表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスメイトを全員殺された俺はその魂を武器にして復讐する  作者: アキライズン
第五幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/121

58話 名波 静 その6

 

「な、な、な、なな、みっ、う、う、う、うて、うってくれ」


 久米くめくんをしっかりと押さえたまま、田中たなかくんが叫ぶ。

 もう久米くんは田中くんに噛みついていない。

 すでに田中くんをゾンビとして認識しているのだろう。


「も、もう、いしきが、なくなる、はやく、はやく、はやく、はやく、う、うって」


 もう時間がない。

 田中くんに向けて大砲を構える。

 だけど、どうしても撃つことができない。


「来てよかったわ」


 シャルロッテが背後で呟く。

 いつのまにかその手にはビデオカメラが握られいた。


「感動のシーンがアップで撮れるもの」


 今までにない殺意が湧く。

 地面に落としていた携帯の画面が目に入った。


『怒りと恨みが200%充電されました。極大砲が発射可能です』


「うああああああああっ!!」


 携帯を踏み潰す。

 何度も何度も踏み潰す。

 画面が壊れると同時に、大砲になっていた右腕が元に戻っていた。


「そう、撃たないのね」


 その時のシャルロッテの顔は、形容し難いものだった。

 泣いているのか、笑っているのか、怒っているのか、喜んでいるのか、その全てが混ざったような、そんな顔をしていた。


「私は撃たない」


 後ろから久米くんと田中くんが私に迫る。

 振り向かず、そのままシャルロッテを見る。


「少し羨ましいわ。私には出来なかったから」


 背後から左右の首筋に噛みつかれる。

 もう恐怖はなかった。

 ありがとう、久米くん、いっぱい助けてくれて。

 ごめんね、田中くん、私、やっぱり撃てなかったよ。


 そして、さようなら、いずみくん。


 教室で青い紫陽花を持った泉くんを思い出す。

 涙が溢れ出す。

 その涙が黒く変色していく。


「青い紫陽花……」


 そう呟いたのはシャルロッテだった。


「あなたにぴったりね」

「……どうして?」


 頭に思っただけだった。

 何故、シャルロッテが青い紫陽花のことを知っているのだろう。


「悪いけど心も全部撮影している。そのほうが盛り上がるでしょう」

「ふ、ふざ、け、るなっ! わ、わたしのこころをっ!」


 言葉が上手く出せない。

 色々な感情が混ざり、思考が上手くまとまらない。

 泉くんとの思い出を汚された怒りが、何かに塗り潰されていく。

 自分が自分でなくなる感覚。

 そうか、私はもう……


「青い紫陽花の花言葉は耐え忍ぶ愛。告白出来ずに残念だったわね」

「わたしの、こころをっ! いずみくんとのっ、おも、おも、おもいでを、おまえがっ!」


 それは私がこの世で最後に見る想いだった。

 誰にも見られたくない。

 大切な大切な想いだった。


 教室で泉くんと二人で花の世話をしている。

 会話はない。

 だけど二人で同じ花を見ていることに、私は小さな幸せを感じ微笑む。

 泉くんも少しだけ笑って私を見た。


「おまえがっ、ふみにじるなっ!!」


 ぷつんと目の前が真っ暗になる。

 映画が終わったように、何もかもが消える。


「おやすみなさい、名波ななみさん」


 泉くんが最後に笑ってそう言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ