59話 代償
背後で巨大な爆発音がした。
大きな火柱と空を斬る閃光。
わきあがる大きなキノコ雲は、灼熱の爆風で砂を巻き上げ、炎をふりまき、一瞬の間に辺り一帯を破壊した。
シャルロッテ。
やはり、あの身体は偽物だったか。
最初に疑問を抱いたのは、名波さんの最後を映したビデオを観た時だった。
久米くんと田中くんに襲われてゾンビとなった名波さん。
普通なら三人は、残ったシャルロッテを襲うはずだった。
だが、その様子はまるでない。
まるで、そこにシャルロッテがいないようにウロウロとその場を挽回する。
ゾンビはゾンビを襲わない。
シャルロッテの身体は、最初からすでに死んでいて遠隔操作で動かされていたのだ。
一つの結論に至る。
最初から本物のシャルロッテは、クラスメイトの中に紛れ込んでいたのだ。
この惑星に拉致された時に入れ替わっていたのだろう。
「シャルロッテっ」
あの時のことを思い出し、『名波』に怒りが溜まっていく。
彼女が撃つことが出来なかった分は、俺がかわりに何度でも撃ってやる。
城はもう眼前にあった。
背中に装備した赤いマント『佐々木』の力で重力を無くして飛ぶ。
彼女に運ばれ、何度も移動した。
いつも少し遠慮がちに後ろから俺を掴んでくれた。
きっと、佐々木さんがいなかったらもっと早くみんなは死んでいただろう。
最後に移動した時、彼女は初めて力一杯後ろから俺を抱きしめた。
「あとで、また、ね」
そう言った佐々木さんと生きて会うことはもうなかった。
城の天板にゆっくりと着地する。
狙撃銃『暁』で撃ち抜いた望遠鏡と血の跡があった。
三年ぶりだ。
ついに追放された城に戻ってきた。
あの頃とまったく変わっていない。
きっとシャルロッテは地下の研究室にいる。
(待ってろ、今度こそ……殺……し……)
意識が飛びそうになり、その場にうずくまる。
スキルを多用し過ぎた。
このままでは復讐を果たす前に力が尽きる。
まだだ。こんな所では終われない。
そのまま、マントに包まり、目を閉じる。
鳥の羽根のような生地で出来た『佐々木』は心地よく、そのまま眠ってしまいそうになるのを必死に抑える。
最小限の休息で、回復しなければならない。
敵地で眠るのはあまりにも危険だ。
その時、ザーーと頭にノイズが走る。
前にも経験したことがあった。
見たことのない記憶がノイズの向こうから現れる。
「えー、テステス、聞こえますか? うっさーです」
「さっさんです。今回とっきーはお休みです」
「それでも三人あわせてうざっときです」
これはいつ送ったものだろうか。
時任さんが居ないのに能力は使えない。姿を現さないということなら名波さんが死んだ後だろう。
彼女はシャルロッテに救出を頼んだことをずっと後悔し、それからしばらく声も出ないほど落ち込んでいた。
「色々あると思うけど、復讐だけに囚われないでね」
「全部が終わった後のことも考えてほしい」
その後?
そんなことは考えたこともない。
シャルロッテを殺したらすべてが終わりだ。
「最後、アタシたちは泉くんに笑っていて欲しい」
「それがみんなが生きていた証なんだから」
再びノイズが走り画像が消える。
「ごめん、もう無理なんだ」
マントをぎゅっ、と握りしめた。
携帯の画面を確認する。
『出席番号 男子2番 泉 涼 』
『スキル クラスメイトの魂を武器にして使用する』
『代償 使用ごとに生命が削られる。残り寿命 36時間』
終わりの時はもうそこまで近づいていた。




