54話 如月 焔
「ふせろっ! 矢沢っ!」
砂漠の砂に足を取られながら大きく振りかぶる。
野球部のグラウンドとは比べ物にならない最悪な足場。
だが、外すわけにいかない。
ストライクを取らなければ仲間が死ぬ。
右手に作った炎の玉を思い切り投げつける。
火の玉は伏せた矢沢の頭上スレスレを通過して、魔物の顔面にぶち当たる。
ばんっ、と魔物の顔面が粉砕された。
砂で出来た魔物。
それをゴーレムと矢沢が呼んでいた。
「悪いっ、助かったっ!」
遠距離からの攻撃を得意とする私と矢沢は、魔物に近距離まで近づかれたら、圧倒的に不利になる。
だが、このゴーレムという魔物は、多少の攻撃では怯まない。
近距離戦闘者のいない私達の部隊にとって、かなり相性の悪い相手だった。
「ヤバイわ、こいつら目がないから魅了のスキルつかえないわ」
さらに宗近のスキルも使えない。
「ねえ、あたし、役に立たないから帰っていい?」
最初からそれが分かっていれば、宗近を連れてはこなかった。
早瀬と野田のスキルもここでは囮ぐらいにしか使えない。
「矢沢っ、もう少しだっ、持ち堪えろっ!」
「ちっ、今9回裏くらいか、如月 焔」
まだまだ山のようにいるゴーレム達。
せいぜい1回裏が終わったところだろう。
それでもやらなければならない。
誰かが、誰かの部隊がやらなければならない事だ。
ただ、小日向の思い通りということが気に食わなかった。
生き延びて、一言、いや一発ぐらいは殴ってやりたい。
「渓谷を抜けた所に砂漠が広がっている。その入口に多数の魔物反応があった。君達、第二部隊に先陣をきってもらいたい」
小日向の司令室に呼ばれ、そう言われた。
将軍スキルを使っていない。
私はサーイエッサーとは答えなかった。
「何故、スキルで命令しない?」
「使わなくても君が承諾すると思ったからだ。如月 焔一等兵」
「ふざけるな、第四部隊のように捨て石にするつもりだろう。受けると思うのか?」
「そうか、なら仕方ない」
小日向が右手をあげると、隣で立っていた安藤が敬礼する。
「第三部隊隊長 如月 八千代一等兵を呼んでくれ。彼女たちに頼むことにする」
「貴様っ!」
「そういえば、あの部隊には矢沢二等兵が好意を抱いている 瀬能二等兵もいたな。矢沢二等兵にも意見を聞いてみたらどうだ?」
聞くまでもない。矢沢は間違いなく、自分が先陣を切るというだろう。
それは、私も同じ事だった。
「ロクな死に方しないぞ、小日向」
「もちろんだ。すでに覚悟はできている」
妹の為、好きな人の為、私達は戦っている。
負けるわけにはいかない。
コールド負け寸前のゲームでも諦めるわけにはいかなかった。
「いくぞ、矢沢っ、完封してやれっ!」
「おらぁあああっ!!」
大量の火の玉と光の矢がゴーレム達に降り注ぐ。
それでも、ゴーレムの群れはまったく止まらなかった。




