43話 墓
「嫌だっ、何これっ! 二人とも死んでるんじゃないのっ!?」
傷だらけの鈴木くんと久米くんを見て河合さんが叫ぶ。
俺たちが第四部隊を救出に行っている間に田中くんたちは逃げた二匹のリザードマンを捕まえてくれていた。
縄で木にぐるぐる巻きに縛られて、口枷もつけられている。
「大丈夫、二人とも気絶しているだけだ」
二人の傷は浅くはないが、命に別状があるものではなかった。
むしろ、左目を潰され、腹から色々はみ出ていた鰐淵くんの方がよほど重症だった。
「いらねぇ、二人を治してやれ」
腹を硬質化することで、無理矢理傷を塞いだ鰐淵くんは河合さんの傷変換を拒絶した。
「いやぁ、絶対痛いよ、コレ。もう最後だからねっ。仏の顔も三度までだからねっ」
「ありがとう、河合さん」
耳をつんざくような河合さんの悲鳴と大号泣が聞こえた後、傷変換が無事に終わる。
田中くんが二人を背負って、洞窟に連れて行った。
草で作った簡易布団に寝かせると、佐々木さんが声をかけてくる。
「これ、持ってきたんだ」
それは加藤くんと佐藤くんの携帯電話だった。
どちらも変なストラップが付いていた。
将棋の駒みたいなものに文字が書かれている。
「根性」と「努力」。
修学旅行のお土産だろうか。
二人のセンスに思わず笑ってしまう。
「あぁ、カッコいいだろうがっ」
「文句あんのか、コラ、あぁん」
まるで生きてるように二人の声が聞こえてくる。
「これ、もらってもいいかな?」
「うん、鰐淵くんはいらないって言ってたからいいと思うよ」
携帯からストラップを外して、森山くんのカバンにしまう。
彼らも一緒に連れて行こう。
「あ、一応、携帯の画面見といてね。二人のスキル、ちゃんと確認しといて」
「え、どうして?」
「とっきーの予知。泉くんはみんなのスキルを詳しく覚えておいたら、後で役に立つらしいよ」
そういえば、最初のゴブリン戦の時、スキルのない自分が少しでもみんなの役に立とうとして、クラス名簿にスキルを書いていたことを思い出す。
「ありがとう、見ておくよ」
森山くんを埋めた川辺に行き携帯を確認する。
彼の遺体が眠っている墓には、大きな石が何個か積まれていた。
『出席番号 男子4番 加藤 孝太郎』
『スキル 長槍』
『自身の骨を媒体に伸びる槍を製造できる』
『出席番号 男子7番 佐藤 次郎』
『スキル 応援』
『対象に触れることでスキルの能力を倍化させる』
彼らのスキルをクラス名簿に書き写す。
これがいつか役に立つ日が来るのだろうか。
「それ、墓に埋めるのか?」
いつのまにか鰐淵くんが後ろに立っていた。
「二人、まとめて埋めてやれ。気持ち悪いくらい、いつも一緒だったからな」
うなづいて、穴に携帯を一緒に埋める。
鰐淵くんが巨大な岩を運んできて、その上に置いた。
「そういや、覚えてろ、て言ったよな」
鰐淵くんが二人の墓を見ながら言う。
腹を殴ったことをすっかり忘れていた。
二、三発、殴られる覚悟をする。
しかし、鰐淵くんは何もせず、墓から背を向け歩き出す。
「次、止めたらぶっ殺す。コイツらの仇は俺様が討ってやる」
今にも一人で仇討ちに行きそうな、そんな鰐淵くんに声をかける。
「次も、その次もずっと止める。二人に頼まれたんだ」
チッ、と舌打ちした鰐淵くんは、そのまま振り返らず去っていく。
その背中が泣いてるように見え、俺はそれ以上何も言えなかった。




