44話 本元 博
「僕の名前は本元 博。クラスの学級委員長で今は一番隊の隊員だ。これより撮影を開始する」
僕のスキル記録の発動条件は簡単だ。
ただ、自己紹介して撮影開始を宣言すればいい。
今回も今までと同じように、魔物との戦いを記憶する。
「目標をセンターに合わせて撃つ。目標をセンターに合わせて撃つ。目標をセンターに合わせて撃つ……」
暁さんがブツブツと呟きながら狙撃銃の引鉄を何度も引いていた。
はるか先のハーピーの頭が次々と撃ち抜かれていく。
「いいぞ、接近する前に片付けろ」
「目標をセンターに合わせて撃つ。目標をセンターに合わせて撃つ。目標をセンターに……」
小日向君の声にもあまり反応しない。
目は虚ろで、暁さんはどこも見ていないように思えた。
だが、その狙撃は確実に魔物の数を減らしている。
「ハーピー、こちらに向かっていますっ! 南南西から七体っ! さらに南南東から八体っ!」
安藤くんの声に身体が震えた。
第四部隊を全滅させた魔物が迫ってくる。
暁さんが撃ち漏らしたら、僕たちはみんな、こいつらに喰われてしまう。
「西を矢沢二等兵、東を如月 焔《 (ほむら)一等兵で撃ち落とせ。さらに残存した魔物は真壁二等兵と大山一等兵で駆逐せよ」
「サー、イエッサー」
ハーピー達が生息する渓谷の手前に、真壁君のスキルで壁の砦を建設した。
そこに第一部隊と第二部隊で陣取る。
三名が抜けた第七部隊の二人、暁さんと野田さんも加わり、計十二名がここにいる。
小日向君が言うには、この二部隊で犠牲者を出さずにハーピーを殲滅出来るらしい。
そう僕のスキル、記録で第四部隊とハーピーの戦闘を見て判断したのだ。
「本元二等兵。君のスキルは単体では何の役にも立たない。ただ録画するビデオカメラ程度の役割だろう。だが、我が君の能力を有効に使うことでそれは優れたスキルに変貌するのだ」
かつて、僕は委員長として、クラスの皆を代表しているという自覚があった。
矢沢くん達、不良グループも僕の指示には渋々ながら聞いてくれる。
だが、今、その権限は、クラスで一番身体が小さく、いじめられていた小日向くんが持っていた。
「第四部隊の鰐淵一等兵にカメラを仕掛けろ。彼等の戦闘を参考にして対策を立てる」
「サー、イエッサー」
第四部隊は勝手に暴走して、単独で魔物退治に向かったと小日向くんに報告された。
だが、実際には小日向くんが女子を餌に彼等だけで戦いに行かせたことを知っている。
スキルは使い続けることで、その能力が上がっていく。
最初、使えるカメラは一台だったが、今は二台使えることを小日向くんには言っていなかった。
もう一台のカメラ。僕は小日向くんにそれをずっと内緒で仕掛けている。
「待ってろよ、今、助けてやるからなっ」
矢沢くんがハーピーに向かって、必死に光の矢を放っていた。
第四部隊の生存を信じているのだろう。
加藤くんと佐藤くんの遺体を見た時、彼はどんな反応をするのだろうか。
スキルのカメラで小日向くんを見る。
血で書かれたヒゲはさらに濃くなっている。
戦況が思い通りにいっているからか、その唇には笑みが浮かんでいた。
こうも短期間で人は変われるのか。
彼の意にそぐわなければ、僕もあっさりと使い捨てにされるだろう。
「全軍、前進っ! 残党を殲滅せよっ!!」
その声には誰も逆らえない。
僕達はいつものように叫ぶ。
「サー、イエッサーっ」




