずにそう言った田中くんの表情はわからない。
だが、なんだか照れてるんじゃないかと勝手に想像してしまう。
「ほら、名波さんも渡しなよ」
「え、あ、う、うん」
河合さんに押されて、名波さんが俺の前に来る。
「あの、これ、良かったらお守りに持っていって」
そう言って名波さんが渡してきたのは、合格祈願と書かれたお守りだった。
「受験の時の?」
「う、うん。ご、ごめんね、場違いだよね」
「そんなことないよ。ありがとう」
名波さんとのやり取りを河合さんが後ろでにやにやしながら見ている。
「あ、ワタシは別に何もないからね。でも、怪我したら治してあげるから、ちゃんと帰ってきてね」
「仏の顔も三度までじゃなかった?」
「優しいからね、ワタシ。四度目もあるみたい」
笑ってピースサインする河合さん。
彼女のスキルがあるおかげで、どれだけ救われたことか。
負担を減らすためにも、なるべく誰も傷を負わずに帰りたい。
「お前ら待ってろよっ、すぐ帰ってくるからなっ!」
鰐淵くんが鈴木くんと久米くんに向かって拳を突き上げていた。
またすぐにみんなで再会できる。
この時はまだ、そう信じて疑わなかった。
「見えたっ、第二部隊だっ!」
砂漠の入り口付近に砂で出来たような魔物が溢れている。
疲弊しているようだが、まだ五人とも無事のようだ。
大丈夫。
彼らを救って、みんなとすぐに再会する。
シャルロッテに名波さん達のことを頼んだのは不安で仕方ないが、もう彼女を信用するしかない。
その時だ。
携帯にラインの通知を知らせる音声が鳴った。
……まさかっ!?
間違いであってくれっ、と切に願う。
震える手で携帯を取り出し画面を確認する。
『カウントダウン あと33』
仲間の死を知らせる無情な報告に、目の前がぐにゃりと歪む。
俺の中で爆発するように何かが弾けて、ぶっ壊れた。




