51話 時任 未来 その2
予知で見る映像には三つの種類がある。
頭の中に浮かぶ予知はまるでテレビの画面のようで、誰かが未来の出来事を撮影して、私に送ってくれているように感じていた。
その映像の縁 。
画面を囲む外枠の色が三種類あることに気がついた。
赤、青、黄色。
それは未来を変えれるか変えれないか。その難易度の高さを色で表していた。
赤の予知は未来変化が不可能な予知。
泉くんが未来で一人になる予知は画面の外枠が血のように真っ赤な色だ。
逆に青の予知は簡単に変化が可能な予知。
不注意の塊うっさーはこれまでに6回、未来を変えて死を免れている。
そして、黄色の予知。
この予知は変化させることにより大きな犠牲が伴う。
一回目は、森山くんが暁さんに撃たれる予知だった。
その未来を変えようとした時、別の予知が頭に浮かんだ。
それは森山くん一人でなく、泉くんを除いた第八部隊のみんなが死んでしまう未来の予知だった。
私は森山くんの死を知っていながら黙っていた。
そうするしかなかったからだ。
そして今回、再び観た黄色の予知は、久米くんと名波さんが魔物に襲われて死ぬ予知だった。
二人を助けに行こうと思った瞬間に新たな予知が頭に浮かぶ。
それは、第二部隊が全滅し、さらに私達、救出部隊も全滅する予知だった。
二人を救おうとすれば、必ずそれ以上の犠牲が必要になる。
黙っていなければいけなかったのだろう。
けど、私は話してしまう。
何も言わないまま、第二部隊の救出に行ったら、きっと私は後悔する。
そして、泉くんも……
「どちらも助ける道は無いのか?」
泉くんの問いに、私は頷く。
「二人を助けようとしたら、全滅する」
時が止まったような沈黙が続いた。
誰も何も話さない。
だが、時は残酷に流れていく。
このまま何もしなければ、第二部隊も名波さんたちもどちらも失うことになる。
「……第二部隊を助けに行こう」
絞り出すように泉くんがそう言った。
黄色の枠だった名波さんと久米くんの予知。
その枠が赤く染まっていく。
今、それは変えられない予知に変化しようとしている。
「あら、どうしたの? みんな、暗い顔をして」
いつものように飄々(ひょうひょう)とした顔でシャルロッテがやってきた。
どうやってここまで来たのだろうか。
歩いて来たにしては早すぎる。
「今、お前と話しているヒマはないんだ」
「あら冷たい」
泉くんの言葉にシャルロッテは、それでも変わらない笑みを浮かべている。
この時、私は彼女を見てどんな顔をしていただろう。
予想外の事が起こっていた。
赤く染まっていた名波さんと久米くんの予知が再び黄色に戻っていく。
絶対に変えられないと思っていた赤い予知。
まさか、シャルロッテはそれを変えることができるのか?
「シャルロッテっ」
初めて彼女の名前を呼ぶ。
いきなり私が大声を出したので皆が驚いて振り向く。
「私達を助けてっ!」
名波さん達だけじゃない。
もしかしたら、泉くんが一人になる未来も変えれるのではないか。
これまで出した事のないような大声で私は叫ぶ。
シャルロッテが私を見る。
その時の彼女の瞳を私は忘れない。
感情のない無機質な瞳に背筋が凍った。
「さあ、どうしようかしら」
その予知は突然やってきた。
それは初めて見るドス黒い枠の予知だった。
何処かの研究室だろうか。
大勢のクラスメイトたちが倒れていた。
皆、血塗れでピクリとも動かない。
周りには銃を持った兵士達が立っている。
その中心でシャルロッテが笑っている。
狂ったように笑いながら、くるくると踊るように回っている。
彼女は私達を助けない。
その事が今、ハッキリとわかった。




