禁話 観測者
警告
この話を読んではいけません。
禁幕は世界観が崩れる危険性があります。
禁幕は本編とは関係ありません。
不快に思う方は是非読み飛ばして下さい。
「なんだ、いつもの姿じゃないのか」
研究室のドアを開けると、シャルロッテが座ってノートを書いていた。いつもの金髪の姿ではないことに違和感を覚える。
「残念だけど壊れたわ。また変わりを見つけないと」
「そうか」
シャルロッテはこちらを見ずにノートに文字を書き続けている。次のシナリオを書いているのだろう。
「順位はどうだった?」
「四位だ。また一つ下がっていた」
観測者達ととこちらの世界を繋げているのは、一つのモニターだけだった。
そこからこの世界のランキングと感想が送られてくる。
それをプリントアウトしてシャルロッテに運ぶのが俺の仕事だった。
「感想、読んでくれない? 今、手が話せないの」
監督、演出、シナリオ、カメラ、主演、すべてをこなすシャルロッテが寝ているところを俺は見たことがない。
少しでも彼女の助けになればと、いままでの感想を読み上げる。
『好き!』
『現在に切り替わるタイミングがすごくうまい。テンポもいい』
『テンポと間がいい。回想と現実の切り替わるタイミングがちょー好み』
『面白いですけど全員死ぬことが分かってるので展開に対する興味が半減というか激減』
『タイトルと幕間で盛大なネタバレ食らってる印象』
「やはり、ここは賛否両論ね。バランスの調整が難しいわ。どう思う? 」
「何か一つだけでも謎を残しておくのはどうだ?」
「それいいわね。採用。続けて」
さらに感想を読む。
『味方が死ぬ事に耐性ないので終幕と幕間だけ観るという変わった観かたをしていますが面白いです』
『仲間の魂を武器にすると言う発想が凄いし、面白い』
『現在と過去が交互に出てくるのも、現在の主人公が特攻して復讐するバックホーンを無理なく伝え、過去では彼等がどういう仮定を経て現在へと繋がっていくのかを見れるいい表現だと思います』
「ここは彼のおかげね。もっとイジメて活躍してもらわないとね」
「程々にしてくれよ。加減を間違うと壊れてしまう」
「考えとくわ、次」
絶対に手加減しないな、と思いながら次を読む。
『悲しい話ですね、大好きです。これからも更新頑張ってください』
『本当に切なくやるせない物語です。好きです』
『もう伝えたい事が多すぎて全て伝えられないよ。でもとても綺麗な悲劇系の王道ファンタジーだと思います』
『こんな悲しみ与えてくれやがるなんて、ほんと性格が悪い監督さんですね』
『死んでいくのが辛すぎる! 何度観るのをやめたいと思ったことか……』
『切なくて観るのが辛い。でも観るのを止められない。結末が悲惨、悲劇と分かっている系の作品でここまで引き込まれた作品はなかった』
「……誰も死なないコメディとかにできなかったのか?」
「無理よ。私のクラスメイトは全部魔物になったのよ。そこからのコメディなんて無茶苦茶になるわ」
少しの沈黙の後、シャルロッテは口を開く。
「続けて」
『それにしても異世界復讐物かと思えば、動画サイトのランキング的要素というかなんというか……どんでん返しですね! 神的なものか、別の世界の人か知りませんが、最後はそいつらからの解放となる王道か、あくまで1つの作品内の登場人物として終えるのか……今後も応援しています』
「これはこの前の断幕の感想だな」
「この感想ではっきり分かった。観測者達の殆どはこの世界の仕組みをわかっていない。自分達の評価によって世界が無くなるなんて知らずに見ているのよ」
観測者の姿形はわからなかった。
モニターにその姿を見せることはない。
人の姿をしているのか。
肉体のない意識だけのアストラル体なのか。
想像もつかないような怪物なのか。
すべては謎に包まれている。
だが、一つだけ確かなのは、簡単に惑星一つを消滅させる能力を持っているということだけだ。
ランキングから外れた世界の消滅をモニター越しに何度も見てきた。
観測者にとってこの世界は飽きたら捨てる、ただの玩具に過ぎないのだ。
「次が最後の感想だ」
『登場人物が戦いの中で次々死んでゆく。にも関わらず気分が悪くなって観るのを止めようとは思わない。なぜなのか? と考えてみて気が付いた。皆、何かを貫き通して死んでいるからだ。そうである限り、だれ一人生き残らなかったとしても「バッドエンド」ではないのだと思う』
「いい感想ね」
「ああ、そうだな」
観測者達に飽きられ、ランキングから外れたら、シャルロッテも、俺も、この世界も、地球も消えてしまう。
しかし、その感想は心を打つ。
シャルロッテはすべてを犠牲にしている。
見返りも報酬もない。
あるのはただ繰り返される絶望だけだ。
その中で、この感想だけがシャルロッテの唯一の救いなのかもしれない。
「また来るよ、シャルロッテ」
感想が書かれた紙を置いて研究室のドアに向かう。
「ありがとう、またね。ピーーくん」
「俺の名前は隠しておいたほうがいい」
そう言うとシャルロッテは初めてノートから目を離して俺を見た。
「一つだけでも謎を残しておくってやつね。わかったわ」
意地悪な笑みをシャルロッテが浮かべる。
「あなたの名前にはピー音を入れるわ。これからあなたはピーーくんよ」
新しい呼び名に俺も思わず笑ってしまった。




