5話 反撃開始
「も、もう、ダメだ」
クラス委員の本元くんが力尽きて膝をつく。
彼のスキルは何だったかわからないが、もう使えないようだ。
「い。いや、なによっ、やめてっ」
魅了のスキルを使ったわがままエロボディの宗近さんがゴブリン達に襲われている。
服を破られ、巨大な胸があらわになるが、誰も助けにいく余裕がない。
ゴブリン達の数の暴力に、スキルの力が尽きたクラスメイト達が絶望感に包まれる。
「諦めるなっ、立ち上がれっ!」
その時、大声を挙げたのは意外な人物だった。
「なんだぁ、チビヒゲがなに生意気言ってんだっ」
不良の矢沢くんが睨んでいた。
それもそのはずだ。
叫んだのはクラスで1番小さく、いつも矢沢くん達、不良グループにいじめられていた小日向くんだったからだ。
チビヒゲというあだ名は、顔がヒトラーに似てるからと、矢沢くんが油性マジックで小日向くんのヒゲを書き、一日中そのまま過ごしたことから付けられたあだ名だ。
「口答えするなっ、矢沢二等兵っ、直ちに宗近さんの周りのゴブリンを一掃せよっ」
「ああっ、誰が二等兵だっ、殺すぞ、チビヒ......」
「返事はサーかイエッサーのみだっ! 叫べ、矢沢二等兵っ」
「さ、サー、イエッサー!」
矢沢くんが小日向くんの命令を聞き、宗近さんの周りのゴブリンに矢を放つ。
「宗近三等兵は、ただちに後方へっ、守備部隊の中から魅了のスキルを実行せよっ」
「なにっ、えっ、どうなってんの、い、イエッサーっ」
絶対に人の言う事を聞かない宗近さんまで敬礼して、小日向くんの指示に従っている。
「矢沢二等兵はあと三発撃ったら休憩の為、後方へ、手の空いてるものは如月 八千代一等兵の水分補給のため、飲み物を運べ、彼女は自分の中の水分を氷に変えているっ」
「サー」
「イエッサー」
「サー、イエッサー、サーっ」
ものすごい的確なアドバイスを矢継ぎ早に指示していく小日向くん。
諦めムードだった戦場が一変する。嘘のようにゴブリン達が制圧されていく。
そんな小日向くんの頬にゴブリンの返り血が飛ぶ。
人が変わったように叫ぶ小日向くんは、頬に着いた血を自分の鼻の下に塗りたくる。
あの日、チビヒゲとあだ名を付けられた日のように、小日向くんの口元にヒゲがつく。
それは赤い狂気のヒゲだった。
「泉五等兵っ」
「い、イエッサー」
小日向くんに名前を呼ばれてすぐに返事をする。
逆らえない力がその声にあった。
俺にも何か指示をくれるのかっ。
「邪魔だからお前はあの女と一緒に壁の中に入れっ」
「サー、い、イエッサぁ」
俺は、ニタニタと笑っているシャルロッテの所へ、肩を落としながら向かった。