47話 名波 静 その2
「そろそろ私も行くわ」
リザードマン達から離れたシャルロッテは、出発の準備を済ませ、私達にそう告げた。
「どうして一緒に行かなかったの?」
「飛んで行く時に邪魔になるからよ。運べる定員は四人までみたいだし。彼の邪魔をしたくなかったの」
河合さんの質問に笑って答えている。
「後から行って、場所がわかるの?」
「わかるわ、でもその方法は秘密よ」
やはり、シャルロッテは信用できない。
できれば泉くんの所には行ってほしくない。
だけど、私には彼女を止めることもできなかった。
ここに来てから、私はずっと自分の無力さに打ちのめされている。
「どうして」
嘘をつかれるかもしれない。いや、これまでの話も全部嘘かもしれない。シャルロッテの行動はどこか全てが演技のように思えてくる。
それでも、この質問だけは彼女にぶつけたかった。
「どうして泉くんに興味を持つの?」
シャルロッテは私をじっ、と見る。
一瞬だけ笑みが消え、すぐにまた笑う。
「そんなの、愛してるからに決まってるでしょう」
やはり、なにかを演じているようにしか見えない。
「貴方も彼を愛しているなら追いかけた方がいいわ」
人差し指で私の鼻を軽く触ると、シャルロッテは背を向けて歩き出した。
「一つだけ良いことを教えてあげる。ここもずっと安全なわけじゃないわ。あのおチビさんが何故、教会をすぐに出たのか、考えてみて」
「それはどういう意味……」
シャルロッテは、会話の途中に背中を向けたまま、去っていく。
こちらを見ずにヒラヒラと手を上げて振っていた。
「やな事言い残していくね」
「うん」
「しかもまたライバルが増えたね」
「……彼女は違うと思う」
シャルロッテが泉くんを見る目には覚えがある。
生物の授業で解剖用のカエルを先生がケースに入れて持ってきた。
クラスの皆がカエルを解剖するなんて可哀想と騒ぐ中、何度も同じことを繰り返している先生は無動作にカエルを掴みあげる。
泉くんを見るシャルロッテの目は、その時カエルを見た先生の目とあまりにもそっくりだった。
感情のない無機質な瞳。
そんな目で泉くんを見るシャルロッテに嫌悪感が湧き上がる。
その時、ラインの通知音が聞こえてくる。
携帯の画面を見て、ぞっ、となる。
『出席番号 女子12番 名波 静』
『スキル 大砲』
『怒りと恨みを弾にして大砲を発射する』
『怒りが弾に充電されました。発射可能まであと70%』
慌てて携帯をしまう。
シャルロッテに対する感情は怒りなんだろか。
嫉妬、嫌悪、憎悪、今まで抱いたことのない感情が胸の中で渦巻いて気持ちが悪くなる。
100%になっても私はこんなスキルは使わない。
たとえ、自分が死ぬことになっても、絶対に使わない。
「どうしたの、大丈夫?」
「大丈夫っ、なんでもないっ!」
思わず叫んでしまい河合さんを驚かせてしまう。
気まずい沈黙が続いて、二人で黙ってしまった。
「おーーい」
それをタイミングよく消したのは田中くんの呼び声だった。
「どうしたの? 田中くぅん」
河合さんの田中くんを呼ぶ声がどこか甘えている。
本当に田中くんを狙う気なのか、彼女もどこまで本気かわからない。
「鈴木と二人で川辺の周りを探索していたら、妙な足跡を見つけた」
「えっ?」
河合さんが青ざめる。
私もきっと同じような顔をしているのだろう。
ここもずっと安全なわけじゃないわ。
シャルロッテが言い残していった言葉を思い出す。
「これから単独行動は禁止だ。なるべく皆で固まって行動しよう」
田中くんの言葉にうなづく。
すでに危険は私達のすぐ側まで迫ってきていた。




