60話 撮影
全てが終わる。
そう確信していた。
爆発に飲み込まれ、何もかも消えて無くなる。
……そのはずだった。
「柊木くんっ!」
名前を呼ばれたと思った瞬間、手を握られる。
幼馴染みの楓だ。
必死な顔で俺を掴んだ手から、すごい力が込められる。
俺がそれを握り返した時、まわりの景色が一変した。
巨大な爆発音と共に大きなキノコ雲が立ち昇る。
それは俺達二人の遥か後方で爆発した。
楓から、スキル『瞬間移動』を感知していた。
彼女の能力で俺達は城の城門近くまで、一瞬で移動していたのだ。
ここからでもわかる。
残ったクラスメイトたちに生き残りはいない。
灼熱の爆風が離れたここまで熱気を伝えてくる。
「……柊木くん」
楓はまだ俺の手を握って離さない。
「一体なんなのっ! 追放者を倒せば、私達は帰れるんじゃなかったのっ」
泣き叫ぶ楓に何を言えばいいのか。
正直に言うのが正解なのだろうか?
それが彼女の望みならそうするしかないのだろう。
「たぶん、何をしても帰れない。僕達はただ誰かに娯楽を提供するためだけに連れてこられたんだ」
「えっ」
楓が泣くのを止め、呆然となる。
「僕らは今もカメラで撮影されている。ずっと記録のスキルを感知していた」
「そんなっ、誰にそんなものを見せているのっ!」
「わからない。ただこの惑星の者じゃない。たぶん、ここに黒幕はいない。推測だけど、ここには先住民自体が存在しないんだ」
スキルが使えない兵士達。
最初、彼らはこの惑星の住民だと思っていた。
しかし、一年間、シャルロッテと城で暮らしたことで、判明する。
「ここにいるのは、みんな、拉致された救世主の子孫だ。この惑星はずっと前から、人間を拉致して戦争をさせている。そして、それを撮影しているのも、同じ救世主だ」
「……嘘、そんな、なんでそんなことを」
「それは君が知っているだろう。シャルロッテ」
楓の表情がすっ、と変わった。
まるで全ての感情を失くしたような人形のような顔。
その顔が不気味な笑みを浮かべる。
「あら、気づいていたのね」
「本物の楓は?」
「最初からここには来ていないわ。地球であなたのことを心配しているんじゃないかしら」
何処まで本当かわからない。
嘘の塊で構成されているこの女に質問すること自体、間違っているのだろう。
しかし、僕はさらに質問する。
「この馬鹿げた撮影をやめたらどうなるんだ?」
シャルロッテの顔が歪み、唇が左右に大きく釣り上がる。
それはもはや、楓の顔ではなかった。
およそ、人間とは思えない凶悪な笑みをシャルロッテが浮かべる。
「消滅するわ。この惑星も。私の大切な人も」
それが嘘か本当かわからない。
だが、この女に大切な人が存在するなど、とても信じる気にはならなかった。




