6話 無能力
「なかなかいいスキルね。あのおチビさん」
真壁くんが作ってくれた壁の中でシャルロッテと二人きりになる。
小日向くんに命令されたからだろう。壁の外に出たくても身体が動かない。
「将軍スキル。よい司令官がいれば、それだけで戦況をひっくり返せるわ」
シャルロッテの言った通り、小日向くんが指示してから、戦況はかなり好転している。
スキルを使うものと休息をとるものをうまく配分し、無駄のない戦いを指示してゴブリン達を次々と討伐している。
「なあ、あんた。この戦争が終わったら本当に俺たちは帰れるのか?」
「もちろん、私は嘘をついたことなど一度もないわ」
笑顔でそう言うシャルロッテ。全く信用できない。
しかし、彼女の言うことを聞く以外に選択肢がないのもまた事実だ。
今、出来ることをやろう。スキルのない俺に何が出来るか考える。
カバンの中から修学旅行のしおりを取り出して、1番後ろに書かれたクラスの名簿を見る。
『出席番号 男子1番 安藤 優一』
ペンを取り出し、そう書かれた名前の下に彼のスキルを書き込む。
『スキル 索敵』
「なになに? 何してるの? そんなことしなくても、あのおチビさんがみんなの能力を把握してるわよ」
知っている。
それでも何もしないよりはマシだ。
俺はシャルロッテを無視して今わかっているみんなのスキルを書いていく。
『出席番号 男子2番 泉 涼』
『スキル 無し』
自分の名前の下にスキル無しと書く。
改めて実感する。
俺だけみんなの役に立たないことを。
「今まで沢山の救世主を呼んできたけど、スキルがなかったのはあなたが初めてよ」
「知っていたのか?」
「もちろんよ。ラインに能力の説明を書いて送ったのは、私ですもの」
やっぱり知ってて、俺にウインクをしてきたのか。
「なんで俺だけ、スキルがないんだ?」
「わからないわ。過去に例がないもの。もしかしたら何らかの拍子に覚醒してスキルに目覚めるとか、そんなこともあるかもしれないわね。まあ、あまり期待しないほうがいいけど。 むしろスキルがないというスキルだと思って、自慢したら?」
すごい適当に励まされる。
話す気力を失い、再びクラスメイトの名前の下にスキルを書いていく。
『出席番号 男子3番 大山 大吾』
『スキル 巨大化』
「ああ、役立たずの涙ぐましい努力! 感動ね! 私、あなたのこと応援するわっ」
俺はお前を殴りたい。いや、いつか絶対ぶん殴る。
「安藤三等兵っ、ゴブリン残数を述べよっ」
「イエッサー、残数8っ、まもなく殲滅です、サッー」
「すごいわね。誰も死なないなんて。半分くらいは死ぬと思っていたわ」
ゴブリンたちとの壮絶な戦いが、一人の犠牲者もなく終結する。
全く何も出来なかった俺が、真っ先に歓喜の雄叫びを上げていた。